その昔、ヨネックスの4Eテニスシューズが人気だった。
私がテニスを本格的に始めたのが2006年。通い始めたのがインドアカーペットコートのテニススクールで、私を含めて周りの多くが使っていたのはヨネックスのカーペット用テニスシューズでした。
当時、ヨネックスのテニスシューズは「幅広」と「卵を落としても割れないショック吸収性」が売りでした。
「履いていて楽だから」と皆こぞって幅広シューズを買い求め、口を揃えて言うのが
「私は足が幅広だから4Eじゃないとダメなんだ」
といった話です。
時は流れてテニスシューズも本格志向の時代へ
2010年頃からアシックスが本格的なテニスシューズのプロネーションを始め、その辺りからテニスシューズ市場の潮目が変わったと思います。
アシックスは陸上競技で評価を高め、その売り方をサッカーや野球等の他スポーツに押し広めていったメーカー。そのプロネーションの基盤にあるのは
「プロ選手ではない一般アスリートであっても、パフォーマンスや怪我防止等のため、きちんとした機能を持ち、自分の足に合ったシューズを使うべきだ」
といったものです。
サマンサ・ストーサー選手のように未契約でアシックスのテニスシューズを使用する選手が居たり、毎年きちんと更新されるゲルレゾリューションシリーズは次第に国内での評価を得ていきます。
以前比較したように、作りで言えばアシックスはナイキと同等に感じます。製造コスト重視、あまり丁寧な作りには感じないです。
比較した中では、国内向けに企画され丁寧に設計されている感のあるプリンスのテニスシューズの方が私は良い印象を持ちます。
とは言え、メーカーのプロモーション、悪く言えば印象操作は市場やユーザーの認知に大きな影響力を持ちます。スポーツ用具の本格志向への流れは “テニスに限った事ではない”のは多くの方が感じるでしょう。他スポーツのニュースや写真を見たり、ランやジョギング等に関心があったり。普段からそういった流行に触れる方が増えるにつれ、それまで買っていたメーカーではなくアシックス等の本格志向路線なテニスシューズを選び始める。そして、色々なメーカーのシューズを使い比べている訳ではなくても「選ぶならアシックスのテニスシューズだ」という話が広まります。
※アシックスのテニスシューズが悪いと言っているのではありません。テニスラケットも同様ですが、各社散々テストした上で市場に出しているでしょうし、特定の能力を持つ人しか使えないような用具を市場に出すはずもありません。最大公約数から更にマージンを取った位の仕様で企画されているでしょう。つまり、○○社のシューズはダメ、△△社のシューズしかないなんて事は (そう言われている状況においては) 起こり得ないだろうという事です。後述する「足型」の話もその一例です。
ヨネックスはその後もしばらく4Eテニスシューズを継続していました。
というか、今でこそ室内カーペットのコート、テニススクールが続々出来ていますが、元々カーペットシューズは潜在ニーズが少ない製品。製品ラインナップの上位モデルとの作りの差、モデルチェンジしても「変わったのはデザインだけ?」なんて事が何年も続く感じでした。4Eモデルが残っていたのはモデルチェンジ上の都合もあったと思います。
ただ、本格志向に意識を持ったユーザー達は「楽だから」と幅広を求めないようになります。
できるだけ余分なスペースは省き足にフィットさせる方向性ですから「楽だから」幅広というのとは真逆の発想ですからね。
Wilsonが発売したラッシュプロ等は「足には本来衝撃を緩和するための機能があるから必要となる部分に必要となるだけの最低限の衝撃性を持たせる方がパフォーマンスは上がる」といった事をうたっていました。
クッション要素をかなり省いた設計になっていたWilsonラッシュプロ
こう言われると、ヨネックスの特徴であった「歩くとフワフワするような着地感」は適当でないような印象になります。
このような事が関係してか、ヨネックスは幅広4Eの製品をラインナップから外しましたし、卵を落としても割れないショック吸収性は宣伝文句の上位から消えてしまいました。
それでも幅広を求める人は居る
今現在、市場の現行製品に4Eのテニスシューズは無いかと思います。かつてプリンスが出していたような3.5E製品も見当たりません。現行製品で「幅広」や「WIDE」とうたうものは3E位なのでしょう。(ヨネックスは製品説明で”3E”と表記しています)
ここまで触れてきたテニスシューズのコンセプト変化を経てきたにも関わらず、現在でも
「足が幅広なので4Eのテニスシューズが良い。どこで買えるか知らないか?」
という話はよく見聞きします。
恐らく、物持ちが良く、ずっとヨネックスの4Eシューズを使用しているといった方なのでしょう。
そういった方に「時代の流れだからもう4Eシューズは販売されていないよ」と言っても
「”仕方ない” から諦めろ」と認識させるだけ
になってしまいますね。
私は、
メーカーが仕掛けた戦略から行った時代変化とは関係なく、「なぜ4Eシューズが無くなったのか」を知っておいた方がその方の今後のテニスシューズ選びにプラスになるはずだ
と思います。
本格志向の流れだけなら今でも
『本格志向の4Eテニスシューズ』が販売されていてもおかしくない
ですね。
4E、3.5Eといったテニスシューズが市場から無くなったのは
「実際には殆どの人に対して “必要ない” 企画だった」という自滅な側面があった
のでしょう。
だからこそ、本格志向をうたったE、2Eといった企画のシューズに履き替えた方々に足のトラブルが発生したという話を聞かないのでだと思います。
このSNSのご時世でも「○○のシューズを履いたら怪我をした」という話があるなら何らか広まっているはずですが、見るのはせいぜい「○○のテニスシューズは自分の足型には合わない」といった感想位です。
つまり、
「多くの方に取って4Eサイズといった幅広モデルは必要ではないし、きちんと選ぶ事によって現行の多くの製品の中から自分に合ったシューズを選べる可能性が高い」
のだろうと思います。
足型を計測してみた方が良いという話
私はアシックスの足型測定イベントで足のサイズを測ってもらった事があります。

その時の測定シートです。
私の足は身長に対して長め(サイズが大きい)で、足首からつま先までが長い”足ひれ”を付けたような形をしています。
足幅はそれ程広くないのですが甲部分が少し高めなせいか測定結果は左右等も「3E」となっていました。
私が測った当時に比べて、今は足型計測できる店舗も増えているようです。アシックスの直営店で行っているようですし、野球やサッカー、ラン等専用シューズを扱うショップが独自に導入しているケースも増えています。
足型計測が参考にできるのはテニスシューズだけではないですから自分のサイズを知っておく事は意味がありますし、逆に自分の足型、その数値も把握せず、自身の感覚頼り、或いは見聞きする評判を優先してテニスシューズを選ぶのはもったいないと思います。
店舗スタッフさんにアドバイスを受ける事はあるでしょうが、その人が正しく足型の事、各社のシューズの特性を理解しているとも限りません。自分の足について知っておいて損はないでしょう。買い換える頻度は多くなくても、今まで使ったことがない他メーカーのシューズの方が合う可能性は大いにありますよね。
3E、4Eという記号の意味を知る
テニスシューズを選ぶ際の基準の一つとなっている3Eや4Eという表記、何を表しているのかご存知でしょうか?
それらを決める基準になっているもののひとつが「足囲」です。
足囲を測る(足幅の周りの寸法の長さ)
足幅を測った所と同じ部分をメジャーでぐるっと1周まわし、厚みを測ります。
この時の長さを『足囲』といいます。
この周囲が“ワイズ”を選ぶ際のふたつ目の目安となります。※足囲は靴に足入れができるかどうかの重要なポイントです。
必ずしも1番厚い部分とは限りませんので、気をつけて下さい。
足の親指側、小指側の一番出っ張った部分を測った周囲の長さという事になります。
我々が「幅広だから」という “足の幅” だけではないのです。
“足囲” だからこういう形のシューズも作れる
実際にこんな極端な足型の方は居ないでしょうが、同じ3Eでも、
こういう甲高な3Eシューズも作れるし、
こういう幅広な3Eシューズも作れるのでしょう。
だから私のように「足幅はそんなに広くないけど甲が高いので3E」といった結果も出てきます。
実際にはE、2Eといったサイズは足囲と足幅で基準が決まられているようなので、そういう足型の人が居ないという理由とは別に足幅が極端に狭く甲高な3Eなんてシューズといったものは作られないでしょうが「同じ3Eでもメーカー毎に足型が異なる、メーカーが規定サイズの範囲で足型を設定できる」事は示していると思います。
メーカー毎に基本とする足型は違ってくる
テニスシューズを設計する際に各メーカーは「どういう足型を基準にするか」を決めているでしょう。「○○社は日本人の足型を研究して企画している」といった話や「テニスシューズは試し履きしてから選ぶべきだ」と言われるのもこの辺が関係してきます。
下写真は、左から、ナイキ、アシックス、プリンスのインソール(中敷き)です。
同じメーカーでも他製品だと違うかもしれませんが、ナイキ、アシックスに比べ、プリンスのインソールが土踏まず部分に少し余裕をもたせてあり、素材も作りも他2社とは全然違うのは一目で分かる位だと思います。
国内で販売されているプリンスのテニスシューズは国内でブランド運営をするグローブライド社の企画だと聞いています。(実際、海外で販売されているシューズはデザインも作りも全く違います。)
これらを見るだけでも「ナイキ、アシックスはグローバル展開を踏まえた足型? プリンスは日本人向けを考えた足型かなぁ」という感想になりますよね。(私はメーカーの回し者ではありませんよ)
自分の足型を測定し、特徴を理解し、各社のシューズを検討してみる
足型測定をする
やはり、まずは足型測定をし、自分の足の形やサイズを理解する事です。
成人の方なら、一度測定してしまえば、体重等と違い、足囲が急激に小さくなってしまうといった事はそうはありませんし、以前に比べて計測するハードルはかなり低くなっていると思います。ネットで検索すれば最寄りの場所が分かるでしょう。
測ってみた結果、足囲、或いは足幅が4Eの範囲以下であれば、ひとまず、
「自分には4Eシューズは必要ない。無理に探し求めなくて良い」
という選択基準が出来ます。
測定したサイズでシューズを選ぶ?
では、計測した結果から私は「3Eシューズの中から選べば良い」のかというと
そうとも言えない
のです。
恐らくですがメーカー毎に基準としている足型が違うのでしょうし、
そもそも「3E」のように製品説明で表記、明記しているメーカーは少数派なのです。
ヨネックスの他、最近テニスシューズで認知度を上げてきているミズノも表記しています。
また、インターネットで見るに「海外では2E、3Eといった記号をシューズ選びの基準としていない」ようです。
海外の大手テニス通販サイトTennis Warehouseにおいてシューズ選びの基準としているのは足の長さ(大きさ)と足幅だけのようです。
Measurement tips:
• Take your measurements at the end of the day, when your feet are the largest.
• Wear the socks you’ll wear with your new shoes when you measure.
• Measure both feet and fit shoes to the larger foot. If you are doing the measurement by yourself, you will get more accurate resultsif you sit in a chair when measuring. Don’t stand.
• If you have someone to help you take your foot measurement, standing is the best choice.
• You may take measurements in inches or centimeters. To convert inches to centimeters, multiply inches by 2.54.
女性ならBが基準、男性ならDが基準ですよとしてそれぞれのサイズ表を載せてあります。(男性と女性でサイズ設定が異なる)
前述した通り3E等と表記しているメーカーの方が少数派なのですから、普通にサイズで検索させ、足幅で選ばせるのは妥当なのかもしれませんし、普段段履く靴を選ぶ際、我々はサイズで探し、履いてみて足に合うかを確認するという手順で選んでおり、それと変わりませんね。
妥当な購入手順
・3Eといった表記はメーカーが表記している場合の参考にしかできない。
・実際、試着して確認しないと安心して購入するのは難しい。
・そのためには自身の足型を測定する事から始める。
・評判重視や「このメーカーしかない」といった決め方は置いておいて、店頭で『インソールを見させてもらう』等してそのシューズやメーカーの “方向性” を把握する。(細い、広いという話だけでは分からない)
・自分の足型とインソール等を見た足型が合っていそうなメーカー (及び 平面的には合っていなくても履いた際の立体的な当たり方が足型に合っているメーカー) の製品から試着して動きやすさや自分が求める目的に合う製品かなどを確認する。
といった手順になるでしょうか。
まぁ、何か特別な事が変わるわけではなく、
「試着して決めましょう」
という話ですが、選ぶ根拠が評判や過去に買ってみて問題なかったといった物から、自分の足型に合う、そのメーカーの足型がどういったものか理解している上で選ぶという変化が生まれる点が大事だろうと思います。
(本当に4Eが必要で困っている方は残念な状況ですが) 少なくても「4Eでないとダメだ」という固定概念のまま選び続けている方には、本格志向のシューズ選びをする方がパフォーマンスも上がり、怪我もしづらく、疲労も減る可能性があると考えます。
20年前と今とではテニスが大きく変わったように、スポーツ科学の研究等、シューズも (メーカー戦略以外で) 現時点で主流となった意味があるのだと思います。
価格面では型落ち製品を選んでも良いと思いますが、1~2年は普通に使うシューズで3~4千円の違いから下位の”楽”なモデルを選ぶのは勿体無いかもしれませんね。