テニスラケットの重さ
今回はラケットの重さについてです。
1994年にバボラがピュアドライブを市場に投入して以降、市販ラケットの基準は『100インチ、300g』になったと思います。
それ以前のトップモデルはWilsonのProstaff MIDやPrinceのグラファイトOSなど300gをゆうに超えたラケットでした。
もっと遡ればウッドラケットは400gを超えていたと聞きます。当時は女性でもそういうラケットを使っていたでしょう。
現状の一般認識で言えば、男性ならば290~300g、女性なら270~280gといった所でしょうか。
男性で310g、女性なら290gを超えれば「重い」、逆に260g代になってくると「軽すぎる」と言われる気がします。
自分に合ったラケットとは?
以前にも書きましたが、個人的にラケットは本人が気に入って使えるなら “どんなラケットでも使えばいい”と思っています。
ットでも使えばいい”と思っています。
メーカーは〇〇用という表記はしない
「初心者用 / 上級者用」「女性向け」「ベテラン向け」等はメーカーが決めたものではなく販売ルート上や世間の認識が勝手に決めているものです。
製品紹介の場で担当者が「女性の方に、ジュニアの方に」というのは販売サイドの意向に合わせて述べているだけです。メーカーのパンフレットやWebにそういった言葉はまず並びません。
メーカーも“本当に特定の人しか使えないラケット”を販売したりしません。
皆が使える最大公約数的なスペックの範疇でしか設計しないですよね。筋力が一定以上じゃないと使えないラケットなんて値段を高くしてもコストを回収できませんし、偏ったスペックのラケットを販売して怪我が多発してもメーカーが困るだけです。
ラケットの飛ぶ・飛ばない
ラケットを「飛ぶ・飛ばない」という表現をしますが、ラケットをスイングすることで得られる運動エネルギーをボールに伝えることを考えれば金属バットで打つ方がはるかに飛ぶのは想像がつきます。
ラケットはボールに当たることで“しなったり、ブレたり” して、ボールを飛ばす運動エネルギーの伝達を “ロス” します。
フレームの薄いラケットはよりしなりブレてロスが大きいし、フレームの厚いラケットはロスが少ないです。
昔から続くボックス型フレーム (ラケット面が小さめでフレームが薄く四角いラケット) のラケットの感想として、よく
「このラケットはしなってボールを飛ばす感じ」「しなってボールを掴んでから飛ばす」「しなりが戻る感じでボールが飛んでいく」
と言われますね。
これは打感の感想であり、実際起こっている事象を示しているのではないであろうことに注意すべきです。
そういう話を見聞きするたびに
「しなるラケットはトランポリンのようにしなりが復元しながら飛ばすんだ」
という刷り込みが起こり、皆が言うのだからそれが “当たり前” に変わります。
フレームが薄く “しなる” ラケットはボールが接触して “しなった” 状態はボールがラケットが離れて飛んでいくまで復元しません。
ボールに押される負荷がなくなるまで「しなりっぱなし」なのです。
ラケット固定の実験ですが、しなりが戻る前にボールは離れます。
n six one (90インチ)時代のフェデラー選手。普通に打っているのにラケットはブレ、歪みまくりです。
フレームの薄いラケットはよりしなりブレてロスが大きいし、フレームの厚いラケットはロスが少ないです。
つまり、「飛ぶ・飛ばない」ではなくラケット毎に「伝達ロスが大きい・少ない」と言う方が適当でしょう。
そう考えれば
「フレームが厚い変形しづらいラケットはロスが小さいから “飛ぶ”」
「フレームが薄い変形しやすいラケットはロスが大きいから” 飛ばない” 」
のは至極妥当なことです。
フレームの厚いラケットだけに “特別な飛ぶ仕掛け” がある訳ではないのでは見れば分かります。
使い勝手や打感を考えなければ、フレームが薄くても全く変形しない硬度のラケットがすごく飛ぶでしょうし、金属製のガットを使えば変形しづらいので尚更です。
最近はラケットの製造技術の進歩で「フレームは薄いけど素材の工夫や部分的に構造を変えて強度を増して変形しづらくする」といったラケットも出てきています。昔のように「フレームが薄いから飛ばない」と一概に感想を言えなくなってきているのはそのためです。
技量を上げればスピン量は大きく増やせる
また、皆が気にするスピンがかかるかからないは “道具ではなく自分の技量”です。
同じガットを張った同じラケットを2人の人が打ち比べて、一方はすごくスピンがかかって速いボールが打てる、一方はスピンがあまりかからずボールも遅いといった状況は容易に想像が付きます。
道具を交換してもスピン量が目に見えて増えるようなことは起こりません。(打感が違うから変化があるように感じたとしてもです。)
他にも、誰が使ってるとか人から勧められたといった理由でラケットを選ぶと人は自分のミスを道具のせいにし、再びラケットを変える事を考えます。
人は道具に慣れますが慣れるまでは違和感があるのは当然です。
1ヶ月、2ヶ月使ってみれば慣れることで以前の道具との違いを説明するのが難しくなるでしょう。
少し打ってみただけで「これは合わない」と判断できるはずもないです。
色んな意味で好きな道具を使えばいいし、使っていれば慣れてしまいますから。大事なのはその道具に愛着を持って使えるかですね。
ラケット面のサイズの違いを比較してみる
長尺ラケットの意味とは?

標準と言われるラケットのスペック
男性なら290~300g、女性なら270~280gといった基準を設けるのにも意味はあります。
ただ、270gと290gの違いが20g、1円硬貨20枚、100円硬貨4枚ちょっとの差です。
ボールの重さは約56~59g程、スピードを保ち飛んで来るボールの衝撃とラケット自体もボールに向かい動いていることを考えれば10~20gの違いで “ボールに打ち負ける打ち負けない”といった違いになるとも思えません。
少々極端ですが、“ラケットはそのままで手の甲に100円硬貨を4枚貼ればラケットを20g弱重くしたのと同じ” です。
その状態でボールを打つパワーが増すかと言えば多分殆どの人が “多分、変わらないよね”と思う気がします。
よくこういう質問があります。
「成人女性です。今270gのラケットを使ってます。コーチにラケットを重くしてはどうかと言われました。どの位のラケットがいいと思いますか?」
すると多くの人が
「270gは軽いので280g超にしたらどうか、しっかり振れる人なら290~300gでもいいかも」
と皆が口を揃えてアドバイスすることに私は “ものすごく違和感” を感じています。
“270gと280g” は10gの差です。ラケットの中央付近に1円硬貨を10枚貼り付けたら何がどう変わるんだろうと思います。
ラケット重量の違いで言われること
一般にラケット重量について言われる要素は2つあると思います。 1つは「軽いと打ち負ける」という考え方、 もう1つは「本人が問題なく振れるか」という事です。
軽いと打ち負ける
前述の通り、ラケットを10~20g重くした所でボールを打つ際のパワーが大きく変わる訳はないと思います。
打ち方に改善の余地があるなら、修正してラケットスピードを上げる方が余程効果があるはずです。“運動エネルギー= 1/2 x ラケット重量 x スイング速度^2 (2乗)” ですから効果が大きいのはスイング速度の方(他に正確に当てること)です。
「ラケットが軽いと打ち負ける」というのは普段使っているラケットより軽いラケットを使うと動かしやすさから打ち方が雑になり、“ボールを捉える正確性”が下がり、打ち損じが増えるから。
また、「重量が軽い」という情報が「打ち負ける」というイメージに結びついてしまうからだと思います。
普段使っているのと全然違う軽いラケットを試打程度で使えば打感の違いから「おもちゃのようだ」と感じるのは仕方ありません。
ただ、本来は270gのラケットにバランスを変えないよう20gのおもりを貼ったもの、おもりをはがしたものを打ち比べるなどすべきで、そうすれば重量の違いによる若干の感覚の違いを除けばボールの飛びに大きな違いはないと想像します。(重い方が丁寧に扱うのでボールを捉えやすいという点はありえますが。)
問題なく振れるか、扱えるか
もうひとつの “本人が問題なく振れるか、扱えるか” という点については270gのラケットを問題なく扱える人が20g重くなったからと言って急にスイングが困難になるというのは考えづらいです。
300gのラケットを使えば「重い」と感じるでしょうが使い続ければ1ヶ月も経たずにその重量に “慣れてしまう” はずで人にはそれだけの適用能力があります。
元々が筋力の上限に近い重さを使っているならまた違うのでしょうが、少なくとも270gは問題なく使えていた訳で、400g超のラケットを使う訳ではありませんからね。
本当の意味で自分に合うラケット
もしラケット重量について質問をされたら まず “ラケットのタイプ” から考え、各製品シリーズのラインナップから選ぶ要素として “重量” を考えるのがいいのかなと思います。
飛ぶラケットと飛ばないラケットの280gは実際に違いますし、メーカーによっては軽いラインナップは「Sラケ (ガットの本数が違う)」しかないなんて構成もありますから。
テニス関連は固定概念(ステレオタイプ)だらけ
周りで自分だけ
「ラケットの重量なんて本人の好きにすればいい」
などと言っていると
「あいつは変な奴だ」「常識も知らないヤツ」
とバカにされそうですが、世間で言われる「300gが標準」といった固定概念(ステレオタイプ)を自身で考えてみることもせず “常識” として共有している方が余程 “変” でしょう。
表面上は話を併せても、その実、本質に近い部分でラケットを考えるのが正しいラケットの理解という気がします。
私は、ラケットやガットの僅かな違いさえ、ものすごく大きな要素として捉えてしまう傾向が一般化していると感じています。
プロは道具を”どう使っているか”で思うこと
プロ選手において、数グラム、数ポンドの違いがプレイに影響するのは「感覚面 (打感)」の問題でしょう。
ゲーム中、プロ選手は頻繁にラケットを新しいものに交換します。
「ラケットを交換するのはガットが緩んで飛ばなくなるから」
と言われる事が多いですが、
私は、飛ばなくなるからではなく、
「ガットが緩んだりすることで “打感が変わるのが嫌だから” 」
だろうと思っています。
ガットのテンションは張った直後から、その頻度、速度は別にしてテンションが低下していきますね。
選手が試合中に急にガットを張り替える必要が生じた場合に用意できるのは当然『張りたて』のラケットです。
その選手が「張った1日後位の打感が良い」と思うなら、“前日” 張ったラケットを用意しないといけませんが、用意しておいた “前日張った” ラケットになんらかのトラブルがあり全部使えない (例えばガットの種類が違うとか) と急に分かった場合に代替手段がないですね。
1ポイントが勝敗を決める、勝敗に生活がかかっているプロ選手なら “道具に問題が起きる可能性” は減らしたいでしょう。
結果、
「当日でも試合中でも用意できる『張りたて、張った直後』のラケット、その打感を自分が使用する基準値とするのは “妥当” な選択だから」
と私は考えます。
プロ選手なら「1日経過後、あるいはそれ以降のテンション状態では良いプレイができない。」という事はないと思います。(『張りたて』の状態を基準にすれば違和感はあってもです。)
以前、YouTubeで見たインタビューで、鈴木貴男選手は「練習で使い、テンションが落ちた位の状態が案外好き。敢えて、前日使ったラケットをそのまま試合で使ったりする。」と言われていました。
また、多くの選手は道具を頻繁に交換したりしないでしょう。ガットの新製品が出るたびに (テストはするでしょうが) 頻繁に変えてみるなんて事はしないでしょう。
ラケットがモデルチェンジしデザインは変わっても、中身のラケットは十年以上前のラケットを使い続けていると言われる選手もいます。
それはプロ選手が技術が高いから道具が関係ない訳ではなく、出来るだけ同じ道具を長く使う方がメリットを感じているからだと思います。
冬場はボールが飛ばないからテンションを落とす?
「冬場はボールが飛ばないからテンションを落とす」
とよく言いますね。
確かに冬場は気温が低くなり、大気(空気)の体積が小さくなります。
ボール内の空気も収縮し、ゴム素材自体も気温の低下で “硬く” なることで柔軟性が減少するでしょう。
大気の収縮により分子の密度が増すので “空気抵抗” も増え飛びにくくもなります。(飛んでいくボールがぶつかる空気の粒子が “ギュッと” 集まってくるので飛びが減衰される)
ただ、ガットのテンションを5P下げてもボールが飛ぶようになることはありません。
いたずらではないですが、
普段使っているラケット、ガットで、本人に黙ってテンションを” 5P落として張っても” 殆どの人はその変化に気づかない
と思います。
「張るのが上手い、下手」とか言いますがガットを張る人によっても状態が変わるとよく聞きますね。張る機械のよっても変わりそうです。同じ50pでも状態は様々でしょう。
実際の所、人が違いを感じるのは “打感” だと思います。
冬場は温度に起因する様々な条件変化からボールを打った時に
「打感が硬く感じる」
から、テンションを落としてそれを軽減する、調整するという理由の方が余程しっくりきます。
「寒くなってきたらテンションを5p落としたよ」
その人がテンションを下げた理由は「飛ばないから」でしょうか?
「打感を調整するため」でしょうか?
まとめ
一般の人でも「打感が変わるから自分の技術が出せなくなる」と言う人が居れば強く同意できますが、僅かな違いが “物理的にボールの質低下に直結する”ように考え、互いにそう話しているのを見るのはすごく違和感を覚えるのです。