PR
スポンサーリンク
スポンサーリンク

手打ちを直したい、改善したい? (テニス)

その場で腕を動かして打つ

テニスをやっていると頻繁に聞く言葉が「手打ち」です。

その場で腕を動かして打つ

「あの人は手打ちだ」「あなたは手打ちになっているから直した方がいい」といった使い方をされます。

でも、手打ちとは何なのか具体的に説明できるでしょうか?

「体をうまく使えていない」「手や腕に力が入りすぎている」「手や腕でラケットを振っている」「体の使い方のバランスがおかしい」等々、色々な表現がありますが、これらを聞くと分かるのが「自分が見た印象をそのまま言っているだけだ」ということです。

テニスで何かアドバイスを受ける際も、人は「事象に対してそれを説明できる知識の裏付けを持たない場合、見た目の印象を “感想として” そのまま言う特性があることは理解しておいた方がよいです。

手打ちに対するコメントもそれで、他にも「打点が低い」「肘が下がっている」「ラケット面が上を向いている」「タメがない」「体を開くのが速い」等々テニスでは同じような表現で溢れています。

言われる側は、手打ちという言う位だから手だけでラケットを振っているということだろうというのは分かっても「体を使って打ってない」と言われてもどうすればいいか理解できないでしょうし、主な原因は合っても1つとは限りません。

肘が下がっているなら上げればいいとか、面が上を向いているから角度を直せばいいとか結果として現れている「形」を修正する対処療法で、原因から改善している訳ではありません。感想を述べる側の知識が足りないこともありますが、“これらの感想を元に改善と試みても殆ど効果がない” のは容易に想像できると思います。

今回は、手打ちの直し方という訳ではないのですが、参考になりそうな基礎的な事柄を挙げ、根本から理解していく事に繋がればと思います。

まず、何度か書いていますが、ボールに速度と回転を与えるのは、原則、ラケットスピードと当たり方だけです。ボールに伝わるラケットの運動エネルギーは「1/2 x ラケット重量 x スイングスピード^2(2乗)」と考えられるからで、手に持つラケットの重量は固定なので、スイングスピードが上がる程、ボールに伝わるエネルギーは大きくなります。

また、ボールに伝わる運動エネルギーは当たり方により、ボールスピードと回転量に反比例的に分配されます。筋力や運動能力関係なくスイングスピードが同じならボールスピードも回転量も同条件になります。

加えて、ボールに無駄なくエネルギーを伝えるためには「当たり方」が重要となりますが、それは「技術」も関連するものの、多くは「無駄のないスイング」に依存するものであり、力を込めてラケットを振ったり、バランスの悪い体の使い方をすることでスイングが不安定になり、「当たりが悪くなること」で簡単にロスが発生します。ボールが飛ばないのは「技術がない」からより、自分から不安定な当たりを招いている場合が多いわけです。

飛ばしたい方向にまっすぐ進める

続いて、ラケットに関する事です。

物体には “慣性の法則による力” が働きます。慣性の法則とは、止まっている物体はその場にとどまり続けようとするし、動いている物体は動き続けようとする(その運動を継続しようとする)という働きの事です。よく電車の急ブレーキで立っている人が倒れそうになることを例に挙げられますね。

ラケットはスイングにより動きますから慣性の力の影響を受けますし、慣性の法則によりそのまま動き続けようとする働きがラケットの軌道を安定させる要素になります。

具体的な機能について説明します。その前提となるのは最近良く言われる「脱力」です。

「脱力」も言葉では説明が難しい点ですが、プロ野球のピッチャーが140km/h以上の速球を投げるとして体や腕に8割~9割もの力を込めて投げるということはありえません。1球毎にそんな力を込めて投げていたら緊張する試合の中で百数十球を投げきることは無理ですし、リラックスした中で腕を振る方がはるかにスムーズに速く振れるからです。速く走るからと言って足に力を込めるようなこともしないですね。人の体の仕組みはもともとそういう風に出来ていて、経験上、人はそのことを理解しているのですが、テニスでラケットという道具を振ってボールに当て飛ばすという行為に意識がいくあまり、普段できていることができなくなるのです。

「脱力」とは「力を抜け」というアドバイスではなく、「普段リラックスして体を動かせている状態を保て」という理解が適当だと思います。そんなことを言われないと出来ないくらいに、テニスでは無意識に何らか体に力を込めているのです。

ラケットの動きに戻りますが、現代的なフォアハンドでは、構えの状態からテイバックをする際、ラケットヘッド側を立てた状態のままテイバックするように言われます。

旧来のテイバックのようにラケットヘッドを寝かせてしまうとラケットの重みが自然と手や腕にかかり、スイングを開始するまでの間、力を込めてその重みを支えないといけないからです。皆自然とやっていることなので意識しなくなりますが、テイバックした時点で既に手や腕に力を込めている訳です。

続いて、ヘッド側を立ててテイバックされたラケットは、スイング開始にグリップ側から手によって引かれます。

テコの原理で、バランスのあるラケット中央付近を支点に、下側(グリップ側)が引かれ、上側(ヘッド側)は反対方向に倒れていきますが、慣性の法則によりラケットはその場に留まろうとするので、グリップ側がどんどん引かれるにも関わらず、スイング方向にラケットが一直線になるまでヘッド側はその場を動かず、更に引かれる事で始めてグリップ側に追従して動いていきます。

ラケット慣性の法則

この慣性の力を伴うラケットの動きは「脱力」状態にあるゆえに起きることです。

続いてスイングです。

グリップ側から引かれたラケットですが、体の回転に伴って振られているのでラケットには遠心力(※)がかかってきます。インパクト向かって、ラケットヘッド側はグリップよりも外側、体から遠い位置に動いていきます。

ラケット軌道 慣性の法則

中心からの距離が遠くなる程、同一角度を動いた時の円周上の移動距離は長くなるので、グリップとラケットヘッドが同じ時間で同じ角度を動く事を考えればヘッド側の方が動く速度は自然と速くなります。

ただ、ラケットヘッド側を体から遠くすればいいという訳ではなく、テイバックで体に近い位置にセットしたラケットをスイングに伴って瞬間的に加速させヘッド側を体から離していく事でスイングスピードを増すという意味です。

よく、大きなテイバックを取り、体のまわりをグルッとラケットを回すようにスイングする方が居ますが、最初から体から遠い位置にあるラケットを時間をかけて回すには大きく継続的なエネルギーが必要で、そういったフォームではスイングスピードは上がりにくいです。ヘリコプターのローターの回転速度が上がるまでかなりの時間がかかる事は分かると思います。

道具の進化、エネルギー効率、速いテンポの現代テニス、ボールに近い位置から振った方が当たりやすい、体もブレにくい、どれを取っても体に近い位置から瞬間的にラケットを加速させた方がメリットが大きいことを示しています。

さて、ラケットに遠心力がかかると書きましたが、遠心力は物理的には存在せず、慣性の法則で物体が一定方向に進み続けようとしているのを、円の中心方向に絶えずひっぱり、進行方向を変え続けている状態を言うそうです。進む力と曲げる力の2つが組み合わさった事象ですね。

遠心力

ただ、ひもを結んだおもりを回すと分かるように、遠心力(慣性の力で進み続けようとしている物体を常に引き寄せている状態)がかかった物体は軌道が安定します。回っているおもりは回している本人が何か操作しているものではありませんね。つまり “ラケットに働く遠心力を人が邪魔しなければ自然と安定したスイング軌道を描く” と言えます。

テイバックからのラケットの動きに戻りますが、グリップ側から引かれたラケットですが、ヘッド側の速度が増すことで、インパクトに向けてグリップ側の位置をヘッド側が追い越すこととなります。

ヘッド側は遠心力(慣性の力)で進み続けようとし、進む中で迎えるインパクトとは関係なく更に前進、腕とラケットが一直線になった時点でそれ以上前に進むことができなくなり、遠心力に伴い、利き腕反対側の肩方向に巻き付く形でフォロースルーを迎えます。

こうやってスイングの最初から最後までのラケットにかかる力を考えてみれば、人が行うのはテイバックからのラケットの加速だけで、以降はラケットが慣性の力で動き続けようとするのは妨げないように補助できることが重要となります。人が行う “ラケットの加速を増す操作” 、”インパクトで力を入れる操作”、”フォロースルーでラケットをひっぱり上げる操作” 等はどちらかと言えばマイナスに働きます。(ラケットの動きを邪魔しない体の使い方ができている前提でこれに足す取り組みは否定しません。ただ、やらなくても十分なスイングができ、行う事でマイナスに働くのは勿体無いという意味です。)

一般的に「手打ち」だと言われている方はこれらラケットの自然な動きを重視せず、自らラケットを動かすようにしていることが多いかと思います。

もちろん、ラケットの動きのことだけでなく、これに体の使い方を加えることで、瞬間的な加速を補助したり、体のバランスを保ったりするのですが、今回はここまでにしようと思います。

因みに、トッププロ選手のフォハンドを打つ映像を見てみると「手の働きだけでボールを打っている?」と感じることがあります。

フェデラー選手のストローク練習

一般に言う「手打ち」との違いは、こういったラケットに働く力の特性を理解し活用している点で、仮に、追い込まれた際等、体を全く使うことなく、腕の動きだけでボールを打ったとしても、われわれにはそれを「手打ち」だと感じることはまずありません。

上手く言えませんが、最初に書いたように「手打ち」は手で打っているのが理由ではないからで、今回の話で言うと“ボールに力を伝える唯一の存在であるラケットの特性をうまく使えていないから” ということだからですね。

今回、具体的な事は書いていませんが、ラケットの運きを妨げない体の使い方もそれ自体難しいことではありません。人が元々持つ機能によるものであり技術や決まったルールを伴わないとできないことではないです。強いて言えば、ボールを投げる動作は、サーブに関わらず、フォアハンドでも共通する部分があると感じます。