ダブルスは雁行陣から習う
テニススクールに通っていると1クラスの人数や時間の関係もあり、ゲームはほぼダブルスの形式で行われます。
練習時間の中でダブルスに関係する練習 (4人での打ち合い、ボレー、アプローチ等ダブルスで使える技術の練習) が組み込まれる事も多いですし、その日の練習内容に関係なく1コマの最後10分程度は全員でダブルスのゲーム形式をやる事が多いです。
初心者がダブルスを教わる際、最初にやるのは雁行陣です。
よりレベルが高いクラスに上がる中で並行陣を教わり、「平行陣の方がより高度なダブルスだ」というフワッとした認識を持ちます。
雁行陣対雁行陣で行うダブルスは、自分のパートナーで前衛、後衛の役割に分かれる。
前衛は比較的ネットに近い位置、後衛はベースラインに近い位置に居る。
互いの後衛同士がクロスラリーを中心にボールを打ち合う。
1ポイントが終わったら前衛と後衛の役割が切り替わるといったものです。
(かなり大まかに言っています)
レベルが上がっても平行陣を使うようにはならない
スクールあるあるですが、初心者、初級、初中級、中級とレベルが上がっていっても積極的に並行陣を使おうとする人は殆ど居ません。
理由は「よく分からないから」かなと思います。
自分のテニスを上達させるのは自分自身
私は
『テニスの上達はあくまで自分次第。コーチや周りの人が上達させてくれるものではない。』
と思っています。
世界的に著名なコーチに教わったとしても上達できない人が居るのは想像が付きます。また、その際、恐らく殆どの方が「教わったら上達するとは思うけど、どの位上達するかはやってみないと分からない。」と思うでしょうし、その事は「結局、上達は自分次第だ」と皆、自覚している事を表しているのです。
2000本安打を達成したソフトバンクホークスの内川聖一選手は、横浜時代に元プロ野球選手の仁志敏久さんから
「常に考えて打席に立て。考えるというのは、うまく出来ても失敗してもなぜそうなったか自分で説明できるということだ。」
と教わったそうです。
また、野村克也さんは阪神監督時代、
「知らないより知っていた方が良い。考えないより考えた方が良い」
と思いつきや根拠の示せないプレイをする事に慣れてしまっていた選手たちに説いて回ったそうです。
「どうやって身体の機能を使い、動かし、打てば、プロ選手のような打ち方ができるのか?」
「自分の身体の使い方はどこが正しく機能していないのか?」
自分の打ち方を認識し、自分で考えるには知識が要ります。
大勢が一度に教わるスクールだけで十分な知識を学ぶ事は難しく、1回90分程度の時間、ボールを打ちながら同時にそれらを考えるのも困難です。
練習する以外の時間で知識を蓄積し、考え、それらを根拠にどう身体を使いラケットを使うのかをイメージする。それをボールの打つ機会で確認し、イメージと現実をすり合わせていく。
そういった取り組みの繰り返しこそが自分を上達させる筋道
だと思っています。
上達しないのをセンスが無いから、練習が足りないからと言い訳するのは勿体無いです。
ギリシャの哲学者エピクテトスは
「すでに知っていると思っていることを学ぶことは不可能だ」
と言いました。
テニスを続けていると多少なりとも自信が出てきます。「自分は出来ている」と思っている人は自分が出来ていない事に気づけず改めてそれを学べません。
知識を持ち、自分の状態をきちんと把握、分析できることが必要です。
また、出来ない事を出来ないままにして気にしない人、出来ない事に気づけない人も上達は難しいです。
簡単な事ですが、週1回のレッスンの中だけで考えていてはそれらに気づけません。
テニスの上達と異なり、ダブルスは人から学ぶ事ができる
テニスの上達には「ボールの打ち方」と「ゲームのやり方」があると思います。
ボールの打ち方は突き詰めれば10cmの違いを打ち分けるようなものです。そのような精度が要求される場面は限られますし、我々は多くの場合「数mのズレでミス」しています。
このため、ボールの打ち方については、漠然と「うまくなる」と考えるより
「自分が出来ない事を減らす」イメージで考えるのが良い
と思います。
得意なショット、打ちたいショットばかり打とうとする事が多いですよね。
テニスのポイントの多くはミスで生まれるので出来ない事を自覚して減らしてく方が相対的な意味での”上達”に繋がりやすいと思います。自分がやるべき事も明確です。
一方、ゲームのやり方は試合をやる上では重要です。
ゲームのやり方を理解しないまま試合(ダブルス)を行うのは「サッカーを知らない小さい子どもたちにサッカーの試合をやらせるようなもの」だと考えます。
ゴールキーパー役の子以外は全員がボールに集まり、自分が蹴ろうとするのは分かるでしょう。
攻めも守りもない、それぞれの役割もない、ポジション取りもない。そんな中で試合をやるのは良い形になるはずがないですね。
同じ小さいお子さんでも、サッカーに詳しければ、ポジション毎の役割、スペースを作らない、時間を与えない攻守の仕方、周りのメンバーとの連携や役割の関係性等を理解した上でそれぞれがきちんとプレイできるでしょう。
テニスにおいて、ダブルスは2人で攻守する特性上、その制約から生まれる戦術やセオリーがずっと蓄積されてきています。
このため、ダブルスの導入は入門書を読む事で可能です。
ボールの打ち方を説明した「テニス入門書」はテニススクールで教わる事とほぼ同じ事が書いてあるだけなので、コート上でコーチの説明を見ながら聞きながら練習する方が遥かにマシ、つまり買う意味はほぼ無いと思います。
一方、ダブルスのやり方を解説した入門書は、ダブルスを得意とするプロ選手やダブルススペシャリストの方が執筆されているものが幾つか出ており、写真や図解等が多いものを選んで1冊しっかり読んでみる、書いてあることをコートの上で1つずつ出来るようになっていく事が理解への道だと思います。
試合、特にダブルスでは戦術や攻守における位置取りが重要となり、セオリーを理解できていない格上の相手に圧勝できてしまったりします。(良い形で打たせないだけで相手は穴だらけなのですから)
なお、テニススクールではダブルスに繋がる練習を多く行うと言いましたが、「参加される方々がダブルスを理解し、実行できるようになるまで教えられない」のが実際の所だと思います。
主に時間と人数の問題ですが、同じ説明でも理解度は熱意やレッスン以外での予習・復習で違ってきますし、説明ばかりでボールを打つ回数が少なくなると不満に思う方が居る等、レッスン内容を最大公約数的に決めるしかない事情もあります。
「自分は分かっているから」と説明をきちんと聞こうとしない方も多いですよね。コーチは練習内容を説明する際、それが終わった後、参考になる情報を都度述べているはずです。それを聞き逃している方々が上達しないのは当然でしょう。
スクールによってはダブルス専門のクラスがあったり、コーチの方針でダブルス練習ばかりやるクラスがあったりはしますが、恐らくそれほど差は生まれていないのではないでしょうか。
毎回の練習でダブルスには触れるものの理解するまでは至らない。
レッスンの時間だけでそれ以外の時間に自分で学んだりもしない。
当然「ダブルスのやり方はよく分からない。平行陣なんて難しい。」と思い、周りの人も皆同じ状況ですから『うまくダブルスが出来る』のはもっと上手い人達なのだと考えるでしょう。
結果、レベルが上がってきて平行陣を習っても皆がやろうとするのは
『平行陣は使わず、雁行陣で後衛同士がラリーを打ち合う』
という図式になりますよね。
なお、男性に比べ女性の方が筋力に頼ったプレイが出来ない分、何かしら工夫をしようと取り組む印象を持ちます。コーチの例、うまい人のプレイを取り入れよう、マネしようという意識です。男性はその後の流れを考えない、考えなしに一発勝負を選びがちですね。
ただ、上達してくるとスイング速度を活かした打ち方等を取り入れざるを得なくなるので、女性のダブルスは「延々と終わらない」「すぐボールが浮いてしまう」「誰かのミスで終わってしまう」形になりやすいです。
男女のどちらが上とかではなく、それぞれの特性を自分の上達に活かすようにしたいでしょうか?
雁行陣の後衛同士がラリーを打ち合う意味
ダブルスで重要だと思う事がいくつかあります。
そのひとつは
「ダブルスは二人で攻守するものだ」
という“段前提”です。
他のひとつは
「ポイントを決めるのは前衛の役割だ (前衛が決められる形を作るのが後衛の役割)」
という事です。
今その瞬間にボールを打つのは自分なのでパートナーとの関係性は普通に練習しているだけでは実感するのは難しいです。
自分が打つ事を意識しすぎるあまり、ダブルスなのに
「自分が、自分が」というテニス
をしてしまいます。
スクールでのダブルスはパートナーがその場で決まる事が多いですし、自分以外の人の事をどの位信用しているかという事もあります。
テニスをやっている人は誰しも少なからず『自分がやってきたテニスに自信を持っている』ものです。自分のテニスの上手さは点数がつく訳でもなく、周囲の人と比較した自分なりの相対評価である事が殆どです。簡単に言えば「自分の方が上手いと周りの人をバカにしている」人達も少なくないと思います。そういった意識がパートナーを理解しようとせず、自分が打って全てを決めにいこうとする「自分が、自分が」プレイに繋がるのだと考えています。
私は、その場の勝ち負けより「良い形のダブルス」をやりたいです。それが練習だと思っています。同時にダブルスは1人ではできません。自分がやるべき事、出来る事をきちんとやれれば、結果、負けてしまおうが全然構いません。(やるべき事をやらないで負けたら残念ですけどね。)
スクールのレッスンでよくあるダブルスの例
スクールのレッスンの最後にダブルス形式でゲーム練習をやるのがお約束ですが、
4人全員が “自分” でポイント取る事を考えている。
雁行陣後衛同士が他2人無視でラリーを打ち続ける。
前衛はチャンスも何も関係なく急にそのボールに飛びついて横取り(ポーチ)する。
どんなボールが来るのか分からず、咄嗟に打つので腕や身体が伸びきってガシャッとしたボレーなる。
といったことがたびたび起きます。
「いかにもダブルスらしい」内容にならない。ちょっと気持ち悪い、締りのない決まり方。
ダブルスが出来ていない方々のゲームはそんな感じです。
プロの試合でも雁行陣の後衛同士がラリーを打ち合う、似たようなケースはあります。ただそれは色々な選択肢がある中で敢えて選び目的があってやっているもので同じではありません。
二人で攻守すればダブルスはどうなる?
普段からこういう内容に慣れていると
「雁行陣の後衛同士が打ち合っている最中に、前衛がそれを “横取り” するようにポーチするものではないのか?」
と思う方も居るかもしれません。
もし、「パートナーと2人で攻守する(2人でダブルスをする)」「後衛がチャンスを作り、前衛に決めてもらう」事が考えられていれば以下に上げるような展開が出来ます。
ケース1.
雁行陣の後衛同士がラリーを打つにしても同じ球種・軌道・コースを続けない。
右利き同士なら、センターに1球、相手前衛が取れない少し高い軌道 (或いは低めでボレーしづらい速度のあるボール)を打ち、回り込ませる余裕がなくバックで返球させれば角度が付けづらい。
ネット際に威力のない浮いたボールが上がるから、それを前衛に楽に決めてもらう。
ケース2.
右利き同士。ジュースサイドからサーブを打つ場面。
センターのTに近い位置にしっかりと入れ続ける事が出来れば、ベースライン中央付近からのリターンは角度がつけられず、バックで打つため強い返球もしづらい。
浅い浮いたリターンが来れば、前衛が1発で決められる。
これらは、
ダブルスに詳しくなくても「聞いただけでも十分ありえる、自分でも出来る展開だ」
と感じられるかと思います。
ケース3.
よくない例ですが、多くの人が打ちたがる “ワイドへのスライスサーブ” は、
曲がりに合わせてラケット面を当てるだけでクロス側に返せてしまう。
サーバーがそれを拾いにいくことでセンターが空いてしまう。
相手前衛がそれを見ていたら決めるチャンスになる。
という事が起こりえます。
これは「スライスサーブの威力が弱いから返球されピンチになった」のではなく、起こるべくして起きたサーバー自身が招いている状況です。
大して移動しないでリターンできてしまうコースに連続して打つ理由がないですね。「エースを取ってやろう」という方以外は「相手がリターンしてきたボールを見てから次をどうするか考える」意識かもしれません。スライスサーブなら、「ボディやセンターにも打つ」「速度や曲がり方も変える」等しないと相手は心理的負担もなくリターンできてしまいます。
ダブルスではボールに触らない時でも相手にプレッシャーを与えるのが役割の一つです。「相手が視界に入って邪魔に感じる」効果は明らかでしょう。
いくつか上げてきましたが、こうったものがダブルスの戦術、セオリーといったものになってきます。
「自分がサーブを打つ前にポイントを取る事、取られる事が決まっている」
のですから、ボレーがうまい、ストロークが得意といった事以前に、これらを知っているか知らないではゲームでの安定感が全然違ってくるのは想像が付きますね。
知らないより知っていた方が良い、考えないより考える方が良い
多くの人に取ってレッスンの最後にやるダブルスは “お遊びの時間” という感じかもしれませんね。ストロークならガンガン気持ちよく打ちたいし、ポーチも一か八かやってみて決まればOKだったりします。
テニススクールはクラス分けにより同じようなレベルの方と練習し、自分の技量を測る目安は周りとの相対的な比較です。全国テストで数値化される訳でもありません。
このため、周りの人に通用する、勝てる試合ができるなら多少不格好でも一発狙いで勝つ内容でも “遊び” のダブルスだから構わないと思うかもしれません。(同レベルの中なら負けっぱなしという事もないでしょうし。)
ただ、バックハンドストロークが苦手、ボレーが苦手、サーブが苦手と出来ない事がたくさん残ったまま「良いテニスをする」のも難しいと思います。
各自の技量は上達を目指すとして、ダブルスのやり方、ゲームのやり方を身につければ、それを理解していない、実行できない方々に “同じような技量” のまま負けなくなるなら、知っておいて損はない、考えてテニスをして損はないと思います。
同じようなレベル、技量だと思っていた人が急にダブルスがうまくなって全然勝てなくなったら周りの人は悔しいでしょうね。ムキになって強く打ってくるか、意地悪な事をしてでも勝ってやろうとしてくるかもしれません。”遊び”だと思っていたダブルスでも差がつくのは悔しいものです。
本来は『一緒のクラスに居る同程度のレベルの人達』ではなく『今の自分よりはるかに上手い人達』を見てそれに近づく、そのためには何をすべきか考え、行動するのが良い方向性、上達を目指すという事なのでしょう。
テニススクールのクラス分けという仕組みが「周りに勝てれば満足」な自分を作ってしまうのだと思います。(それ自体が問題なのではありません。少しでも「上達したい」気持ちがあるならです。)
子供が何かにチャレンジする様子を見て分かるように、
「出来ないことができるようになる」
のが上達を目指す最大のモチベーションだと思います。
テニスでは都度必ず”予測”をし、”ポジション取り”をする
最初に雁行陣のダブルスを習う際、
「前衛の人は、味方後衛がストロークを打つ際、相手前衛がポーチするのを警戒してサービスライン付近まで下がる。相手前衛がポーチをしなかったら、相手後衛がストロークを打つ際に自分が攻撃できるようネットに近い位置まで前進する。その繰り返し。」
といった事を教わると思います。
ただ、時速100km/hの割と遅いストロークでもベースライン間を0.85秒で飛んでくる計算になります。
人の反応速度は速い人でも0.2~0.3秒と言われますから
「相手が打ったボールが飛びはじめてから反応して追い始める」という事を繰り返していたら、すぐに間に合わなくなってしまう。
と想像が付きます。
前衛なら相手後衛との距離はより短く時間もない状況になるのですから “余計に” です。
だからテニスでは相手がボールを打つ際は毎回必ず『予測』をし、それを元に自分が次にどうするのかを『判断』します。
「ゲーム力」これが身についてないとトップレベルに上がれない
YouTubeチャンネル テニスフォーラムさんの講習会での映像、井本善友コーチが “ゲーム力” という表現で『情報から判断・予測する能力』の重要性を説明されています。
・自分と相手の場所、位置関係から次に何が起きるか判断・予測
・自分がボールを打つ際の打感や音から次に何が起きるか判断・予測
・打った後の自分のボールを見て次に何が起きるか判断・予測
・打ったボールに対して相手がどの程度離れているかで次に何が起きるか判断・予測
・返球しようとする相手の技術的動作(スライスかスピンか等)で次に何が起きるか判断・予測
・相手が打ったボールで次に何が起きるか判断・予測
選手達はこれだけの事を相手がボールを打つたびに行っているのです。
そして、予測し判断した内容を元に、ダブルスでは
“ポジション取り” をし続けること
が攻守の両方において大きなポイントとなります。
プロ選手の試合等を見ると
「ダブルス特有の “ダブルスらしい” 細かい動きのやり取り」
だと感じますね。それは、
次にボールを打つ相手を観察し、判断し、予測する。コート上に4人居るプレイヤーがそれぞれに次に起こりうる状況を判断、予測し、自分がどこにいれば「攻守に追いて確率が高くなるか」を考える。その瞬間、自分が居るべき位置に “自分の判断” で移動し続ける事で生まれる。
のだと考えます。
「味方が打つから前、相手が打つから後ろ」といった状況に対する後付け、後手にまわる行動ではなく、
「相手があの位置から打つ。こういうコースにこういうボールを打ちそう。なら、それに対し自分が居るべきポジションはこの辺りだ。」
という判断をして自分で移動するのです。
予測し判断して動いている訳なので予測が外れてもそれに対する行動もしやすいです。相手が打ったボールを見てから判断する、動き出すのと時間的にどの位に違うが出るでしょう。
ボールはどこに飛んでくるのか?
「ボールは相手が居る位置。自分達の”前側” から飛んで来る」
当たり前のようですが、これが攻守のポジションを取る前提になります。
「スペースが空いているよ」と注意される事で、上空から見るように自コートの空いたスペース、それぞれが居る周囲以外の部分を気にされる方が居ます。
飛ぶ軌道の始まりは自分の前に居る相手ラケットの打点位置です。横や上から飛んでくる事は無いので、頭上を抜かれない限り、「大きく空いている」からと後方のスペースを気にする意味がないです。(ロブは良い状況、良い体勢で打たせないよう出来るし、予め予測していれば下がり目の位置取りでロブカットできる。ロブ = 味方とポジションチャンジが決まりではない)
相手が打つ位置から自コート側に無理なく収まる範囲を考えると扇形の仮想ラインが引けます。味方と2人で攻守するダブルスではその角度の半分は自分、もう半分を味方が担当するという前提で自分が今居るべき位置が考えられます。コート上をむやみに走り回る必要はないです。
また、「次にボールを打つ、ボールに触る相手の位置から自コート側のライン内に相手が確率高く打てる角度」を考えた場合、
1. 相手との距離が短くなるほど、自分が担当する範囲 (幅) は狭くなる。
2. ボールは 相手が居る方向である “前” からしか飛んでこない。頭上を越させなければ自分の後方のスペースを気にする意味がない。
3. コートの形、大きさ、ネットの存在から、コート上の全ての位置で “打つには確率的に難しいコース” が存在し、使える球種や球速も(確率的な)制限が生まれる。
といった事が分かってきます。
自分が今、どこに居れば確率高く守れ、攻撃できるのか、相手の攻撃を確立の悪いものに出来るのか、それは全て予測と適切な判断から生まれます。
そういう取り組みを行わないまま良いダブルスをやるのは無理だと思います。
それが、皆が「ダブルスっぽくないダブルス」になってしまう理由ですね。
図: ダブルスにおけるポジションの取り方
ボールは相手のラケットの位置から飛んでくるので自分より後ろのスペースが有っても構いません。相手が居る前から飛んでくるボールにどう触れるかが大事です。
飛んでくるコースを示す扇型の角度は後ろに下がるほど幅が広くなるので、相手の打つ位置、予想される球威等から
「攻撃できるよう前に詰めておくべきか」
「相手が攻撃してくるけど距離を詰めて牽制すべきか」
「相手との距離を取って守備しやすくするべきか」
「敢えてスペースを空けてそこに打たせるよう誘導すべきか」
と言ったことがその場で考えられるようになります。
常に相手が打つコースを2人で消す
ダブルスでその瞬間ボールを打つのは4人居る中の1人だけです。
自分とパートナーがそれぞれ、飛んでくるボールのコースを予測して自分が担当すべき角度の中心線に沿って相手に正対します。(角度を2分割して半分を自分が担当)
「コートの形、大きさ、ネットの存在から、コート上の全ての位置で “打つには確率的に難しいコース” が存在し、使える球種や球速も(確率的な)制限が生まれる」
ので、それが
相手が打ってくるコースを予測する前提、自分達が攻守すべきポジション取りの前提
になるし、
次にボールを打つ、ボールに触る相手に位置取りや動きで視覚的、聴覚的な面からプレッシャーをかけて無理をさせる、ミスをさせる
基準にもなります。
打とうと狙っているコースに対し相手が視覚的に入ってきたら咄嗟にそれを避けようとし、それがミスに繋がります。
自分がボールを打つ機会でなくても、ポジション取りや動きで相手にプレッシャーを掛け続けたいです。その結果「一切ボールに触らずに勝ててしまう」といった事も起こります。
最後の移動は相手が打つ時に
ボールを打つ瞬間に急にコースを変えるのは難しいです。
ダブルスで、相手がボールを追いかけている段階から飛んでくるコースに入ってポーチを待ち構える方が居ますが、その移動は周辺視野で相手に認識されているのと考えるのが妥当です。(ボールに夢中で相手コートの様子に意識が向けられない方に成功しているだけ)
だから相手の打つコースや球種を予測してポーチ・攻撃に向けたポジション取りをするにしても「最終的な位置への移動」は相手がボールを打つ瞬間、もうコースが変えられないという段階に行う事が望ましいです。
とはいっても難しい事ではなく、
最終的に “自分が攻撃をしたい位置” は同じなので、扇型のコース上で相手の距離を詰めておき、相手が打とうとする瞬間まで「最終的な移動を我慢」してから “ささっと” コースに入っていく感じ
ですかね。
ポーチするフリをして早めに詰める事 (予想外に自分の所に飛んでくる事を警戒しつつポーチはしない) を続けてボールを打つ相手にプレッシャーをかけても良いですし、動き出すタイミングをギリギリまで送らせて「ボールを打った瞬間、相手が視界に出てきた」みたいな印象を与えても良いでしょう。
使うパターンを1つにしない事がとても大事になりますね。
位置取りする場所も、相手の特性や予測されるボールによっては、詰めすぎず中間的な位置を保つといった判断が出来ると守備面でも役立ちます。
ロブはどうする?
「ボールは前から飛んでくるから、その飛んでくるコースを2人で埋める。自分の後方や2人が居る以外のスペースを気にする必要はない。」と言うと
「ロブを打たれたらどうするんだ?」
と言われそうです。
1. 予測と判断でロブのサインを見逃さない
1つはやっぱり“予測”からの“判断”で
「相手がロブを打つサインを見逃さない」
ということです。
「相手にそれと分からないようにロブを上げる」というのは技術的に難しいですし、自分がミスするリスクも増えます。フラットやスライスロブなら『柔らかく』打つ必要があるし、トップスピンロブを精度高く打てる方は多くないです。
ロブは「攻撃されてロブに逃げる」というイメージがありますが、実際には予測をし、相手のボールに対してその選択肢を想定した上で苦しい中でも方向や高さを “狙って” 打っている感じです。(余裕がないように見えて自分の中では余裕を持てている)
つまり、『予測し、判断する』事が出来てない段階で咄嗟に打つショットではないのです。このため、相手と打ち合う中、ミスする不安から咄嗟にロブに “逃げて” しまうとミスかチャンスボールになります。
ロブのようなショットこそ「自分から意図して打つ。狙って打つ。」だと考えます。
原則にはなりますが
「インパクトでラケット面が向いている方向にボールは飛んでいく」
事になります。
右を向いたラケット面から左に飛んでいくというのは “基本的には” ありません。(飛んでいくにはそうなる理由がある)
咄嗟に打ち方を変える、相手に分からないようにロブを上げるのは多くの方にとって難しいですし、トップスピンロブを含め、速いスイングで打つショットではないので、予測を元に判断する事を習慣づけて居れば、
「あの位置、あの体勢、あの人の特性ならロブを打ってきそうかな」
と判断するのは難しくないと思います。
2. 簡単にロブを打たせない
女子ダブルスでは相互にロブを打ち合う、打ち合い続けてポジションチェンジが頻繁に起こるといった事が多いですね。
この理由は「ボレーが得意とは言えないから並行陣を好まない」「ボールの特性でチャンスを生み出し前衛に決めてもらう流れが作りづらい」等々あるでしょうが、大きな点は、
「時間的余裕がある事」
かなと考えます。
咄嗟の判断で精度の高いロブを打つ、打ち続けるのは難しいと書きました。打ち合う速度がそこまで速くない、雁行陣でベースライン後方から打ち合う形だからこそ、ロブを打つ時間的余裕が確保できると言えます。速いストロークを打たれたらおいつくので精一杯でしょうし、サイドに切れるような角度のあるストロークでも同様でしょう。
つまり、
相手の時間的余裕を与えないボールを打てれば、それまで通りの「とりあえずロブを打つ」という選択が取れなくなる
でしょうね。
時間的余裕というのがポイントでこれは「速いボールを打つ」だけではありません。(強く打とうとしたら自分の方がミスします)
・それまでより “前”、相手に近い位置で打ったら相手は準備時間がなくなる
・バウンドによりボールは失速する。相手に近い位置でバウンドすれば時間余裕がなくなる
・弾むボールは落下まで時間があり、弾まないボールだと時間的余裕がなくなる
・総じて「相手が予測しない」ボールであれば相手は時間的余裕がなくなる
のです。
相手が必ずフォアで打つ、同じような速度の同じような軌道のボールを打ってくると分かっているから「次はロブを打とう」と心理的に肉体的にも準備できます。
1球、1球、球種、速度、回転、弾み方、飛ぶ距離(深く・浅く)を変える。コンパクトと打ち方をしたりしっかり構えて引きつけてから打ってみたりする。
ボレーで返球するなら少し速度のあるボールを低く打つ。フワッとした軌道の深いボールを相手に近い位置でバウンドさせる。
等、同じ位置、同じ状況で繰り返し打たせないだけで相手は混乱し、良い体勢、良いタイミングで打てなくなります。
技術が高くないとできないような気がしてしまいますが、自分は「予測と判断」により準備が出来ている訳なので「ここにこういうボールを打とう」と考える余裕は持てています。自分が出来る事の中で工夫すれば良いだけです。確率が下がる難しい事をやろうとする必要はないです。
3. スマッシュやハイボレーの練習をする
最後にスマッシュやハイボレーの練習をすることです。
女子ダブルスでロブを多用するのは「ボレーが得意とは言えないから並行陣を選ばない」と書きました。
女子に限らず、ボレーが苦手だからネットに出ない、ストロークで打ちたいから雁行陣を守り続けるという方は少なくないと思います。ストロークで打ち合うと(自分技量の半にで)「テニスをしている」感じもするでしょう。
でも、テニスは「確率のスポーツ」である事を無視はできません。
スクールのダブルスで雁行陣、相手後衛のコーチとストロークを打ち合うとしましょう。自分がどんなに自信があっても高い確率で自分の方が先にミスするはずです。
一発エース狙いや相手の裏を突こうと無理は選択をする。強く残る決まった記憶の裏で遥かに多い失敗があります。ダブルスの勝ち負けもたまたまではなく、自ら確率低い選択ばかりした結果かもしれません。
私は、
多くの方にとってのテニスの上達とは「出来ることを伸ばす事」ではなく「出来ない事を減らす事」だ
と考えています。
バックハンドが苦手、サーブが苦手、ボレーが苦手。たくさん残ったままになっている出来ない事、精度高く再現できない事を少しずつでも減らしていく方が「強いフォアハンドを打つ」事ばかり練習するより遥かに
「その場で選べる選択肢は増え、且つ確率も高くなる」
でしょうね。
ボレーが苦手なら全部いきなり改善しろとは言いません。ミドルボレーのある高さ、あの範囲が打てるようになったら「そこより少し低い位置はどう打てばよいかな」と考え、少しずつ出来ない事を埋めていけばよいです。むしろ。「1つのフォアボレーの打ち方で全部を賄おう」とする方に無理があります。(打ち方は変えずに “しゃがんで” ローボレーを打とうとしたりする)
スマッシュもサーブと同じではないし、フルスイングして打たなければスマッシュではない訳でもないです。スマッシュで必要なのはまず高いコントロール。色んな位置、高さから狙った場所に丁寧に確実に打てる。ネットしない、アウトしないボールが打てる事が最低限求められる事ですね。コーチの球出しをフルスイングして簡単にアウトする方は「状況を考えられていない」です。それがゲームの位置場面なら「スマッシュをミスした時点で次の球出しのボールはない」のですからね。
女性の方で自身の背の高さを気にして「高いボールが苦手」だと言われる方が多いのですが、
「ジャンプすることを考えなければ伸長が影響するのは最高到達点の高さ。ボールは必ず “地面に向かって落下” してくる。相手は必ず、自コート側の規定ライン内に1度ボールをバウンドさせる必要があるし、そのボールを2バウンドするまでに打てば良い。そう考えれば、自身の最高到達点の違いに大きな意味があるとは言えない。」
と考えます。背の高い人が届く位置から1mも下がれば、子供でも同じ体勢で触れたりするのは想像できますよね。
この「高いボールが苦手だから頭上を越されないようにしなければいけない」という発想は
予測が出来ていない、それに基づく判断が出来ていない、そこからのポジション取りが出来ていない
という事の裏返しです。
そう言われる方の多くが
「ここと決めた場所から動こうとせず、小走りにあまり進まないような走り方をし、相手が打ったボールを見てからそれを追いかけ始めるといった具合」
かなと思いますし、同時に
「ボレーが苦手、スマッシュが苦手と言いながらそれを改善しようとする取り組みもされていない」
気がします。
「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」のでプロのような打ち方ができなくても最低限テニスは出来てしまいます。
この事が、自分が出来るようになる未来、改善されている自分を目指す事を諦めてしまう、今のままで十分出来ているといった意識に繋がるのかなと想像します。
予測と判断、それに基づく位置取りさえできればハイボレーもスマッシュも難しいものではないと思います。
ロブを上げてポジションチェンジさせるのを “普通” だと思っている相手なら、たびたびロブカットされ、甘くなれば、強いボールでなくてもスマッシュを打たれてしまうなら、(他に手段を持っていないので) ロブを上げる選択肢自体は変えなくてもかなり “戸惑う” 事でしょう。
予測をしつつ試合映像を見る
「テニスに予測は必要」と言ってもそれまでの日常生活での経験の応用から皆、何かしらの予測はしているものです。
「あの人の打つストロークは速度がないから次のボールでポーチしてみよう」
「あの人はいきなり強打してくるから怖い。ちょっと脇に避けておこう」
といったものがそれに当たるでしょうか。
「テニスだから特別な何か」ではなく、普段から自分が行っている事をテニスに当てはめて活かしていきたいです。
でも、コート上でボールを打ちながら予測とそこから生まれる判断の事を考えるのは大変だと思います。
私は
「ボールを打つ経験をしないで上達するのは難しいが、考える事をせずテニスを上達させる事はもっと難しい」
と思っています。
コート上でボールを打つ1~2時間以外の時間で自分のテニスについて考える機会を設けたいです。考えるには知識が必要で、疑問に持ったことはそれを説明できる根拠となる情報を探します。練習の中で気づいた事を、コート外で考え、復習・予習し、次の練習で検証する。そしてまた考える。その繰り返しが “上達” への一つの道筋になります。
私が良くやっているのが「予測をしながらテニスのハイライト映像を見る」です。
テニスの試合は2~3時間と長く、時間がある時でないと通して見るのが難しいですね。
こういったハイライト映像はYouTube上にもたくさん載っており、ポイントが決まるシーンばかりが続きます。繰り返し見て覚えてしまっても構わないです。
「この状況ならこの選手は次にこういうコースにこういうボールを打ってきそうだ」と予測していけば、実際のコートでも同じような状況が訪れた時にその事が自然と思い浮かぶようになるでしょう。
スマホひとつあればどこでも出来るし、資料には事欠きません。誰でも出来、手軽で効果のあるトレーニングだと考えます。
スクールレッスンの最後にやるダブルスをお遊びタイムにしないために
普段からも馴染みがあり、コートを借りてテニスをやるにしても人数や負荷の問題で我々がゲームを行う際はほぼダブルス形式です。
スクールのレッスンの最後に行うダブルスはレッスンのおまけ、気晴らしや遊びに近い感覚かもしれません。うまくポイントが取れればいいし、ポイントを取られてもレッスンが終わったら忘れてしまうかもしれません。でも、どうせやるなら思うようにうまくできる方が良いはずです。
色々な制約もありスクールではダブルスのやり方をしっかりと教わらない。ただ、テニス自体は”教わるものではなく自分で上達するもの(ボールを打つ技術)”だが、ダブルスは”セオリーや戦術(戦い方)”を学ぶもの(学問的)と書きました。テニスは簡単には上達しませんが、ダブルスは学ぶだけで周りに明確な差をつける事ができます。
なお、書いた通りダブルスは1人ではできないので出来ればいつもやるメンバーと理解を共有できると良いですね。自分だけ実践しようとしてもパートナーの後衛がベースラインでガンガン適当に打ち合っていては何も出来ません。
ダブルスは長い時間かけて戦術やセオリーがまとまってきているのでプロ選手等がまとめた読む意味のある入門書が何冊も出ています。(テニスの入門書で買う意味のある本はごく一部だけです。殆どがスクールで言われる事が書いてあるだけ。)
ダブルスをやる機会がある方なら手に取って読んでみるべきでしょう。図解も多く手順も同じようにまとまっています。学ぶほど上達できるって皆が入門書に期待するそのものではないでしょうか。
ダブルスの戦術やセオリーが実践できるようになるとそれを活かすための技術 (ボレーやストローク、サーブ等) をより磨こうという向上心にも繋がりますね。