セカンドサーブを打つときに緊張してしまう
試合等でサーブを打つ際は誰でも緊張します。都合2回打てる訳ですが2回目(セカンドサーブ)を入れないと失点になる訳ですから余計に緊張します。
テニスをやっていてよく聞く質問として「セカンドサーブで緊張してしまい入らない。どうやったら入るようになるのか?」「セカンドサーブはファーストサーブに較べてどの位の力加減で打てばいいのか?」「セカンドサーブはスピンサーブで打ったほうがいいのか?」といったものがあります。
こういった疑問に対しては、技術的な要素(上達)、精神的(練習の時から実戦を想定する)要素 で語られることが多いのですが、個人的にこれらの疑問が出る理由は「サーブを打つことに対する誤解があり、それはサーブの指導方法に問題があることから来ている」と思っています。
誤解というのは次のような点です。
・サーブには、フラットサーブ、スライスサーブ、スピンサーブと3種類があり、それぞれ打ち方がある。
・ファーストサーブは速度のあるフラットサーブやスライスサーブを使い、セカンドサーブにはスピンサーブを使う。
当たり前のことでは?? と思うかもしれませんが、何が変なのか書いてみたいと思います。
サーブを打つ際、ボールが飛ぶエネルギーはラケットから供給される
まず、ボールに力を伝える唯一の存在がラケットで、ボールを飛ばすエネルギーは、ラケットが振られるスイングスピードによって発生します。
ボールに伝わるラケットの運動エネルギーは「1/2 x ラケット重量 x スイングスピード^2(2乗)」で求められます。
手に持つラケットの重量は固定なので、スイングスピードが上がる程、ボールに伝わるエネルギーは大きくなります。
また、ボールに力を伝える際に関係するのが “ラケットの当たり方” であり、どのようなボールが飛んでいくかは基本的に「スイングスピード」と「当たり方」によって決まります。
スイングスピードによりボールに伝わるエネルギーは、当たり方によりボールスピードと回転量に反比例的に分配されます。
回転量が減れば速度は上がり、回転量が上がれば速度は落ちる訳です。
プロ選手のサーブを見れば、ファーストサーブよりセカンドサーブの方がスイングスピードが遅いということはありません
。同じスイングスピードで回転量を上げることで速度を落として確率を上げることができるからです。
冒頭の質問にある「セカンドサーブで力加減を変える」というのは「スイングスピードを落とすこと」です。
考えてみて欲しいのですが、仮に1stを80%、2ndを50%の力加減で打つと決めても試合の緊張する場面で “自身の50%の力を正確に出すことはまず無理” だと思います。
緊張により自分の意思とは関係なく40になったり60になったりするはずです。
技術や経験のある人が敢えてスイングスピードを遅くしてサーブを打つ場合 (技術が上のプレイヤーが初心者等にサーブを打つ際、回転を上げることでサーブ速度を落とすことに限界がある場合、敢えてスイングスピードを落とすことでサーブの速度を落とす)を除いては、ファースト、セカンドの区別なくスイングスピードを落とす理由がないということを認識すべきです。
サーブの速度を落とす方法はスイングスピードを落とすことだけでななく、むしろ、その時々の精神状態に左右されるスイングスピードで調整することはサーブを不安定にする要因になります。逆に全て同じ速度で振ると決まっている方が迷わずに済むでしょう。
飛び方を決めるのはラケットの当たり方
上で「飛んでいくボールの速度や回転量を決めるのはラケットの当たり方だ」と書きました。
フォアハンドストロークで、殆ど回転をかけないフラットなボールを打つとして、そこからほんの少しだけボールの上方向にラケットを振り抜き前向きの回転をかけれればトップスピンになるし、ほんの少しだけ下側にラケットを振り抜き逆向きの回転をかければスライスのボールになるのは理解できると思います。
一般にイメージするトップスピンの打ち方、スライスの打ち方はその事象を発生しやすくするためにオーバーに表現されているものです。
同じことがサーブでも言えます。フラットサーブ、スライスサーブ、スピンサーブと3種類のサーブがありそれぞれに打ち方が決まっているように教わりますが、単純化して言えば、サーブの違いは “ラケットがボールに当たる当たり方によって回転量や回転方向が違うだけ” です。
普段そのような考え方をする機会はありませんが、フラットサーブとスライスサーブやスピンサーブの間には、回転量とスピードが違うサーブが数えられないほど存在するのは想像がつくと思います。現にスライスサーブと言っても人によって球種もスピードも全然違います。
3種類に分けること自体に元々無理があるのです。
教える側の都合で教え方が決まる
では、なぜ3種類に分けて指導されるのかと言えば、極論ですが「教える都合」だと考えています。
「サーブを打ち方は基本1つだけ。速度や曲がり方はボールへの当たり方によって変わりますよ」と言われても教わる側は理解しづらいし、説明する側も1人1人に理論から教えるのが大変です。
このため、ボールの曲がり方によってサーブを3種類にはめ込み、それぞれ教えることにしたのだと思います。
教わる方もその方が分かりやすくはなるのですが、本来の「サーブを打つ際の体の使い方は共通ですよ」という前提に触れられることはなくなり「それぞれの打ち方を覚えて3種類のサーブをマスターしよう」という教え方が一般的になってしまっていると考えています。
ただし、教わる側もやり方と手順が決まっていて「この手順通りに実行すれば誰でもサーブが打てます」という説明に安心するという面もあります。1人で10人近いメンバーに教えないといけないという効率面、身体の仕組みやボールが飛ぶ理由から説明しようとしても「理屈は良いから早く打たせろよ」という “実践派” が少なからず居るといった面もこういった指導が長く続いている要因です。教える側がすべて悪いという訳ではないのです。 |
また、サーブを打つ際の正しい体の使い方が細かく分析されるようになってきたのは1990年代以降位で、ウッドラケットからカーボン製にラケットが代わりガットが進化して回転がかけやすくなった時点から科学的な分析がされるまでのタイムラグで、回転をかけるサーブの打ち方が決まってきた。ただし、以降、見直される機会を逸しているということもあるだろうと思っています。
もし、教える側、教わる側に時間的に余裕があるなら、ボールが飛ぶ理屈から学び、サーブを打つ際の体の使い方と併せて理解できれば、初心者の段階から皆が回転のかかった確率の高いサーブが打てるようになり、応用としてスライス系、スピン系に発展させていくのも時間はかからないはずです。
余裕があるならというのは習得に時間がかかるという意味ではなく、初心者がテニスを学ぶ唯一の選択肢であるテニススクールが「教わる場」ではなく「ボールを打つ機会を提供する場」になっていることに関連します。
時間が限られ大勢が一度に参加するということもありますし、ボールを打つ前に理論の説明に時間を割いたら必ず「理屈はいいからボールを打たせろ」と言う “自称: 実戦派タイプ” の人が一定数居ますからね。
理屈を知らずスポーツをするのは逆に上達には遠回りです。
特に道具を使ってプレイしなくてはならないテニスにおいては、物理や運動学等様々要素が関連してきます。
ボールを打つ経験の中でこれらを具体的に理解することは難しく、目に見えて上達しないから、皆テニスを難しいと感じてしまいます。
ボールを安定して打つために必要な “技術以前のごく基本的な原則や要素” は教わる機会がほぼありません。
だから皆が「技術が上げれば、コツを掴めば上達するはず」と考えるわけですが、実際の所、スクールで熱心にボールを打っているだけで目に見えて上達する人は殆ど居ないでしょう。
稀に上達する人が居ても “センスや運動神経の差” とされ、教わっている訳ではないので実際そうなのでしょうが、自分で体感できない人も教わり理解できさえすればできるようになるものです。
長くなりましたが、「一般に言われるサーブの基本には誤解があり、ごく基本的な物理原則から言っても、ファーストサーブとセカンドサーブは同じ (同じスイングスピードの中で速度と回転量の分配が異なる) サーブから生まれる」と考える方が余程すっきりサーブについて理解できるのではないかと思っています。