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厚いグリップの方がスピンはかかるというのは過去の話かもしれない (テニス)

tennis forehand

厚いグリップで打つ方はスピンがかかるという一般認識

テニスを始める際に進められるグリップはセミウエスタングリップあたりですが、一般に言われる共通認識として

「厚いグリップで打つ方がトップスピンはかかる」

というものがあります。

厚いグリップで打つフォアハンドストローク

日本では軟式テニス経験者が多く、硬式テニスに移行する際、ウエスタングリップよりも厚いグリップでボールを打っている方もよく見かけます。

逆に、海外を見てもこのエクストリームウエスタンといった呼び方がされるグリップで打っている動画(選手、一般含め)はあまり見ません。

日本人は身長が高くないのでトップスピンの掛け合いのような打ち合いの中、

高い打点で打つにも厚いグリップの方が打ちやすい

という話も聞きます。

硬式テニスでトップスピンをかけるようになった経緯は?

昔、テニスラケットは木製でした。ボールが飛びにくく、スイングで得たエネルギーを回転に多く割り振るのが難しかったと思います。ラケット面も小さく「できるだけまっすぐスイングし、ラケット面を当ててまっすぐ当て、まっすぐ打っていく」というのが当然の状況だったと思います。

その中でも (技術的に難しく今ほど強い回転はかけられなかったにせよ) トップスピンを武器にする選手が現れ、ラケット素材もカーボンファイバー製になり製法も徐々に進化、ストリングス(ガット)も化学繊維のものに変わりました。

ラケットは軽量化され扱い易くなり、ラケットのしなる、たわむ、歪むで大きく発生していたエネルギーの伝達ロスが減る。

結果、一般の人でもボールスピードが上げられるようになり、同時に簡単にスピンもかけられるようになったことで、

「ストロークはスピンをかけて打つものだ」

というのが指導に組み込まれ、一般常識になった流れだと思います。

だいたい30年弱ほど前でしょうか。

 

ワイパースイングでトップスピンを打つのが広まる

トップスピン隆盛になった頃、クレイコートを得意とするプロ選手の中で「ワイパースイング」という打ち方が多く見られるようになりました。

“何をもってワイパースイングと言うか”は色々あるでしょうが上げるなら、

腕の肩、肘、手首の関節を内側に曲げる動作を使い、それらを体の内側に巻き込むように動かし急激にラケット、特にラケットヘッド側を引き起こすことでボールに回転をかけようとする打ち方

といった感じです。

ワイパースイングの典型的な理解

スクールでテニスを始める際、「トップスピンはボールの下側から上側に向かってラケットを振ってかける」と教わります。

トップスピンはボールの下側から上側に向かってラケットを振ってかける

ただ、

膝の曲げ伸ばしで伸び上がるような動き、腕を動かして “ラケット全体” を下から上に持ち上げるように動かしても「”ラケットのスピードは上がりづらい」

のはなんとなく想像がつくと思います。

それは、

ボールを前に向かって飛ばしたいならその方向に向けてエネルギーを加えるのが最も効率的で簡単。足や身体の力を使って “前に強く” ラケットを前進させていきたいのに、”上方向に” ラケットを引き上げる動作を行ってはエネルギーが働く方向、ベクトルがズレてしまう。

からです。

ボールを飛ばしたい方向角度に対し真後ろから90度で当てる

初心者の方への「曲げた膝を伸ばすように」等はボールへの変化 (回転) を分かりやすく体感させるための手法であり、それがそのまま「正しい打ち方」とは言いづらいです。

ワイパースイングを勝手に定義するなら、

“腕の動きでラケット全体を上に動かしていくためのもの”

というより、

“腕の各関節を曲げていく動作でラケット速度を落とさずエネルギーを回転に使える方法”

といったものだろうと考えます。

ラケットやガットの進化もあり、その昔、クレーコートの試合では、ものすごく回転のかかった軌道の高い山なりのボールを延々と打ち合うプロ選手の様子が放送されていました。

Gustavo Kuerten v Sergi Bruguera Highlights – Men’s Final I Roland-Garros 1997

それらの選手はウエスタングリップ以上の厚いグリップでボールを打っていたりしたので、それも

厚いグリップで打つ方がトップスピンはかかる」という一般認識に繋がった

のだろうと思います。

テニスは進化し、今現在、極端なワイパースイングで打つプロ選手は居ない

ここで言いたいのは

「目でわかるほどの極端なワイパースイングでスピンのかかった山なりのラリーを打ち合っていたのは今から20年以上前」

だということです。

テニス(主に男子プロテニス)は進化の歴史です。

今は大会出場選手のほぼ全員が200km/h超のサーブを打ち、全員がそれをリターンでき、150km/hを超えるものすごくスピンのかかったストロークを全員が打ち合えます。

過去登場してきた進化の流れ (ビックサーバー、それに対するリターン技術、道具の進化、相手の時間を奪う) の全てを男子テニス全体で吸収し、それらを出来ることが、今現在の試合に出られる前提条件になるからです。

スポーツ全般そうでしょうが、

「個々の才能で結果を残していたスーパースターの時代」から「選手全員がアスリート化し、平均的能力が高い時代」

になっています。

また、体調管理や体のケアの進化により選手寿命が延び、体力を温存するため及び道具及び運動能力の限界によるボールスピードの頭打ちに伴い、ボールの威力ではなく時間を奪い、短い打ち合いでポイントと取るというテニスになってきています。

「現代的なテニス (Modern tennis)」

「現代的なフォアハンド (Modern forehand)」

という言葉をすることがありますが、今や

“ワイパースイングでスピンをかける、ボールの下から上にラケットを擦り上げるようにしてスピンをかけるという打ち方をしているトップクラスのプロ選手は皆無”

であり、それは、

「そういった打ち方が非効率だと分かってきたから」

だと想像します。

スポーツ科学を含むテニスの進化により、身体の機能や仕組みをうまく使い、安定的に大きなパワーを発生し、怪我をしづらく、疲労もしづらい。

そういうテニスが現時点における『現代的なテニス』と言えるのではないでしょうか。

ボールが飛び・回転がかかる理屈

「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」です。

物体であるボールには物理の原則が影響します。

ボールが飛び回転がかかるのは、スイングによってラケットが運動エネルギーを得て、ラケットとボールが接触することでその一部がボールに伝わるから

です。

ラケットの運動エネルギーは「1/2 x ラケット重量 x ラケットスピード ^2 (2乗)」で表すことができ、手に持つラケットは1つだけなので単純に言えばラケットスピードが速くなるほどボールスピードや回転量が増す

のです。

ボールが飛び回転がかかるために利用されるエネルギーは、1) 速度を持って飛んでくるボールのエネルギーをラケット面で反発させる。 2)加速させ速度をもたせたラケットのエネルギーをボールに伝える。 の2つ

です。(ボレーは1メイン、サーブは2メイン、ストロークは状況により1と2を組み合わせて打ちます)

ラケットとボールは固定されておらず、ボールが飛び、回転がかかるためのエネルギー量と方向を生み出すには必ず「接触」が必要です。また、道具の特性やボールとラケットとの当たり方によって伝わるエネルギー量に必ず「伝達ロス」が生まれます。

これらは我々が教わる「ボールの打ち方」「ラケットの振り方」に含まれませんが、

「知っている」と「知らないままである」、「理解している」と「理解していない」ではボールを打つ事への理解、テニスの上達に大きな違いが生まれる

のはなんとなく想像がつくと思います。

ラケットには慣性の力がかかる

物体であるラケットには慣性の法則が働きます。

ラケットには慣性の力が働くので、停止状態にあるテイクバックの位置に留まろうとするラケットはグリップ側から手に引かれて動き始め、“ヘッド側のその場に留まろうとする力”が”グリップ側から引く力”と逆向きに作用するので、“スイング方向に進むグリップ側に対しヘッド側はその軌道の真後ろ方向に手を引っ張ります。

ただし、グリップが引く力の方が留まろうとする力より小さいので追従して動いていきます。

フォアハンドストロークのテイクバック

テニスラケットに働く慣性の法則

フォアハンドストロークのフォロースルー

また、体からより遠い位置にあるヘッド側はスイング途中でグリップ側よりも速度が速くなります。これは「距離 = 速さ x 時間」の公式通りで、同じ時間で同じ角度動く場合、中心から遠い物体の方が長い距離を移動する、つまり「速度が速い」という理屈です。

円周運動で中心から遠い物体の方が速度が速い

特にフォアハンド側が顕著ですが、

「手でラケットを引き寄せる」のではなく、両足で地面を踏み得られる反力や身体の力を連動させる事で 身体を回転させ、利き腕肩の位置が後方から身体の前側に戻す距離をラケットの初期加速に利用します。

両足と身体の力で利き腕肩を前進させる

スイング軌道の真後ろから追従してきたヘッド側は回転運動に伴う遠心力もあり、外側に膨らみながら、腕や体の位置を追い越して、慣性の法則により更に直進しようとします。

テニスラケットに働く慣性の法則とスイング軌道

スイング中ラケットヘッド側が腕や身体を追い越す

手に持たれているラケットは腕の長さ以上には前に進めないので、体を追い越したラケットは手に引かれる形で進行方向を曲げ、速度を落としながら非利き手方向へのフォロースルーを迎えます。

腕や身体を追い越したラケットは更に前進しようとする 

スイングしたラケットの加速度とラケットスピードは体を追い越して以降低下していく

ラケットの加速度(速度が増していく割合)は

“テイクバックの停止位置から加速を始めて暫くの範囲が最も速い”

と考えます。

上で述べましたが、スイングの序盤、中盤、後半を考えると、

初期加速に利用された”ラケットを引く” エネルギーは、ラケットヘッド側が腕や身体を追い越す時点では消費されてしまっており、身体や腕がそれ以上大きく前進しないのでグリップ側の加速は収まっている。

この事もあり、遅れた加速したヘッド側が身体、腕、グリップ側を追い越し、慣性の法則によりその直進運動を続け、身体の前に進んでいこうする。

からです。

ただ、加速に使われたエネルギーの消費は最終的にはラケットヘッド側の前進にも影響を生む (前進を助けるエネルギーが供給されない)ため、

「加速したラケットは体を追い越した後、加速度もラケットスピードも落ちていく」

ということになります。

これがフォロースルーです。

フォアハンドストローク フォロースルー

グリップの違いと打点の位置

フォアハンドで自分が”打点”だと自分が思う位置にラケットをセットした際、ボールを打ち出す角度に自然とラケット面が向く打点の位置はグリップの厚さによって自然と変わってきます。

下図の通り、グリップが厚くなるほど適する打点は体の前方に離れていき、グリップが薄くなるほど体に近くなります。

グリップが厚くなるほど打点は体の前方に離れていく

グリップが薄くなるほど打点は体に近くなる

厚いグリップで打つ方が打点を身体に近づけると「ラケット面は自然と下を向く」し、

比較的薄めのグリップで打つ方が打点を前に出していくと「ラケット面は自然と上を向く」

事になります。

ボールを打つたびに毎回手首の角度を変えるなどしてラケット面を調整することが妥当なはずもないのでこの自然と決まる位置を敢えて変える必要性は薄いです

「ラケットでボールを打つ」という意識とラケットの加速

テニスは「ラケットという道具を使ってボールを飛ばす」スポーツです。

ボールに影響を与えられるのは手に握ったラケットだけですから、皆が

「ラケットをボールに当てる」「ラケット面をボールにぶつける」

という意識を強く持ちやすく、手や腕でラケットを操作してそれを実現しようとします。

ラケット面をボールにぶつけようとするスイング

前述の通り、物体であるラケットには慣性の法則が働くので、

ラケットに速度を与えてやればラケットは自然とその運動をし続けようとする

のです。

仮にですがラケットにジェットエンジンがついていたとしてボタンひとつで300km/hまで加速となったら急激に進んでいくラケットに対して我々が操作を加えたりはできないであろう事は想像が付きます。

加速したラケットへの操作

ボレーなど見かけ上(※)、明確なスイングを行わないショットを除き、ストロークやサーブ等では短い時間でラケットを加速させる事が重要で加速したラケットは慣性の法則ので安定的に直進していこうとする特性を持つのです。

※スイングをしなくても『足の踏み込み』で実質的にラケットに速度を与える、前進させる事ができる速度が生まれればそれはボールを飛ばすエネルギーになる。

最初に述べた「ボールを飛ばそうと “前に” 向かってラケットを前進させるべく身体を使っているのに “上に” 向かってラケットを引き上げようとする操作がラケット速度を低下させる要因になる」のもこれに関係します。

我々がスイングを行う最大の理由は「ボールを遠くまで飛ばすため」です。

ラケット速度が高まればエネルギーが大きくなりボールを遠くまで飛ばせます。(ボールの速度は遠くまで飛ばすための要件に過ぎません。)

科学的な根拠を持って身体の機能、仕組みをうまく使ってボールを打つ。腕の各関節を内側に巻き込みラケットを引き上げるようにして打っていた”ワイパースイング”ではなく、”前に” 向かって強くスイングする中でそのエネルギーを活かしてトップスピンをかける

それが『現代的なフォアハンド』といったものではないでしょうか。 

テニス フォアハンドストローク

ボールとラケットはインパクトの間に13cm前進する

テニスを教わる際『空中の一点である打点』の位置を示され、その位置にラケット面をセットして「この位置でボールを打つのですよ」と教わります。

テニス フォアハンドストロークの打点

ただ、考えてみれば、私たちはボールを飛ばすためにスイングを行っています。

ボールとラケットが接触するインパクト時間は0.003~0.005秒と言われます。

仮に、インパクト時間を0.004秒、インパクト前後のラケット速度を120km/hとすれば、

ボールとラケットは接触状態で約13cm (13.33cm)も前進している

計算になります。

サーブのインパクトを撮影したスーパースロー映像です。

142mph Serve – Racquet hits the ball 6000fps Super slow motion

ボールの変形と復元は一定変化ではないので計算通り13cmとはいきませんが、

「空中の一点である打点の位置からボールが突然飛び出していくのではない」

「インパクト時、ラケットとボールは接触状態で一定距離前進している」

のは確認できると思います。

皆が言う「空中の1点である “その” 打点」はボールとラケットが接触し続けている10cm強の幅の中のどの部分を指しているのですか?

と思うのです。

最初に接触する位置か、ボールが離れる位置かでスイング状態への関係性はだいぶ違いますよね。インパクト前後のラケット速度を上げるならより一層重要な問題になるはずです。

ちなみにインパクトの瞬間を人は認識し操作できない

我々は「ラケットを操作してボールに当てる。ラケットをボールにぶつける。」といった意識を持ち、ボールを打つ際そういう操作を行いやすい (それがラケット加速、安定的なスイングを損なう要因になる) と書きました。

人の反応速度は速い人で0.2~0.3秒だそうです。

ボールとラケットが接触しているインパクト時間が0.003~0.005秒ですから、

「我々がインパクトの瞬間を認識し、それに対して操作を加える事は不可能だ」

という事が言えますね。誰もが同様に、どんなに反射神経が良い人でもです。

つまり、

「認識とそれに対する反射的操作ができないインパクトに対し、我々が出来る事はインパクト前、インパクト後の一定距離、ラケット面が安定的にボールを飛ばしたい方向、角度に向き続けるスイングについて考えるべき」

という事が言えます。

「手首をこねる」といった指摘しやすい点に限らず、インパクト前後にラケット面があちこち向いてしまう打ち方を周りで見かけませんか?

インパクトでラケット面が不安定な打ち方

厚いグリップでボールを打つということを考える

厚いグリップでボールを打つということは“打点が前になる”ということであり、『1.ラケットの加速度及びラケットスピードの低下』『2.体の仕組みからくるスイング軌道の変化』『3.目からボールが離れることによる正確なインパクトの問題』といった問題が生じます。

1.ラケットの加速度・スピードの低下

ラケットの加速度(速度が増す割合)はテイクバックの停止状態から加速を始めて暫くの間が最も高いです。

また、加速する中で体の回転や腕が動くのよりも速度が速くなったラケットヘッド側は体や腕の位置を追い越しますが、体や腕を追い越せばそれ以上ラケットを引く力(=速度を上げる力)は加わらなくなるのでラケットの加速度及びラケットスピードは上がらず逆に低下します。

つまり、打点を大きく前に取るとラケットスピードがかなり低下している可能性があるということです。

(実感はなくても体に近い位置の方がラケットスピードは速い、ラケットを動かす力が残ってるのは想像が着くと思います。)

※現代的なフォアハンドではなく、腕の力でラケットをボールに当てようというスイングをするとラケットスピードが上がらないので厚いグリップで打点を前にしてしまうと尚更スイングスピードが落ちる懸念があります。

前述した「インパクトの0.004秒にもラケットは13cmも前進している」という点を踏まえて、厚いグリップを用い「腕を精一杯伸ばした前方の打点で始めてボールと接触する」とするならば、

「あなたはそこから更に13cm、前方(ボールの打ち出し角度・方向)に向けてラケットを進めていけますか?」

ということになります。

テニス 厚いグリップで打つフォアハンドの打点

上図を見るとここから出来るのは「腕をねじってラケット面を上に引き上げる」事位な印象です。更にラケット面を前進させるとすれば、ラケット面をボールを飛ばしたい方向・角度からズラしてしまう事になり “安定的なインパクト” は損なわれるでしょう。

2.体の仕組みから来るスイング軌道の変化

慣性の力で体や腕を追い越したラケットは更に直進しようとしますが腕の長さ以上は前に進めないので、腕に引っ張られる形で進行方向を曲げ、非利き手側にフォロースルーという形で腕と共に巻き付いていきます。

この際、慣性の力で直進しようとするラケットに腕の方も引っ張られスイングで回転運動を伴うということもあり肘や手首の関節は引っ張る力に対抗するため曲がっていきます。その一つが前腕のプロネーションであり上腕の内旋です。

テニス フォアハンド スイング インパクト直前

テニス フォアハンド インパクト後 腕が曲がりラケットは持ち上がる

腕に引かれることで進行方向を曲げられたラケットは、ラケットが引っ張る力に対応するため腕の関節が曲がることで、ラケットヘッド側は『スイング方向である”前”ではなく”上”方向に』持ち上げられます。

現代的なフォアハンドのスイングではこの関節の動きを利用してスイングスピードを落とさずスピンをかけるのだと考えますが、厚いグリップで “空中の一点である” 打点を前に取ってしまうと前述したように

「ボールの打ち出し方向 = スイング方向にはラケットは動かせず、上に持ち上げるしかない」

状態になる印象です。

厚いグリップでボールを打つ男子プロ選手はたくさん居ますが腕を前方に突き出すほど打点を前に取る選手は見受けられないと感じます。

ラケットをスイングする最大の理由は

「ラケット速度を上げてラケットの運動エネルギーを増やし、ボールを遠くまで飛ばすこと」

ですから、

速度ゼロから急激に加速を始めたスイング開始位置から距離が離れれば離れるほど、途中初期加速で利用した両足や身体の力から生まれたエネルギーを消費してしまう事も加わり、ラケットが腕や身体を追い越した後の速度低下、ボールを飛ばし回転をかけるためのエネルギーの現象が顕著になる

とも考えられます。

「非常に厚いグリップでフォアハンドを打つ方のボールを見ると回転はかかっているように見えるけど、ボールスピードがない」のはこの辺りが関係すると思います。ただでさえラケット速度が減少しやすい状態でエネルギーが小さくなっているのにそれを回転に多く割り振るためです。

現代の男子トッププロは昔のように肘を巻き込んでラケットを引き上げて打つ分かりやすいワイパースイングは用いないですし、厚いグリップで打つ選手でも『比較的身体に近い位置でボールを打っている』のは両足や身体の力を使いボールを強く打つための工夫だと考えます。

打点が身体から遠くなればなるほど、準備と打点に到達するまでの時間が必要となり、ボール速度の上がった、テンポの速い、相手の時間を奪い合う現代テニスにも適合しづらくなります。

3.正確なインパクト

これはかなりシンプルな事柄です。

利き腕の肩のすぐ前にあるボール大の的と1m先にある同じ大きさの的、それぞれをラケット面で触ると考えれば前者の方が圧倒的に楽なはずです。

的までの距離が長くなるほど距離感や位置の把握は難しくなり、その位置に向かってラケットを前進させていく、接触させるのも難しくなるでしょう。

単に当たりやすい当たりにくいというだけでなく、試合中に何十球もボールを打つと考えれば1回、2回ではなく、それがミスに繋がる可能性にもなります。 

「身体に近い位置で打てばうまく打てる」という訳ではありませんが、打点を遠く取る際のマイナス面も考慮すべきだろうという話です。

これまで述べてきた事も含め男子プロがボールを打つ様子は「より良い選択」を表していると思います。

現代的なフォアハンドはラケットスピードの速さでボールを飛ばし回転をかける 

ボールが飛ぶのはラケットでボールの持つ運動エネルギーを反発させる、ラケットの運動エネルギーをボールに伝えるからで、回転がかかるのはボールの片方の端に他の部分より偏って力が加わるからです。どちらも物理現象なので発生させる要件 (やり方) は何でも構わないです。

だから、昔風のワイパースイングでラケットを引き上げてもトップスピンはかかるし、男子プロの多くが行う“現代的なフォアハンド”両足や身体の力を使い利き腕肩を前に移動させる事をラケット加速に利用し、身体の回転で (※体軸に対し90度の角度という意味で) “水平方向” に強くラケットを加速、前進させる。前進力は損なわず、加速させたラケットのエネルギーを回転にも使う打ち方でもトップスピンはかかります。

現代のトッププロがこういうスイングを用いるのはスポーツ科学が進み道具が進化し、テニスで打たれるボール速度が上がった、上げる必要があるからという点もあると思います。昔のように山なりの高い軌道のラリーを延々続ける根気比べのような試合をする選手は皆無ですからね。

ボールを飛ばす運動エネルギーの大きさを決めるのは「ラケットスピードの速さ」「正確な当たり方」ですから、わざわざ「ラケットスピードが上がりにくい」「ボールに当たりにくい」スイングや当たり方をするのは勿体ないと言えます。

プロ選手の打ち方を見て、

「どうして皆がこういう打ち方、身体の使い方をしているのだろう」

と興味を持つことはテニスの上達のため自分のテニスについて考える、知識を求める、理解を深める事に繋がると思います。

※プロ選手の “マネ” をするのは “形態模写” みたいなもの。それでうまく打てないのは数々事例が証明しているでしょう。

私は専門家でもコーチでもなく、自分のテニスの上達のため色々考えている中で考えた事を色々書いているのみです。「正しい、間違っている」等と言われても肯定、否定もできません。ただ、見ていただいた方が何か考えるきっかけになれば良いかなと思っています。

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