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上達のためにテニスを理屈から考えてみる。コツやイメージではない根拠のある理解 (テニス)

まっすぐエネルギーを伝えるイメージ

目で見た情報とイメージに左右されているスポーツの世界

プロ野球の代表的なバッターがTV番組でバッティングについて質問され、必ず使うのが「○○するようなイメージで」といった言葉です。

自分がどう身体を動かし、ボールを認識してバットを振り、ボールを打っているかを言葉でわかりやすく表現することは難しく、自分のイメージを人に伝える際にはこういう表現の仕方をします。自分のイメージをデータとして相手の脳にコピーすることはできないので相手が似たようなイメージを持ってくれることを期待しての表現ということになります。

ただ、考えてみれば、バットでボールを飛ばす条件は『バットの重さ、バットを振る速さ、そして当たり方』の3つしかありません。ボールをうまく飛ばせる条件が揃えば良いので3番目の当たり方は人それぞれ、色々なやり方があるので「○○流」「○○メソッド」のような物が無数に生まれる訳です。

頭脳派、理論派と言われる有名選手でも似たり寄ったりです。そういう環境で育成され周囲もそういうやり方をしてきているという事でしょう。でも、チーム全員の能力を高めるにはもっと共通化・平準化できないものかと思います。

逆に超一流と言われるようなピッチャーには科学的な根拠を踏まえてボールの飛びや曲がり方、身体の使い方を説明できる方も居たりします。バッティングよりピッチングの方が道具を介さない分シンプルに考えられるのでしょう。

人の身体の構造は皆がほぼ同様な訳です。例えば、世界陸上決勝で選手の走り方が皆個性に溢れているということは起きません。速く走るという単純な目的の前には如何に効率よく身体の機能を使うかという事に集約されるからでしょう。

陸上短距離のスタート

テニスでも上達のための情報やコツが様々に存在しますが、野球の例同様に根拠や理屈を欠き、昔から伝わる伝聞や常識とされる言葉そのもの、説明する際も「○○するイメージで」という表現を多用します。

スムーズにボールを打てる上級者とボールを打つ動きもおぼつかない初心者との違いは技術の違いだけなのか?

「テニスの基本」として皆が当たり前だと思っている、自分は出来ていると思っている内容は言葉通りなのか?

私はスクールに6年以上通っても全然上達しなかったので、教わる・言われるままではなく多くの人が等しく一定レベルまでテニスが上達できる方法を考えたいと思っています。

打てている人が自分のイメージを言葉にする指導ではなく、科学的な理屈や裏付けを踏まえた情報や説明であれば聞いた人達も理解を共有しやすい、自分でどうやればいいのか考えやすいだろうと考えます。

『自分のテニスを上達させるのは自分自身でコーチや周りの人ではない』です。考えるには知識が必要で、自分の状況を理解し、根拠を持って改善、どうやれば良いのか考えることが上達の道だと思います。(見本を見ただけで再現できる天才肌の方はそのプロセスが極度に効率化されてる感じ。殆どの方には無理です。)

ボールを打つ経験は理解の検証に必要ですが、ただボールを打つだけでは調子の維持すらできません。調子が悪くなったからまたひたすらボールを打つ。その先に自分が目指すゴールがあるのかも分かりませんね。

ラケットでボールを飛ばすための条件

ラケットでボールを飛ばすための条件を考えるとこのような感じでしょうか。

・テニスはラケットという道具を使ってボールを飛ばす。

・ラケットは70cm弱の長さがあり、グリップ、ラケット面、両者を繋ぐ部分(スロート)で構成されている。

・ラケット面にはガット(ストリング)が縦・横に張ってあり、実際にボールと接触し影響を与えるのはラケットではなくガット。

ラケットには縦横にガットが張ってある

・ボールの回転はガットがボールに噛む・ひっかかる事でより強く発生する。スイング軌道と縦糸・横糸が直角になる角度が最も効率的にガットが作用する。(+の状態)スイング軌道に対し縦糸・横糸が斜めに交差する状態では板で打っているのと変わらない。(×の状態)

ガットとボールがひっかかって回転がかかる ガットとボールがひっかからないと回転がかからない

 

・飛んでくるボールはそれ自体速度があり運動エネルギーを持っている。

飛んでくるテニスボール

・停止したラケット面で飛んでくるボールを押し支えるだけでボールが持つ運動エネルギーの範囲でボールを反発させ、ある程度飛ばす事ができる。

・ボールが飛び回転をかけるために使用できるエネルギーは、1) 速度を持って飛んでくるボールの持つエネルギーを反発させる 。2) 自ら加速させラケットに持たせた運動エネルギーをボールに伝える。の2つがある。

・時間の無い中、ネット近くのベースライン付近より飛ばす距離が短くて済むボレーはボールのエネルギーを反発させる事をメインとしたショット。自らトスを上げたほぼ速度ゼロのボールを打つサーブは加速させるラケットのエネルギーがメインのショット。ストロークは打つ位置、相手のボールのエネルギー残量、自分が打ちたい球種、飛ばしたい距離、距離とは別に発生させたい速度等からボールのエネルギーとラケットのエネルギーのバランスを取って打つショットと言える。

・ボール、ラケットがそれぞれ持つエネルギーの大きさは『1/2 x 物体の重量 x 物体の速度 ^2 (2乗)』で計算される。ボール重量、ラケット重量は固定なので、速度が速いほど運動エネルギーは大きくなると考えて良い。

・ボールとラケットが接触し、ラケットの持つ運動エネルギーがボールに伝わる。ただ、伝わるのはごく一部である。素振りでも実際にボールを打っても、インパクト直後にラケットが急減速したりしないことでそれが分かる。

・また、ラケットとボールが接触し運動エネルギーが伝達される際には伝達ロスが発生する。正確に当たらない、薄いカスレた当たりといった”当たり方”の他、ラケットやガットのしなる・歪む・たわむもロスの原因。

・ラケットの「飛ぶ、飛ばない」に対する先入観

ラケットは「飛ぶ・飛ばない」と表現されるが、金属バット等で打つ方がはるかに遠くまで飛ばせるのは “ほぼ変形しない” 事で伝達ロスを抑えられるから。

フレームの厚いラケットは変形しづらい、フレームの薄いラケットは変形しやすい。

広く「フレームの薄いラケットは、インパクトでしなり、そのしなりが復元しつつ (トランポリン) のようにボールを飛ばしていく」という先入観や固定観念を持たれているが、下の動画を見れば分かるように、(スイングしていない固定状態のラケットですら)ラケットのしなり、歪み、たわみはボールが離れるまでに “復元” しない。

ボールに押される負荷がなくなるまで、ラケットは「しなりっぱなし、ゆがみっぱなし、たわみっぱなし」である。 

 フレームの厚い「飛ぶ」ラケットに何か特別な飛ぶ仕掛けが付いている訳ではない。

「このラケットにはパワーがある」と言ったりするが

「変形しづらい、伝達ロスを少なくできるラケットなら飛びやすい」

といった理解が正しいと思われる。

昔はフレームの厚い「変形しづらい」ラケットか、フレームの薄い「変形しやすい」ラケットしかなかったが、製造技術の進化や素材の工夫により「ラケットの一部分だけ構造を変化させる事で部分的に強度を上げた」ラケットが多数販売されてきている。

従来における、フレームの薄い飛ばないラケットの方がそういった工夫の恩恵を受けやすいので「特徴である “打感の良さ” は保ったまま飛びが良くなった」ラケットが増えてきている。毎年出る新製品もフレームがそれほど厚くない (20mm強位) のスマートなシルエットのラケットばかりだと感じるはず。

逆にピュアドライブに代表される「変形しづらい事で飛ぶ」点を売りにしていたラケットは「飛ばなくする事」はできないので飛びを維持したまま「打感を良くする」苦労を強いられ苦戦しつつある。敢えて言えば「人気にあぐらをかいていた」「課題を先延ばしにしていた」状態。10数年続いた「黄金スペック一択」時代からの変化である。 

ボール・ラケットに関する条件

ボールやラケットに関する物理的な条件等は次のようなものが考えられます。

・ボールとラケットは物質であり、物質には慣性の法則が働く

・テイクバック時等、停止したラケットは慣性の法則によりその場に留まろうとする。

・スイング時等、速度を持って前進するラケットは慣性の法則によりその直進運動を続けようとする

・テイクバックの停止状態から、ラケットはグリップ側から手に引かれ動き始める。

ヘッド側は慣性の法則の法則で停止位置に留まろうとするが、留まろうとする力より引く力の方が強いのでヘッド側はグリップ側に後方から追従し始める。ただ、速度が増しヘッド側がグリップ側を追い越すまで手はラケットにスイング軌道後方に引っ張られ続ける。

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その結果起きるのが手首が甲側に曲がる「Lag (ラグ・遅れ)」と呼ばれる事象であり、 

サーブにおけるラケットダウンという状態である。

テニス スイング時の腕のlag・ラグ・遅れ

ラケットヘッド側にゴム紐が結んであり、自分がスイングする際、誰かがゴム紐を引っ張る事を考えれば理解できる。

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・この現象が、フォアハンドストロークにおけるラグも、ラケットダウンも必要な事はグリップを強く握りしめず、身体や腕が “リラックス”していることだけ。

振り始める直前のティーム選手。軽く握っているようしか見えない。

遠心力という力は存在しない。慣性の法則で直進運動をし続けようとするラケットがグリップを持つ手によって身体側 (円の中心) に引かれる事で、軌道を曲げられ続け、円周軌道に近くなる。2つの力のベクトル(方向)の違いにより、手が円の中心に引く力と同じ大きさで円の外側に引かれていると “感じる” 状態が遠心力

遠心力の説明

だから、ラケット速度が速くなる程、手がラケットを引き寄せる力も大きくなる。結果、「遠心力」として手を円の外側に引っ張ると感じる力も強くなる。(速く振るほど強い遠心力を感じる)

・ラケットが直進運動する方向は自分がボールを飛ばそうとしている方向・角度に向けてである。遠心力は向きが全く異なる。ボールを飛ばすのはラケット速度が関係するので純粋に直進方向への加速を考えるべき。「遠心力で飛ばす」は遠心力を強く感じるほど速度が出ているというだけ。

遠心力でボールは飛ばない

・スイングはグリップが先行してラケットが引かれるが、加速により、身体の回転 < 手や腕 < ラケットヘッド側と身体から距離がある方が速度は速くなる。加速したラケットは慣性の法則で直進運動をし続けようとし、スイング途中で身体、手や腕を追い越し、更に前進して行こうとする。 

フォアハンドストローク ラケット加速 

フェデラー選手のフォアハンド

・円運動をする2つの物体が同一時間で同一角度移動する場合、中心から遠い物体の方が高速である。(よく知られる「距離 = 速さx 時間」の計算。同じ時間で長い距離を移動するなら当然速度は速くなくてならない。)

円運動で中心から遠い物体の方が速度が速い

・ただし、テイクバックの速度ゼロからラケットが加速するエネルギー、初期加速は、両足で地面を踏んで得られる反力、身体のねじり戻しの力等を連動、組み合わせて得ている。

身体を使ったラケットの初期加速

初期加速時、身体の回転により肩の位置が前進し、肩が前進する事で腕も前進していくが、ラケットのヘッド側がグリップ側を追い越すまで、慣性の法則でラケットに引っ張られ続けるため、初期加速中においては「腕を使ってラケットを引く、引き寄せる、引っ張る」という事はできない。

その人の打ち方によるが、初期加速時に「手でラケットを引っ張って」ボールに近づけようとすれば下半身が使えないスイングになりやすい。適切な身体の使い方 (両足で地面を踏む、身体のねじり戻し等の連動) を確認した上で身体の回転に意識の割合を多く取り、ラケットが加速してヘッド側がグリップ側に追いつく前後以降が腕関節の柔軟性をラケット面を安定的に導いたり、速度を犠牲にせずスピンを発生させる使い方に使う。(初期加速は下半身。加速してから腕が使えるようになる。)

・両脚や身体の力を使い、発生さえた初期加速のためのエネルギーは、遅れたヘッド側がグリップ側に追いつく前後、ラケットが身体を追い越す前後でこれらのエネルギーの供給はゼロになる。(後は惰性)

前進とボールを打つ事により、ラケットの持つ運動エネルギーは消費され、速度は落ち、手に引っ張られる形でフォロースルーを迎える。

初期加速時に有効に機能した「足で地面を強く踏む、身体のねじり戻しを行う等による身体の回転」は、ラケットが加速し、身体を追い越す前後まででエネルギーが消費されてしまい、以降に同程度の強さ、瞬発性を継続的に発揮する事が難しい

結果、「インパクト前後、それ以降のフォロースルーまで “身体を強く回す” 事をスイングの基盤と考える事は難しい」と考えられる。(ラケットが後方にある振り始めとラケットが身体を追い越して以降で同じ強さで地面を踏み身体を回転させられるかと考えれば分かる)

考えるべきは「初期加速からインパクトまで」であり「インパクトが終わった後のラケットをいくら強く振ってもボールに影響を与える事はできない」事は理解できる。

『強い初期加速』『リラックスした状態で身体の大きな動きを使い安定的な軌道、インパクト状態を作れる事。速度をインパクトまで保てる事』である。

20数年前、スピンをかけてストロークを打つ事が標準化された際、それ以前のコンチネンタルグリップではスピンがかけられないので「グリップは厚く握る」と言われるようになり、回転のかけやすさから「打点は前に取れ」と言われるようになったと考えます。

少々極端ですが「グリップは厚いほどよい。打点は出来るだけ前に取れ。」という指導も皆無ではないでしょう。

ただ、身体よりも前の位置で、打点を前に動かしていくほど、ラケットの加速度は落ちている訳でその時点でラケット速度がピークから落ちてしまっていてはボールを打つためのエネルギー量も下がってしまっているでしょう。

フォアハンドストローク 厚いグリップでの打点

フォアハンドストローク そこまで厚くないグリップでの打点

最近のトッププロのストロークを見ると、ウエスタングリップ位の厚いグリップで打つ選手のインパクトは我々がイメージするよりも身体に近い位置で打っているように見えます。

錦織選手

ジョコビッチ選手

両選手の “打点” が 身体から近く見える理由は、ラケット加速度に加え「打点が空中の1点ではない」ということも関係すると考えます。

インパクトにおける諸条件

ボールとラケットが接触することによりボールは飛びます。インパクトに関係する諸条件は次のようなものが考えられます。

・インパクトの時間は0.003~0.005秒と言われる。人の反応速度は0.2~0.3秒と言われておりインパクトの瞬間を人が認識し操作することはできない。

・スイング時ラケットは速度を持って前進している。仮にインパクトを0.004秒、ラケット速度を120km/hとするとボールとラケットは約13cm接触状態(触れて潰れて復元しつつ離れるまで)で飛び出す方向・角度に向け前進している計算になる。

インパクトは10cm強の幅で行われる

・我々はグリップを握りラケット面を差し出して”打点の位置”を確認させられるが実際には打点は”空中の1点”ではない。13cmの幅 (ゾーン)で打っていると理解すればそれが正確なインパクトを考える根拠になる。

フェデラー選手のフォアハンド

・ラケットがスイングよって得た運動エネルギーがボールとの接触で一部伝達され、当たり方によってボール速度と回転に反比例的に分配される。速度に多く振れば回転は減り、回転に多く振れば速度は落ちる

・ボールが飛ぶのと同様、ボールに回転がかかるのも物理現象。トップスピンはボールに縦方向の回転がかかれば発生する。条件が整えば良いだけだから発生する方法は何でも構わない。(スピンをかけるにはこうしないといけないといった盲信)

ラケットがボールに影響を与えられるのはラケットとボールが接触している0.003~0.005秒の間だけ。インパクト前・インパクト後にラケットをどんなに動かしても影響は与えられない。(インパクトの重要性)

ラケットとボールは10cm以上も接触状態で動いており、インパクトの0.003~0.005秒を人は認識できない。結果、インパクトの前後を含む一定の長さ(20~30cm位)はラケット面が安定して飛ばしたい方向・角度を向き続ける事が重要。ラケット速度を速くするなら尚更である。接触中の13cmでラケット面があちこち向くならと考えれば分かる。

※ダイエーホークスの内川選手、元メジャーリーガーの岩村明憲さんの両方がインタビューで「ボールとバットが接触する前1cmと後1cmを含めたインパクトに集中する」と話されていました。バットとボールの接触時間とスイング速度がどの位か分かりませんが同じ事を指していると考えます。

・同じ理由で回転をかけようとラケット(ラケット面)を下から上に強く角度で持ち上げる中で正確なインパクトをするのは難しい。

擦り上げるスイングでは正確にインパクトできない 

スイング軌道・ボールの打ち出し軌道に関する条件

ラケットをどう振るか、ボールをどう飛ばすかといった点に関する諸条件です。

・ベースライン中央付近、地上から80cmの打点位置から、ネット中央の一番低い部分の2倍の高さ(約1.8m)を通過させるための打ち出し角度は『水平 +4.9度』でしかない。

ネットの2倍の高さを通過する打ち出し角度

※ピッチャーがマウンドの上からキャッチャーのミット目がけて投げ下ろす角度も”5度程度”だそうです。ボールは水平-5度の角度で斜め下に進んでいくという事ですね。もっと角度があるように感じますがストローク同様、多くの場合そういうものなのでしょう。

「インパクトにおいてラケット面は地面と垂直」と言われるが、ボールを真上に突き上げるのにラケット面を真上に向けない人は居ない

つまり、地面と垂直ではなく、ボールを打ち出したい方向・角度に対して90度に向けるが正しいと考えられる。

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・ネットの2倍の高さを通過させるための打ち出し軌道『水平+4.9』は、周りから見ればほぼ水平に振っているように見えるはず。

・スイングが遅い場合はラケットの運動エネルギー量が小さく、ボール速度が出ないから遠くまで飛ばない。必要に応じて打ち出し角度を上げる必要がある。(その場合も打ち出し角度に対して90度のインパクト面。常に地面と垂直ではない。)

・ラケット速度が十分速ければラケットの運動エネルギー量も大きい。ボール速度を保ちつつ回転量も確保できる。遠くまで飛ばすためにボールの軌道を上げる必要がないから速度に対しベースラインに収まる回転量が確保できれば良い。(安定的に回転をかける技術は居る。)

ラケットをスイングするのは第一にはボール速度を上げるため、回転に割り振るエネルギーは最低限で良いはず。トップスピンロブなど作戦的に使うのでなければ、回転をかけようと薄い当たりでこすり上げる(ロスが大きい)、 正確に当たりづらくなる、ロスをカバーするために一生懸命振って疲労に繋がる、ボールに速度がなく遠くに飛ばない分軌道を上げる、といった行動に意味はない。

※ボールを飛ばすため、打ち出す方向・角度に向けてラケットを振っていく

・プロ選手のスイングを見ると、最初から最後まで斜め上に振っていく回転のかけ方ではなく、ボールを前方向に飛ばすため水平に近くラケットをスイングしインパクト前後にラケットのヘッド側を持ち上げる工夫をすることでスイング速度、飛ばしたい方向へのスイングは維持しつつ回転をかけている。

フェデラー選手のフォアハンド

我々が初心者の時に教わるような、最初から最後まで斜め上に “ラケット全体” を持ち上げていくようなスイングとは異なるように見える。

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どちらが正しいという意味ではない。ボールを “前” に強く飛ばすためのエネルギを加えるため、ラケットをその方向(前)に振りたいなら、そういうスイングをしつつラケット速度を落とさず、活かしたスピンのかけ方が必要だろうという事。

・20年位前に『ワイパースイング』という言葉・打ち方が広まった当時は、肘から先を巻き込む様に、バイバイと手のひらを振る(手のひらを外側・パームアウト)ようにして打てと教わり、今もワイパースイングはそういうものだという認識が残っている。

昔のワイパースイングは、ラケットがガットの進化もあり、それまでのフラット気味に打つボールに対して「回転をかければボールの威力が増す」という認識が合ったと想像しますし、今もそう考えている人は少なくないでしょう。

一般的なイメージでのワイパースイングn

ただ、結局は

「ラケット速度を上げなければボールを飛ばす・回転をかけるための運動エネルギー量は増えない。」

「スイングが速いから当時のプロ選手のワイパースイングは成り立った。そもそも前に速く振れない人が回転を多くしようとすればエネルギーは回転に多く割り振られ速度は上がらない。結果、高い軌道のロブのような軌道で打たないと相手コート深くまで届かなくなる。(トップスピンが流行った当時の一般レベルのテニス)」

「回転を増やそうと擦り上げるスイングになればインパクトミス、伝達ロスが大きくなり、回転はかかっても前に飛ばない遅いボールになる。」

といった部分は、物理法則に縛られるものであり昔も今も変わりません。

ラケットをより速く振るには? 速めたラケット速度を活かすには? と考えれば、

「ラケットはボールを飛ばしたい方向、エネルギーを加えたい方法 (前) に向けて強く振る方が良い」

と考えられるし、

「ボールを飛ばしたい方向(前)に向けて、強くラケットを加速、前進させているのなら、その速度を活かし、減衰させず、回転を加える方が理にかなっている」

と考えられるでしょう。

道具の進化で「ストロークはトップスピンをかけて打つ」のが当たり前になった当時と現代の男子プロのテニスを比べれば「日々進化してきているは明らか」なのに、我々がスクールで教わるテニス指導が20数年前から、その説明される内容、文言まで含めて “大きく変わっていない” のは不自然ですよね。

スポーツ科学的がこれだけ研究されてきているのです。

「フェデラーがやっているから」「この方が力が入るから」「弓を引く要領で」といった説明ではなく、私は皆が等しく近い理解をできる根拠を持った情報を基にテニスを考え、自身のテニス上達を目指したいです。

例: バケツに入った水を前方にぶちまける

ここで『バケツに入った水を前方にぶちまける』という例を使って、フォアハンドストロークでラケットを振るという動作を考えてみましょう。 

動画で見てみます。

この行動で考えられる条件は以下のようなものがあります。

・バケツに入った水に対し直接飛んでいく力を加えることはできない。ここで行っているのは「手にもったバケツを加速させることで水に速度をもたせている」ということ。

※走っている電車の乗客全員が電車と同じ方向に同じ速度で進んでいる。人も慣性の法則の影響を受けるので、止まった状態ではその位置に留まろうとし、直進運動をし続けようとしする。急発進や急停車で倒れそうになるのはそのため。

・バケツを加速させる要素は、身体のねじる戻し、両足で地面を踏む反力、後に下げたバケツを手で引く力など。テニスのフォハンドと同じ。

・バケツは水をぶちまけたい方向に向かってまっすぐ加速させていく。遠心力を使おうと身体を回しながら円軌道の中で水をまっすぐぶちまけるのは困難。(水の入ったバケツを振り回して遠心力でこぼれませんという話とは違う)

・準備段階として対象に対し横向きを取り、身体の回転により目標方向に身体を向けていくが水の入ったバケツ(中身の水も)の進む方向はあくまで慣性の法則が働く直進方向(ぶちまけたい方向に向けまっすぐ)であるということ。身体の回転とバケツの進み方は同じではない。

・バケツの入った水はかなり重い。バケツを加速させて水をぶちまけ始める位置はバケツが身体を追い越してすぐ、腰に近い辺りを選ぶと思う。水の量が少なければもっと対象に近い位置でぶちまける方が方向性は保てると思われるが、重いバケツを振る際、腰に近い位置で水をぶちまけるということはその位置がバケツに力を加えられる最終地点(最高速に近い状態)であると自覚してのものだと思う。

どうでしょうか?

ラケットでボールを打つという動作は特別なものではなく日常生活で我々が行っている事と同じだと考えられる要素がたくさんありますし、例えば「フォアハンドは回転で打つ。強いボールを打つためには強く身体を回転させないといけない。」といった認識が実際にラケットでボールを飛ばすという物理的な事象を”的確に見れていない”のを感じます。

横向きから身体を目標方向に回転させつつラケットを振る。その際、身体の回転に重きを置いてしまうと腕やラケットの軌道も回転運動に引っ張られ、肩-腕-ラケットは同一角度のまま回転してゆき、スイング軌道は円に近くなるでしょう。

身体の回転でラケットを振る

こういうスイング軌道の方は居ますね。身体に回転に合わせて身体の近くでラケットを身体に巻き付けるような振り方だったで、身体の回転と腕、ラケットが同一角度で回っていき、いつまでもラケットヘッド側が身体を追い越していかないような感じ。

※こういう打ち方が「間違い」という事ではありません。「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」のでインパクトで一定方向にエネルギーが加わればボールは飛んでいきます。我々が各自に個性的な打ち方でも最低限テニスが出来るのはそのためです。プロ選手のようなスイングができないとテニス自体が出来ないなら皆辞めてしまいますね。

一方、横向きから身体を回転させる際、軸足(右利きなら右足)で地面を踏む反力、身体の捻り戻し、腕によりラケットの引き等を連動させ、ラケットを目標方向(ボールと接触する地点及びボールを飛ばしたい方向・角度)にまっすぐ加速させていくと考えればスイング軌道は違ってきます。

身体を回転させつつラケットはまっすぐ振る

加速を受け、慣性の法則で直進するラケットが進むためのエネルギーの供給を受けられなくなる身体の位置を通り過ぎた後、ラケットの加速度は下がり、腕に引っ張られる形で非利き手側に巻き付いていく。腕の関節はそれを支えるために内側に曲がっていく。惰性という感じですがそれがフォロースルーとなりますね。

ラケットをスイングする目的はボールを飛ばすため(ラケット速度を上げるため)。インパクトの瞬間を人間が認識・操作できない事、10cm強の幅で行われる事を考えれば、インパクト前後のラケット面の向きはボールを飛ばしたい方向・角度に向き続ける方が確実。身体を回転させるのはラケットを加速させる過程・手段の一つであり、回転とラケットが進むべき方向は分けて考えたいです。

「回転で打つのではない!! 打ちたい方向に真っ直ぐ打つんだ!!」という単純な思考ではそれまでの取り組みと変わりません。

足を踏む反力、身体のねじり戻し、腕の引き等、力を発生させる各要素がラケットの加速、加速させた向きに発生させる方向が合っている。そういう状況が効率が良く、皆、自然とそういう使い方をスムーズにできるのだ。

バケツの水の例はそういった事を表していると考えます。

身体を使ったラケットの初期加速

ボールが飛び回転がかかるのは物理現象です。都度変わる状況の中、思うようにそれらを発生させるにはどうすれば良いでしょうか?

ただ、「ラケットを強く振ってボールを打ってやろう」というだけの認識では、テニスというスポーツを行うには不十分な気がします。

「考えてテニスをする」を実践したいです。 

センスや才能に自信がない分、理屈で理解の遅れを埋める

私は『自分の頭で理解してからでないと動けないタイプ』です。

実際にボールを打ちながらでも考える事はできるでしょうし、効率も変わらないのかもしれませんが、1つ1つ手順を踏んでいきたいと思ってしまいます。

テニスの指導は昔から言われている事柄が常識のようになっており、自分が聞いた事、教わった事をその言葉のまま人に伝える、説明する事に慣れてしまっています。その内容に疑問を持つことがありません。

フォアハンドを打つ際の『横向き』の意味は? バック側との違いは?

フォアハンドを打つ際、横向きを作りますが、何故横向きを作るのか、作らない場合と何が違うのかといった点について情報は示されませんね。

飛んでくるボールの持つエネルギーを支え反発させるだけならラケットを持つ利き腕肩位置が身体の前側にある位置関係が足や身体で支えやすいです。

脚や体で前に向けて押し支える姿勢 width=

ただ、ボールのエネルギーを反発させて飛ばすだけでなく、ストロークやサーブのように自身がラケットを加速させボールにエネルギーを加えるために準備段階としての『横向き姿勢』を作ります。

これはバック側よりフォア側ショットで顕著ですが、インパクト状態でボールのエネルギーを押し支えられる状態を取りたいのですが、横向きを作る事でラケットを持つ利き腕肩の位置を一旦後方に下げ、足から身体の力を使って体を回転させ、利き腕肩の位置を再び身体の前側に戻す距離をラケット加速に利用しているものです。

フォアハンドで横向きを取ると利き腕肩は”身体の後ろ側”

 

フォアハンドストロークテイクバック1

フォアハンドストロークテイクバック2 

 

バックハンド側は利き腕肩が身体の前側にあって変わらないのでフォア側ほど積極的に身体の回転を使えません。

バックハンドで横向きを取ると利き腕肩は”身体の前側”

バックハンドストローク テイクバック

"バックハンドストローク

人の腕の関節(肩・肘・手首・指)は肩の外側から内側にかけて多く柔軟に曲がります。外側に曲がるのは肩と手首位です。

腕の関節は内側に柔軟に多く曲がる1 腕の関節は内側に柔軟に多く曲がる2 腕の関節は内側に柔軟に多く曲がる3

フォア側は足を地面で踏み身体のねじり戻しと連動させて身体を回転、利き腕肩の位置を身体の前側に戻していく。スイング初期、ラケットに慣性の力で引っ張られ積極的n動かせない手や腕もラケットが身体を追い越す前後以降からは「外から内に柔軟に曲がる」特性を活かしてフォロースルーを行う。

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こういう積極的に身体の回転を使う打ち方はバックハンドでは難しい。

「考えてテニスをする」を実践したい

こういった理解の数々が正しいのかどうかは教わった事がないので分かりませんが、私なりの理屈としてボールを打つ、ラケットをスイングする際の根拠としています。

そもそも「こうやって打つのが正解だ」と決めるのは世界的なテニスの権威でも難しいと思っています。よく「俺が言っている事は正しい。お前の説明は間違い。」のようなやり取りがありますが私は賛同できません。自分が理解でき根拠とできそうな情報を参考にすれば良いでしょう。今回書いたような理屈や根拠から考えてよりスムーズにミスなく打つには?とは考えられますがそれらも全て自分がどう打つか考えるためです。

自分のテニスを上達させるのは自分自身です。コーチや周りの人ではありません。自分のテニスを理解し、考え、工夫するには知識が要ります。

2000本安打を達成したソフトバンクホークスの内川聖一選手は、横浜時代に元プロ野球選手の仁志敏久さんから「常に考えて打席に立て。考えるというのは、うまく出来ても失敗してもなぜそうなったか自分で説明できるということだ。」と教わったそうです。知識や理解がなければ説明はできませんね。

知識とはコツ等とは違います。身体はどういう仕組みで、どう機能し、ボールはどうやって飛び回転し、ラケットを振るということとどう結びつくのか? そういったシンプルで皆が等しく理解できそうな情報が上達に結びついていくのだと思います。

2017年シーズンが始まる前のインタビューでイチロー選手が「身体の仕組みを知り理解する事が大事。指導でも目に見える部分(肩に力が入っているから肩の力を抜けとか)しか目を向けない、言えない人が殆ど」と言われていました。

テニスのでも「肘が下がっているから上げろ」「肩が上がっているから下げろ」 といった目で見える事象をそのまま口にするアドバイスは日常的に行われています。人は自分が持つ知識の範囲でしか考える事ができません。知識がなければ目に見える事をそのまま口にします。その事象が起きている原因は人それぞれ、様々な原因で起こっていたりしているので、そのような指摘をされても殆ど改善されないのは実感があるでしょう。

身体の仕組みを理解し、どう使うから動きがどう繋がるのかといった知識があれば、目に見えない部分を含めてより的確に解決に近づけると思います。

そういう考え方をする、そのために必要な知識を蓄えるというということがテニスというスポーツで(イチロー選手の話で言えば野球でも)習慣付けられていないということでしょう。

私は「自分のテニスを上達させるのは自分自身だ。コーチや周りの人ではない。」と思っています。

当たり前として皆が教わる昔から変わらない打ち方の説明、文言。

「〇〇するように」「××する要領で」といった “解釈が聞く任せ” なイメージ表現。

「フェデラーがやっているから」「この方が力が入るから」といった理由が明確にされないケース。

私は、皆が等しく近い理解をできる根拠を持った情報を基にテニスを考え、自身のテニス上達を目指したいですね。