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『スライスサーブ、スピンサーブの回転』はその認識でよいのか? (テニス)

硬式テニスは回転をかけて打つのが基本

40年程前、ラケットの素材にカーボンが使用されるようになり、老若男女問わずボールを楽に速く飛ばす事が可能になりました。

木製ラケットではボールに伝わる際のエネルギーロスが大きく(しなる、たわむ、ゆがむは単純にロスの元)、当時の動画を見てもボールの速度は遅く、それ故、ネットを取る有利さがありました。

Billie Jean King vs Margaret Court: Wimbledon Final 1970

道具の進化により一般レベルのテニスも変わりました。

ビヨン・ボルグさんが木製ラケットで打っていたようなトップスピンのボールを初心者の時から“基本”として教わるようになっています。(両手打ちバックハンドが浸透したのもこのあたり)

打つボールの速度が簡単に出せるようになった事で、軌道を上げてネットを越し、回転で相手コートのライン内に安定的に着地させられるトップスピンの利点が必要となり、同時にトップスピンを使えるようになった事でテニス自体の戦略・戦術的な変化も生まれました。(スピンを使うと選択肢が増える)

スライスサーブ・スピンサーブ

回転をかけたサーブが打てる事も、初心者の段階を過ぎればある程度、標準的な技術とされているでしょう。スライスサーブを打てる方は多いでしょうし、スピンサーブの練習をされている方も少なくないはずです。

フラットサーブが基本という考え方について

今回の本題ではないので簡単に触れますが「我々が “回転をかけないという意味” で使っている『フラットサーブ』というサーブの種類は事実上有りえません。」

重力や空気抵抗等の諸条件を無視したとしても、身長2mの人がベースライン中央付近からネット中央の最低部を最短距離で狙うサーブを打つ場合、ネットの上、約10cmの空間を”必ず”通過しないとサーブは入らない計算になります。

フラットサーブは入らない

ボールの直径は6.8cmほどで通過時のネット白帯との隙間は3.5cm位

そんな精度でサーブは打てませんね。

我々が回転をかけなという意味で言う「フラットサーブ」は自身でコントロールできない空気抵抗や重力でたまたま入っているだけです。

強く打った1stサーブが入らず緩く打って『入れにいく』2ndサーブを打つ。速度が遅いから空気抵抗と重力頼りでも入れられます。

フォアハンドストロークを打つ際、殆どの方が「トップスピンをかけて打つのが基本」は筈で同じベースライン付近から打つサーブは「回転をかけないフラットが基本」というのもおかしな話です。(「打点の高さが違うから」という根拠は上の説明で否定できます)

テニスのショット区分における “オーバーヘッド系” とするなら、我々が”フラットサーブの打ち方”として学ぶのはネット近くで打つスマッシュで使うようなものだと考えます。

30~40年前、道具の進化に合わせて「ストロークはトップスピンをかけて打つのが基本」と変わった際に「サーブも回転をかけて打つのが基本」という指導に変わるべきだったのに「サーブは難しいものだ。簡単に覚えられるものではない。」という前提や先入観が邪魔をしてそのタイミングを逸してしまった。それが今も続いているのだ

と私は考えます。

我々はボールの打ち方を “形” で学ぶ

我々はテニスを教わる際、ボールの打ち方を “形” で学びます。

教え方の土台になってくるのが「テイクバックの形はこう、インパクトの形はこう、フォロースルーの形はこう。」といった具合に 各時点の “形” を再現させるもの。これに「ラケットは寝かせるな。インパクトで地面と垂直だ。」「1歩みで打つに行くな。ボレーは軸足、踏込み足の2ステップだ。」といった長く引き継がれてきている 『テニスの基本とされる文言』『コツの類』が加わります。

我々は学校の授業で慣れているので「〇〇をするにはこうこう、こういう風にやります。」と目的を達成するための『正しい手順』を示されると安心します。

ただ、「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」のでラケット面を通して一定方向にエネルギーが加わればボールはその方向に飛び、回転がかかります。

トッププロでも打ち方は違うし、我々が個々に個性的な打ち方をしているのに最低限テニスが出来ているのはこのためです。自分では「教わる通りに打っている」つもりでも皆様々な打ち方をしていますし、ちょっとした身体の使い方の違いでうまく打てなかったり、ミスに繋がったりします。

『テニスの基本』は経験則から来るものに科学的根拠 (身体の構造や機能、仕組み、より良い身体の使い方はどういうものか) 加えて長い間かけてまとめられてきたものでしょうが、基本として説明される文言にはそれらが含まれている訳ではありません。

「ラケットを立てろ。寝かしてはダメ。」な理由は何か?

そこには科学的根拠が含まれているでしょうが指導の場では説明されません。言われるままに見た目の形を再現しようとするのは考えずに済み、楽ですが、人の身体の機能や仕組みは皆、ほぼ共通しているので、基本に内在する理屈を理解しようとすることで周りの人より何歩も先に進める可能性が生まれると思います。

スライスサーブやスピンサーブの回転を考える

私は専門家や職業コーチではないので「スライスサーブ、スピンサーブをどう打つのが “正しい” のか?」は分かりませんし、説明もできません。

ただ、世間で言われる「スライスサーブ・スピンサーブの打ち方やコツ」もそのまま実行するのは躊躇します。多くの方がそうやってもうまく打てず悩んでいる訳ですからね。

「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」という前提で考えるなら、

まず、

「ボールにどういう回転がかかればスライスサーブ、スピンサーブに相当するサーブになるのか?」

という点をまず確認してみてからそれを起こすためのボールとラケットの関係性について考えるようにしたいです。

スライスサーブの回転

一般的に言われるスライスサーブにおけるボールの回転は『(水平方向の) 横回転』だと思います。例えば、こういう感じ。(※回転方向が分かりやすいよう野球のボールにしています)

ボールの回転

ラケットで打つ位置は「ボールの真横を打ちなさい」とか教わりますね。

tennis ball

でも、実際、そういう回転なのでしょうか?

マレー選手のデモンストレーション映像です。

Andy Murray Serve Slow Motion

説明では言っていませんが、打ち方やボールの回転から見て『スライスサーブ』に分類されるようなサーブだと思います。

カメラが撮っている位置や方向も関係しているかもしれませんが、この映像を見ると、ラケットとボールの回転の関係性を見ると下図のような回転をしているように見えます。

回転軸と飛ぶ方向が違うサーブ

上で述べた “水平方向方法への回転” との違いが分かりづらいかもしれませんが、ボールの回転軸と進む方向がズレている感じです。

手前に飛んでくるのにボールの回転方向は斜めになっている状態です。

回転軸と飛ぶ方向が違うサーブ2

スライダーとカットボール

野球では割と有名な “スライダー” という球種があります。

野球経験のない私は最近まで

「スライダーって速球 (4シーム) に近い、順回転寄りの回転のかけ方、シュートの逆のような回転のかけ方をしているのかなぁ」

と思っていました。

(野球の球種や投げ方に詳しくない方はすいません。少しお付き合いください。)

でも、どうやらそれは違っていて

「ボールの奥側に人差し指をひっかけつつカーブのように人差し指と親指の間から抜くような回転のかけ方」

なようです。

そのため「スライダーの握りはこれ」という説明を見た時に私は「???」でした。

私の考えていたイメージに近いのが前田健太投手のこの説明 

 マエケン投手の絶対空振りさせるスライダー!投げ方がスゴい…アニキ解説!

自分から見てボールの向こう側を触って回転をかけるのではなく、ボールの手前側を指で弾くようにして回転をかけると言われており、その説明を聞いているお二人が衝撃を受けているのが分かります。

野球の球種には “カットボール” というものがあります。

スライダーがホームベースの端から端まで曲がっていき、また、投げ始めから大きく曲がっていくのに対し、カットボールは、速球(4シーム)に近い速度でまっすぐ飛んできてホームベース近くでボール1個分位、ほんのちょっと横にズレるような球種らしいです。

 Mariano Rivera Cutter: The Mechanics of His Signature Pitch | The New York Times

また、厳密に言うと、日本の野球は、

「”球種と投げ方” を厳密に区別し、指のかけ方や握り方、回転のかけ方、投げ方を考える。基本となるストレート(速球・4シーム)に対し、それぞれの変化球の投げ方を学び、球種を増やすという方向性。」

という考え方なのに対し、

アメリカ等の野球は

「純粋に速球で勝負できるのは160km/hを越えるような一部の投手のみ。150km/h代以下の速度しか出せない投手は打者の手元で微妙に変化させる速球を投げる事を考えるべき。」

という考え方なようです。

上で「スライダーという球種」「カットボールという球種」と書きましたが、これは日本の理屈。アメリカで言うなら

「ストレートの握りや投げ方を少しだけ変え、ちょっとだけ曲げるのがCutter (cut fastball)、その曲がりをもっと大きくしたのがSlider」

となるようです。

ストレートが基本という話

この「ストレート(速球・4シーム)が基本。そこから、それぞれの変化球の投げ方を身に着けていく」という話、何かに似ていると思いませんか?

「テニスにおけるサーブの話と全く同じ」ですよね。

※野球の4シームはトップスピン(順回転)と逆向きの『逆回転』。フラットサーブは『無回転という認識』を指しているという違いはあります。

野球のピッチャーが投げる球種、例えば、カーブとスライダーの違いはどこから生まれるのでしょう。ボールの握り方? 投げ方?

縦に曲がるカーブもあるし、横に曲っていくカーブもありますね。同様に縦のスライダーもあるし、横のスライダーもあります。身体能力の違いでカットボールなのに下手な投手のスライダー以上に曲がる投手も居ます。同じ球種でもピッチャー毎に握り方が違ったり、投げ方や投げるイメージも違っていたりしますよね。

これらの事からも「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」ので、その事象が起きるために必要なエネルギー量と方向性が加わる事で、ボールは飛び、回転はかかるという事が言えます。

決まった投げ方をしないと変化球が投げられない訳ではなく、テニスで言えば「スライスサーブはこう打たないと打てない」という認識は完全ではないという事です。

握り方、投げ方ではなくどういう回転を与えれば、自分が望む目的に沿うように効果的に曲がるのか?

「カットボールを投げる」のではなく「どうfast ball をcutするか」です。

スライダーの回転

話を戻しましょう。

野球におけるスライダーという球種の回転の例を見るとこうなります。

再びこちらの動画 (1分05秒位から)

Mariano Rivera Cutter: The Mechanics of His Signature Pitch | The New York Times

3球種とも手前に向かって飛んでくるとして、他2に比べてスライダーは「進行方向と回転軸が90度近くズレている」のが分かります。

これはアメリカ(NYタイムズ)の動画なので、これが一般的なスライダーの回転としていますが、日本では、

「ジャイロ回転のスライダー」

とまた別の球種のように区分しているようです。

一流のスライダーはジャイロ回転!改良したらカクーンと曲がった。

正確には、ジャイロ効果 (自転運動をする物体は姿勢を乱されにくくなる現象) を持つ物体の回転状態を指すのでしょうが、野球では飛ぶ方向と回転軸がズレている状態を「ジャイロ回転」と言っているようです。

地球ゴマを見た事がある方は多いでしょうが、あれもジャイロ効果を利用したものです。 

Gyroscope precession.gif
LucasVB投稿者自身による作品, パブリック・ドメイン, リンクによる

「何を持ってスライダーという球種とするか」
「スライダーの正しい投げ方は?」

といった話は置いておいて

「ジャイロ回転がかかったボールをなげるとスライダーに相当する曲がり方をする」

という事を理解します。

ようやくマレー選手の打つスライスサーブの回転軸が飛ぶ方向とズレている話と繋がりました。 

回転軸と飛ぶ方向が違うサーブ2

長くなってすいません。

「曲がるスライスサーブを打つコツ」の話

強いスライスサーブを打つコツとして

「身体を開かず横向きを保ち右利きなら右方向に強く振っていく。それでもボールとラケット面が斜めに当たる事でボールは左に飛んでいく。(右に振るけど左に飛んでいく)」

といった話を聞いたことがあると思います。

【松井俊英プロ】相手を追い込むスライスサーブ【テニスレッスン】

※2分55秒位から

あくまで私の解釈ですが、これって

回転自体はすごくかかっている訳ではなくて、ラケット面の向きで速いサーブを左方向に飛ばしている感じが強い

と思うのです。

我々には

「スライスサーブはボールの右側を強く打って回転がかかっているから曲がるのだ」

といった認識 (悪い言えば思い込み) があります。

でも、相手が打ったボールのエネルギーを反発させるだけで飛ばすボレーを考えれば、ボールとラケットが接触する際、ラケット面が向いている方向にボールは飛んでいきます。

ラケットが向いた方向にボールは飛ぶ

※「単純に言えば」です。入射角・反射角、ラケット面の安定度、回転をかけるかどうか等により飛ぶ速度や回転、方向は変わります。

正面向きでラケットをまっすぐ振り、ラケット面も正面向きならボールはまっすぐ飛びます。

っすぐラケットを振る

正面向きでラケットをまっすぐ振っても、ラケット面が斜めならボールはラケット面向いた方向 (図で言えば左) に飛びます。

まっすぐ振っても斜めのラケット面なら斜めに飛ぶ

この『スイング方向 – ラケット面 – ボールが飛ぶ方向の関係性』のまま、身体を右方向に向けてその方向にまっすぐ振れば、ボールが飛ぶ角度は左方向だったものが正面方向に近くなっていくという具合です。

斜めを向きそちらの振って斜めに飛ばす

実際には、ラケットの振り方は変えずにラケット面を極端に斜めにしてしまうと、かすれた当たりになり満足に飛ばせないので、ラケットの振り方と角度の関係性を工夫する必要があり、それがこのコツを聞いてもうまく打てない理由になってきます。

コツだけではうまく打てないのは理解が付いていっていないから。

でも、この打ち方のポイントは、

「ボールを曲げるための回転をかける工夫をする前に “ボールに当たる際のラケット面を傾ける” 事でボールを左方向に飛ばす。スイング自体は(回転をかけようとする意識は不要で) まっすぐ飛ばすように強くしっかり振るだけ。しっかり振れる、ラケットの速度が上げられる事で回転量は少なくても左方向に強く飛んでいく”スライスサーブ”になる。」

といった感じではないでしょうか。

ポイントは “強くまっすぐ、しっかりと振れる” という部分。

ラケット速度が上げられなければ手首をこねる、身体を回す等して「回転をかける」動作で回転や曲がりを作らないといけなくなりますし、そもそもの話で「回転をかけないと曲がらない」と思っているとしっかり振る事よりこのような回転をかけようとする意識の方が強くなる。結果、一層ラケット速度が上がらないという負の連鎖になるでしょう。

「回転量が少ないのでは?」と書きましたが、この打ち方ならボールの左側を触る事になるのでボールの回転も水平方向、横向きの回転に近くなるとも思います。

スライスサーブを弾ませたいか?

弾むスライスサーブ?

「弾むスライスサーブ」と書くと変な印象を受けるかもしれません。

「スライスサーブはスピンサーブのように弾まず、横方向に切れて行くもの。」というのが一般的な認識だと思います。

でも、そもそもで言えば、スライスサーブもスピンサーブもストロークにおけるトップスピンと同じ順回転です。

スライスストロークのような逆回転ではありません。

トップスピンのストロークが “高く弾む” のもスピンサーブが “跳ねる” と言われるのも順回転のボールの回転軸・着地していく軌道と地面と接する角度が90度に近いからなのでしょう。

スライスサーブは回転軸が傾いており、斜めに飛んできてコートに着地します。

回転軸や落下角度と地面の角度が90度に近ければ落ちてきた方向 (この場合縦に落ちてくるから上に) に弾みますが、斜めに接触する事で地面との反発より上に弾むより横にズレるエネルギーの方が勝ってしまうので弾まずに “滑る” 動きになると考えます。

スピンサーブとスライスサーブの弾む方の違いはなぜ?

サーブの練習でそういう事を試す機会がないかもしれませんが、

『野球における縦のスライダー』のように縦回転に近い角度で回転がかかるようにスライスサーブを打てば、落下角度とコートにバウンドする角度によっては横ではなく上に弾む

でしょう。

見聞きする「サーブの打ち方」に拘らなければ、回転方向で言えばこれはスピンサーブに近いものと言えると思います。

 【みんラボ】恐るべしジェームス選手

このトゥロター・ジェームズ選手が打っているサーブ。一般的に言う「スピンサーブの打ち方」ではないですが、同様に縦に落ちて、縦に弾んでいます。まさに「縦のスライスサーブ」という感じ。

野球における縦に曲がるスライダーと横に曲がるスライダーの違いは腕を振る角度の違いが大きく、中日の岩瀬投手のような横手投げのピッチャーは自然と横に曲がるスライダーになるそうです。

トゥロター・ジェームズ選手も長身を活かした縦に近いスイング軌道で打っており、これをスライスサーブとするならかなり弾んでいるのが分かります。

Milos Raonic Serve – 2013 Cincinnati Open

上はラオニッチ選手のサーブ練習ですが、明らかに回転をかけた打ち方で打つサイドから言えばスライスサーブだと思われるものがベースラインよりかなり下がった位置にいるコーチの肩位まで弾んでいます。

左に居るイズナー選手も「スピンサーブの打ち方」には見えないのに縦回転のサーブを打ち、かなり弾んでいるのが分かります。

サイドに切れる軌道だからスライスサーブなの?

一般的にスライスサーブのイメージは「サイドに切れて行く」軌道だと思います。

ただ、プロほどラケット加速・ラケット速度が無い、サーブを打つ技術が未熟な我々だと、回転をかけることでバウンド後に失速し、ベースラインまで飛んでこない、サイド側に追いつつもベースラインより中に入って打つリターンになる事も多いです。

サイドに切れるスライスサーブ

ダブルスをやってもほぼ全てのサーブをワイドに打つ方も多いので、お決まりに “ベースラインより後ろ” で待つよりトスに合わせてベースラインより中に入ってリターンする方がよい形でリターン出来たりします。回転をかけようとすることでより速度も落ちますからね。変に「曲がる」事に幻惑されない方が良いです。相手の思うつぼですから。

※後述するボールの下側を触って回転をかける打ち方だとストロークのスライスショット同様「弾まない」「止まる」ようなスライスサーブも打てます。「それは “本当の” スライスサーブではない」と言われるかもしれませんが、エネルギーを加えれば物理現象としてボールは飛び・回転がかかるだけなので、それを自分のサーブとして活かせるなら構わないと良いと思います。何が正解かとかは別の問題です。

自分のサーブ技術やラケット速度とも相談ですが、回転軸と飛ぶ方向を考えみると、一般的に考えるスライスサーブよりもやや” 軌道が高い” 、バウンド後に弾んでベースライン上に立つ相手の “肩位の高さ” で取らせるような”スライスサーブ”も打てると思います。

弾むスライスサーブ?

「これはスピンサーブではないのか?」

と思われるかもしれませんが皆が言う区分から言うなら

「サイド側に曲がりつつ切れて行くならスライスサーブ」

なのですよね?

前述したように同じ順回転をかけたサーブなら地面との接触角度等により跳ねる方向が変わるので「正しい打ち方」はどうあれ、スライスサーブもスピンサーブも少し違うだけとも言えるでしょう。

「〇〇サーブの打ち方」からではなく、シンプルに “ボールに加わる回転” から考えていくとこういう可能性も思いつく気がします。

また、サーブを打つ際のポイントの一つは「相手にどう取らせるか?」だと思います。

100%ノータッチでサービスエースなんて事はないですから、曲がる事に満足しても仕方がないですし、相手が返球できないのは『リターンの技術不足』なだけかもしれません。(サーブ以上にリターンを練習する時間は少ない)

コースや球速だけでなくバウンドした後の高さで相手にリターンしづらい状況を作りたいです。そのためにはスピンサーブでなくても全てのサーブで『バウンドした後の弾む高さ』も大事です。

サーブについて色々考えておられる方にとっては「こんな事は常識」なのかもしれませんが、テニススクールでサーブを教わる際、こういった点を知る機会、考える機会はなかなかありませんからね。

因みにサーブが弾むのは回転ではなく速度と高さ

「スピンサーブが弾むのは強い回転がかかっているからだ」という一般認識がありますが、高い軌道で落下してくるロブは頭の上まで弾んだりします。トップスピンロブではないほぼ無回転のフラットロブでもこの弾み方です。

tennis lob shot

・地上50cmから自然落下したボールが1m弾む事はありません。

・逆に2mから落下したボールは1m弾んでも不思議ではありません。

・また、地上50cmからでもエネルギーを込めて地面に打ち込めば2m弾む事はあり得ます。(スマッシュが弾むのはそのため)

我々は「サーブの確率を上げるために打点を高く取ろう」としますが、身長2mの人でも無回転のサーブでは入らない事は最初に述べました。

むしろ、高い位置で打とうと強くジャンプしようとする、身体の軸が傾くほど姿勢を変える事で安定的にボールを捉える、地面に両足が付いている状態なら強く振れるラケット速度が落ちてしまう方がよほどマイナスだと考えます。

コーチの球出しをスマッシュで打つ練習でも、必ずジャンプして頭上の高い打点で打とうとしているとこの点に気づけません。

そもそも、

「ネット間際で打つスマッシュを必ずジャンプして打つ意味」は何でしょうか?

逆に、打点を高く取るためにジャンプするのではなく、ボールを飛ばす方向 (前) に向けて強くラケットを振るために両足で地面を踏む結果として起きるジャンプならサーブの速度を上げるために必要となってきます。

上のラオニッチ選手のサーブ練習を見てもジャンプし地面から足が浮いている高さはほんのわずか (10cm程度?) に見えます。むしろ「腕を前に振るために地面を強く踏んでいる。結果、コート内に着地している。」と考える方が自然な気がします。

「野球の投球動作とサーブは共通点がある」と言われますがこの辺りもあるでしょう。

ピッチャー

同様にバウンド後にボールを弾ませたいのであれば「打点を高く取る意味」はあります。50cmから自然落下したボールが1m弾む事はないが2mからならあり得るからです。

ただし、「打点を高く取れば良い」ではなく、身体の姿勢が傾いたり、しっかりと腕が振れないような体勢になってしまったりしない範囲で、自分が “最も腕がしっかりと振れる” 高さとして「高い方が良い」という感じです。

サーブの速度が上がらなくても、(ロブの例で分かるように) 打点を高くする事でボールはバウンド後、弾みやすくなりますが、それでは前進力が無いため、じっくりと準備して落ちてくる所で打ててしまいます。

トップスピンのストロークが打ちづらいのは、弾む高さそのもの (バウンドの変化量) よりもバウンドにより地面の吸収される前進のためのエネルギーがバウンド後も十分残っている場合です。ボールに喰い込まれるという感覚はこれによって起きるのでしょう。

つまり、弾むサーブを打ちたければ、打点の高さとラケットの (そこから生まれるボールの) 速度が重要と言えます。

ラケット速度が上がらない不安定な体勢で限られたエネルギーを回転に使っても「回転はかかっているけど飛んでこない」スピンサーブになるのはこの辺りだと思います。

回転をかける事より先にサーブの基盤となるのは何なのかといった点になるでしょうか。

ジャイロ回転がかかるようにスライスサーブを打つなら

一般に言われるボールの横を打ち、水平方向に横回転させるスライスサーブを野球で言う “カットボール” のような回転のかけ方だとするなら、ジャイロ回転でサーブを打てば『高い軌道でゆっくりと大きく曲がっていき、バウンドも弾みやすいスライスサーブ』に出来そうですし、回転軸を工夫する事でスピンサーブに近い使い方もできる気がします。

こういう回転で打つにはどういう打ち方になるでしょうか?

ここでも「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」という点から方法はいくつか考えらえます。

ピッチャーが色んな投げ方で変化球を投げるようにボールに対してこういう回転をかける方法は一つではない事は分かりますよね。

回転軸と飛ぶ方向が違うサーブ2

良く出てくる『ボールを後方から見て文字盤の数字を当てはめる図』ですが、

ボールの上側か下側を触って回転をかける

ボールを飛ばしたい方向 (前に) に飛ばすエネルギーをその方向に十分伝えつつ、ボールの上側を触って引き下ろすように回転のエネルギーを加えても良いし、上側を触るのが難しければボール横から下側をひっかけるようにして回転のエネルギーを加える事もできます。

※ボールの真横を打つのでは前に押すエネルギーと回転方向が前向きにあるので飛ぶ方向と回転軸がズレたジャイロ回転にはしづらいですしょう。

投球では指をボールにかけられるのでボールの前側を指でひっかけて回転をかけるといった事ができますが、平面に近いラケット面で打つためそういう事ができません。

ただ、ラケットにはストリングス(ガット)が縦横に張ってあり、ボールと接触した際にそれらがズレ、ボールに回転を与える事に寄与しています。

ラケットの縦ガット・横ガット

ストリングスがボールに作用する事で飛びや回転が生まれる訳です。

かつてWilson社は

「ボールとラケットが接触しストリングスがズレる。それが “戻る” 際にボールに回転がかかるのだ」

と説明しました。

Snap Back Swing(スピン・バック・スウィング) スーパースロー

これに対し、私は、ラケット・ストリングスはボールが離れるまでしなりっぱなし、たわみっぱなし、ゆがみっぱなしであるのが原則 (だからしなるラケットはしならないラケットよい”飛ばない”) と考えているので “トランポリンのようなたわみやズレが戻る事による飛びへの影響” についてはよく分かりません。

HEAD Making of: Tennis Racquets

ただ、ストリングスがズレてボールの一方の端に密度を増して偏るのは飛びや回転に影響を与えるであろうことは興味を持ちます。

このような観点から、もう一度マレー選手のサーブを見てみましょう。

Andy Murray Serve Slow Motion

プロが打つスライスサーブはボールの “上側” を多く触っているようです。

ボールの上側を触って回転をかけるのは技術的に難しいです。スイング速度を上げないと十分な回転量がかけられないからです。また、しっかりとボールを上から抑え、ラケット面で捉えられないと回転がかからず距離が伸びた “フカす” サーブになりそうです。

ラケット速度を上げるためには「ラケットヘッドが走る」必要がありますし、ここでは細かく書きませんが腕の外旋から内旋、回外からの回内の動きもスムーズに行える必要があります。マレー選手のスイングはそうなっていますね。

しっかりと大きく曲がる、バウンド後弾ませる事ができるサーブを考えればこういうサーブを目指したい所です。

一方、ラケット速度が上がられない、年齢などにより腕をしっかりと上げる事が難しいといった方にはボールの下側を触って回転をかける事もできます。

よく言われる「リンゴの皮むきサーブ」というスライスサーブの打ち方がありますが、この特徴は腕を捻じる (回外からの回内の動き) 動きを抑え、ラケット面を返さないで打つといった点です。

私はフォアハンドスライスの打点を上に上げていけばスイングはそのままでこの「リンゴの皮むきサーブ」になると考えています。

フォアハンドスライス
フォアハンドスライスの打点を上げたサーブ

上で「スライスサーブはトップスピンと同じ順回転」と書きましたが、この打ち方はボールの下側を触る事でフォアハンドスライス同様の逆回転になります。

ボールの下から上に振ればトップスピン回転(順回転)、ボールの上から下に振ればスライス回転(逆回転) になる理屈と同じです。

逆回転で飛ぶボールは重力や空気抵抗に逆らって飛距離が伸びていくので少ない力で遠くまで飛ばす性質を持ちます。(エネルギーが尽きれば失速、高くバウンドもしない。)

逆回転

一方、上から下におろす使い方では腕を速く振れず、両足や身体の力が使えない事でシンプルにトップスピン系ストロークより速度は出せません。

『リンゴの皮むきサーブ』を打つとボールはゆっくりと伸びていってコートに着地し、弾まずに失速してしまう感じになるでしょうか。

ただ、前述したように、ボールの上側を触ってスライスサーブを打つのは技術的にも難しいので、多くの方が「自覚ないままボールの下側を触る形でスライスサーブを打っている」状況だったりします。

スライスサーブを打っている方のインパクト前後のラケット面がこういう形になっていれば該当すると思います。

いわゆる「面が開いた」「面がオープン」な状態で手首が伸び、腕とラケットの中心線が一直線になっています。ボールの下側を触っているのが分かりますね。

開いたラケット面でのインパクト

ボールの上側をラケット面で効果的に触れるには腕とラケットが一直線になってしまうと難しいです。

腕とラケットが一直線になった状態でボールの上側を触ろうとすればラケット面で真下に打ち付ける打ち方になってしまいます。回転はかかりません。ネット際のスマッシュ等で使う打ち方ですね。

腕とラケットが一直線になるインパクト

ラケットを加速させるためにラケットヘッド側を大きく動かしたいのに、肩を支点に腕全体を動かう感じでヘッド側の稼働も小さくなります。(回転をかけないスマッシュ等では上から抑えるこういう打ち方もあるでしょう)

「プロ選手のインパクトを見ると腕とラケットの間に角度がある」と言われる事があると思います。 

ラケットの握り方は人それぞれでしょうが、

目の前に差し出されたラケットをそのまま握ったら前腕 (肘から手首まで) とラケットの中心線の間に “角度が付く” のが自然な状態

だろうと思います。

手首とラケットに自然な角度がある

手首が伸びるような状態で握っていてはラケットの重さを支えるだけで腕に力が入ってしまいますし、この状態でラケット面にボールが当たればボールを支えきれません。

手首が伸びラケットと腕が一直線

テニスで「ラケットを寝かせるな、ラケットを立てろ」と言われるのはこれが関係していると考えます。

我々はプロ選手のサーブ写真 (ボールを打った直後) を目にしますし、「出来るだけ高い打点で打つ。高い打点で打たないとサーブは入らないと」思っているので、

「目一杯、腕を伸ばした状態でボールを捉えるのがサーブのインパクトだ」

と思いこんでしまっています。

ボールを打たないで確認して見れば分かりますが、腕が上がり、伸びた状態のままでは強くラケットを振るのは難しいです。

腕でラケットを振る

我々は写真を見て「プロはこうしてる」と思ってしまいますが、実際の所、

プロ選手は意図的に手首とラケットに角度をつけてインパクトしている訳ではない

のでしょう。

何かを軽く投げる際のように、腕や肘に余裕がある、伸びきっていない状態で振る方が「腕を強く速く」振れる。その余裕が、腕とラケットに自然な角度がついたままでインパクトできる

のだろうと推測します。

ラケットを振る1

「強いサーブを打つ、回転を強くかけるにはプロネーションを使え」と聞きますが、下図のように

腕とラケットが “一直線” になった状態で前腕の捻じれ (プロネーション・回内) が起きてもラケットの中心線を軸にラケット面が “ぐるっと” 回るだけ

だと分かります。

プロネーション??

「これがサーブでプロネーションを使うって事じゃないの?」と思っている方も居るかもしれませんが、ラケット面が回るだけでサーブに威力が出る理屈が分かりません。(私が知らないだけなら申し訳ないですが)

プロネーション??

挙手するように腕を上に伸ばすのではく、肘や手首に余裕がある(伸ばしたりしない)状態で腕を “前” に振っていけば、最初からある腕とラケットの角度差によってラケット軌道は3次元的な動き方をします。

腕を伸ばす動き
肘や手首に余裕がある状態で腕を振る
ラケットは3次元的に移動する
ラケットは3次元的に移動する

また、棒 (腕) の先にあるボール棒に付いた枝の先についたボール、棒を回転させた際にどちら大きく動くか、速度を持って移動するかは一目瞭然です。

棒に付いたボールと棒の枝部分に付いたボールの移動は違ってくる

これらから「腕が伸びきった状態で “プロネーション” するのがサーブの質を上げるとは思えない」と考えるのです。

プロネーション??

簡単に言えばラケットを振る反動で腕が伸びる前にボールを捉える、ラケットが頂点に到達する前にボールを捉えるといった事。

「頂点で打ったらボールに回転はかからないよ」と言われる話とも繋がると思います。

スピンサーブもジャイロ回転に近いのでは?

スピンサーブの打ち方として「身体の横向きを保ったまま腕を振れ」と言われますね。

身体の横向きを保ったまま、腕も横方向に振り、ボールは斜め前に飛んでいくとすればボールの回転軸と飛んでいく方向はかなりズレていると考えるのが妥当だと思います。 

Roger Federer Serve In Super Slow Motion – 2013 Cincinnati Open

回転軸と飛ぶ方向が違うサーブ2

我々がフラットサーブをサーブの基本として身に着けてしまう事で「スライスサーブ、スピンサーブを打つ際にも体が回ってしまい、体が向いた方向 (ボールを飛ばしたい方向) に腕を振ってボールを飛ばそうとしてしまう。」という事が起きがちなのだろうと思います。

くり返しになりますが、私は専門家や職業コーチではないので「スライスサーブ、スピンサーブをどう打つのが “正しい” のか?」は分かりませんし、説明もできません。

でも、サーブの打ち方は置いておいて、ボールが飛ぶ方向と回転軸が違うジャイロ回転でボールを打とうとすれば「ボールとラケットはどういう当たり方が出来るかな」といった少し違った発想がでてくるのではないでしょうか?

※もちろん怪我がない事を最優先でお願いします。

動画の例を見つけられなかったのですが、打点を高く取れない状態で緩くグラウンドスマッシュを打って返球する場合は、ボールの触り方や回転、力加減とかこれに通じる気がします。 

遊びではないですが、そういった試行が、練習していてもいまいちイメージがつかめないサーブの理解への理解を我々が深める一歩にならないかと思っています。