ボールが飛びすぎて困る
「ボールが飛びすぎて困る」という話を聞きますね。
私が今使っているラケットはPRO STAFF 97CVで、これまでもずっとこれに近い仕様のラケットばかり使ってきています。ストリングスも使うラケットの感覚以上に飛ぶものを使わない (飛ばないラケットに飛びやすいストリングスを使うという考え方はありますね) ようにしており「飛びすぎて困る」という経験はこれまであまり無いのです。それでも、周りで「飛びすぎて…」という話は聞こえてきます。
ボールの質は加わるエネルギー量、加わる方向・角度、当たり方が決める
私は「ボールが飛び回転がかかるのは物理的が現象でしかない」と考えており、ボールの質を決めるのは『ボールに伝わるエネルギー量』と『エネルギーが伝わる方向や角度』、そしてそれらを決定する要素としての『ラケットとボールの当たり方』があると思っています。(ボールが飛ぶ際に重力、空気抵抗、風等が加わりますが、上の要素で打ち出したボールの質は変わらない)
また、ボールが飛び回転がかかるためのエネルギーは『重量と速度を持って飛んでくるボール』と『自ら加速させたラケットが持つエネルギー』の2つがあり、テニスのプレー中、我々はその2つを常に意識して「使い分ける」事が望ましいです。
※準備時間が短い、相手ボールの速度も残っている、飛ばす距離も短いボレーが「ラケットを振るな」と言われるのはこのため。サーブは自らトスしたほぼ速度ゼロ (ボールが持つエネルギーが小さい) を自らのラケット加速で飛ばすショットです。ストロークを打つ際は状況や場所によって両者のバランスを考えないといけません。最も速度のあるショットであるサーブに対するリターンを「強くスイングして打ち返してやろう」とする事の意味を考えたいですよね。
新しいラケットが発売されるタイミングだから
自粛期間明けのこの9月、色々と新しいラケットが発売予定な中、実際にそれがボールを打つ際に意味を持つかどうかは別にして「ボールが飛びすぎる」という事を理屈の面から整理してみるのはどうかとふと思いました。
ちなみに例のやつを予約注文してみましたよ。
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ボールは重力で落下する
地球上には重力があり、空中で離した物体は重力により自然落下します。
By MichaelMaggs, CC BY-SA 3.0, Link
宇宙空間ではないので「水平方向に打ち出したボールがその軌道で延々と飛び続ける」なんて事は起こらないです。慣性の法則もあり、ボールは加えられたエネルギーに応じた直進運動 (前進) を行いますが、飛ぶのにエネルギーを消費し、新たに加えられるエネルギーもない (ボールに推進器は付いていない)。重力に逆らえず打ったボールはその内に自然落下していきます。
そして、地球中には大気があります。
ボールは飛ぶ中で常に空気にぶつかり、押しのけるように進んでいくので、飛び始めで回転がなくても、加えられたエネルギーの伝わり方の偏りと空気抵抗との関係により飛んでいく中で自然と回転がかかっていきます。(これが「完全な無回転のサーブはない」という話に繋がります)
下動画は飛ばすのではなく自然落下ですが「風に流されている」だけでなく曲がっていくのは場所の様子を見ても分かりますね。
What Happens When a Spinning Basketball is Thrown Off a Dam!
空気抵抗で発生する回転も「長くまっすぐ飛んでいく」事を邪魔し、落下に繋がる要因になり得ると考えます。
※野球でナックルボール等、無回転に近いボールを投げると変化が予測しづらく投げる度に違う。キャッチャーすら取りづらくなります。コントロール性を上げるためにも意図的に回転をかけている。テニスでも自分から明確に回転をかけてコントロール性を上げるという事はあるでしょう。逆に目的を「相手コートに向けて “前に” 飛ばしていく」から「回転量を増やす」にしてしまうとミスショットばかりで安定したテニスにならないのも想像が付きます。
順回転と逆回転の特性の違い
テニスでストローク・ボレーを打つ際に加える回転として大きく『順回転としてのトップスピン』と『逆回転としてのスライス』の2つがあります。
逆回転は重力に逆らって浮き上がりながら飛距離が伸びる特性があり、野球で言う速球 (ストレート、4シーム) がこの回転です。
ピッチャーの投げる速球が「浮き上がる」と感じるのは、それまでの経験から体感している自然落下による妥当な降下分がない故に感じるものでしょう。ピンポン球のように軽量ではないため人がオーバースローで投げてホームベースまでの距離で「軌道よりも上に上がる (本当の意味で浮き上がる)」ことはないと思います。
逆に、トップスピンにあたる順回転は、飛ばしたい距離まで届くように前向きのエネルギーを加えないと途中で落下してしまう」特性があります。
野球のカーブ等は直球と同じ軌道で投げると「キャッチャーまで届かず着地してしまう」のでリリースする際に自然と軌道を上に上げる、少し斜め上に向けて投げるイメージがありますね。
MLB | Savage Curve
以前、何かの動画で元プロ野球選手の桑田真澄さんが「球種の中でカーブだけ仲間はずれなんですよ」と言われていて、恐らくですが「直球、スライダー、シュート等は仲間で、カーブだけが他の球種と投げる際の動作が違う」という意味だと思いました。
サーブを打つのは投球動作に近い??
この部分は蛇足ですが「サーブを打つ動作は投球動作 (投てき動作) に近い」と言われ、私もそう思っていますが、野球の “直球” を投げる感覚でサーブを打つとサーブに求められる回転はかかりにくいと考えます。
述べたように『指からボールが離れる瞬間、そのギリギリまで “逆回転” を強くかけられるように工夫をした動作』だからです。
極端に言えばこういう事だったり。
こういう肘を引き下げるように逆回転をかけたサーブを打つ方はたまに見ますね。
或いは、ネット間際からの叩きつけるスマッシュのように上から抑え込むように打つかです。
どちらも “順回転” が勝手にかかりそうな打ち方には見えないです。
我々は「サーブの基本はフラットサーブだ」と目標に対して正対した状態でまっすぐラケットを当てる。ネット間際のスマッシュでしか使えないような打ち方から『サーブの打ち方』を教わるのが実情だから余計に…です。後にやりたい「回転をかけたサーブ」で障害になりますね。
軌道を上げれば遠くまで飛ぶ
大砲で砲弾を打った経験がなくても「加えるエネルギー量が同じでも、打ち出す角度を上げる事で遠くまで飛ばす事ができる。同時に、打ち出し角度が上がりすぎると遠くまで飛ばせなくなる」というのはそれまでの経験から知っています。
By User:Cmglee CC BY-SA 3.0, Link
ただ、どの位の角度で打ち出せば最大の飛距離が得られるかという実感がなく、毎回同じような打ち方が出来る訳ではないので「軌道を上げれば遠くまで飛ぶ」という認識止まりになっている感じでしょうか。
この辺りを突き詰めても再現性の問題から必ず良い結果に繋がるとも思いませんが、打ち出し角度に対する認識の曖昧さ (どの位エネルギーを加えて、どの位軌道を上げれば、どの位飛ぶかといった認識) を生んでいる、それがボールを打った結果にも反映されているように思っています。
打点の高さで軌道はどう違ってくるか?
我々は「ネットより高い位置から打つ場合、ネットを越すために回転を多くかけたりする必要がない。強打しなくても速度に多くのエネルギーを割り振る事ができ、攻撃的なショットを打ちやすい」という実感がありますよね。
同時に「ネットより低い位置から打つとネットを越すために軌道を上げる必要がある。強く打つ事が難しくなる」という実感も持っています。
テニスコートのネットの高さは中央の最低部で0.914m、左右の最高部で1.07mです。
ここでは、ベースライン中央付近からネット中央の最低部の上、5cmの所 (地上から0.964mの所) をボールの最下部が通過する (ボールの大きさは6.54~6.86cmなので、ネットの最低部の上、8.5cm位の空間をボールの中心が通過する感じ) と仮定し、打点の高さとこの位置を通過したボールがどう飛んでいくかを考えてみましょう。
※単なる試算なので空気抵抗や重力を条件に含まない。「本当にまっすぐ飛んでいく」とした場合になります。この場合、飛び方に打ち方は関係しない (こういう飛び方も本来はあり得ない) のでストローク、オーバーヘッドといった縛りは設けません。条件と結果だけ “そのまま” 見ていただけばと思います。
a. 地上から80cmの高さの打点
地上から80cmの高さの打点というのは身長170cm位の方の腰位でしょうか。多くの方が基準と考える位の “普通” の高さだと思ってください。
ネット上を通過したボールは相手コートのベースラインに到達した際、1.13m (+0.313m)の高さになります。
打ち出し角度:約 水平+0.79度
相手コートのベースライン到達時の高さ:約 1.13m
b. 地上から96.4cmの高さの打点
ネット上のボールが通過する高さと同じ高さの打点でベースラインから打つとした場合です。高さが同じで水平方向に進むのでこういう軌道になりますね。
打ち出し角度:水平±0度
相手コートのベースライン到達時の高さ:0.964m
c. 地上から40cmの高さの打点
地上から40cmの高さの打点というのは身長170cm位の方で膝下位になります。低めのボールを持ち上げて打つ感じでしょうか。
ネット上を通過するために水平より上向き (+2.717度) に打ち出す事になるので、相手コートのベースラインに到達した際、1.62m (+1.227m) の高さになります。
打ち出し角度:約 水平+2.717度
相手コートのベースライン到達時の高さ:1.627m
d. 地上から150cmの高さの打点
地上から150cmの高さの打点というのは身長170cm位の方で肩位になりますね。浮いた甘いボールを打ち込む感じでしょうか。
ネット上を通過するために水平より下向き (+2.717度) に打ち出す事になるので、相手コートのベースラインに到達した際、0.43m (-0.53.4m)の高さになります。
打ち出し角度:約 水平–2.582度
相手コートのベースライン到達時の高さ:0.43m
単純な計算でも「より高い位置から打つほうが有利」と分かる
『c. 地上から40cmの高さの打点』と『d. 地上から150cmの高さの打点』の比較では打点の高さと相手コートのベースライン到達時の高さが入れ替わった感じになっていますね。
これらの計算結果を見ても、
- 打点の位置から水平より上向きに打ち出す (打ち上げる) という事は『相手コートでボールを落下させる長さ』に大きく影響する (“より大きく” 落下させないといけなくなる)
- “より高い” 打点から打つ方がその落下幅を小さくできる (回転をかけて無理やり落下させる、加えるエネルギーを加減する等を少なくできる可能性がある)
といった話が改めて分かります。
ただ、その人の身長、身体の大きさ、筋力もありますし、腕が付いているのは肩なので、肩よりも高い位置で打つなら、そこまで弾む前に打つ方が良いかもしれません。ラケットを上げて打つのも、ベースライン付近からグラウンドスマッシュを打つにも威力が出しづらいでしょう。
落ちてきた所を打つのはそういう選択が妥当な状況もありますが、最初に述べたようにボールが飛ぶエネルギーはラケットで加えるもの以外にボール自体が持つものも使えます。バウンドの頂点より前で打つ方が相手ボールのエネルギーを飛びや回転に使えますね。(無理してそうする必要はないです。うまく打てる確率も大事ですから)
「テンションを下げるとボールが飛ぶ」という話はそれなりに否定したい
ラケットにストリングス (ガット)を張る際に「冬場はボールが飛ばないからテンションを下げる」といった話がありますね。 ボールに接触した際の衝撃でラケットやストリングスはしなり、歪み、たわみ等が起こるでしょうが、私は「接触したボールが離れ、押される負荷がなくなるまで、ラケットやストリングスはしなりっぱなし、歪みっぱなし、たわみっぱなし」と考える方が妥当と思っています。 142mph Serve – Racquet hits the ball 6000fps Super slow motion ラケットのしなりやストリングスのたわみの話が出る際に話に上がるのが『トランポリン効果』の「ストリングスがたわみ、それが戻る際にボールを飛ばす」という内容だと思います。 また、そこから派生した感じの「ズレたストリングスが戻る際に回転がかかる」という『スナップバック』の話があります。 まず、トランポリンで飛んでいる状況を考えれば「ある程度時間をかけてそれなりの距離を押し込むから、同じ位の時間をかけてその距離を復元して飛ぶ」のでしょう。 0.003~0.005秒と言われるインパクトの瞬間にそんな「飛びに影響する位にたわんで戻る」事象が起きるとは考えにくいと思うのです。 飛んでくるボールのエネルギー、ラケットから加えられるエネルギーがボールを強く変形させているのはすごく短い時間です。ラケットやストリングスを押していたボールの圧力がボールが飛び出す事でなくなり、しなり、歪み、たわみは戻るのでしょうが「それがボールを飛ばす」というのは妥当なのでしょうか? 私には「ズレたストリングスが戻る事で回転がかかる」スナップバックが理屈として正しいかは分かりませんが、野球には「ボールを投げる際、5本の指で “わしづかみ” するより人差し指と中指をかける。また、それら2つの指の間隔が “空いている” より、”狭めて持つ” 方が回転はかかる」という話があります。 ここから、ストリングスがズレる事でボールに対して「偏った力の伝わり方」が発生する。それが『回転』に影響を与えるというのは “妥当” なように思うのです。 また、冬場にボールが飛ばなくなるのは、気温が下がり、ボールの素材が硬くなる。中の空気が収縮して飛びにくくなる。気温が下がる事で周りの大気が収縮し、空気中の粒子 (窒素とか酸素とか二酸化炭素とか) の密度が上がるのでその抵抗でボールが飛びにくくなる (プールの中を歩くようなもの) 等が関係していると考えます。 新品のボールは打った際『硬く』感じますね。冬場で気温が下がり、素材と中の空気の関係で打感は『硬く』感じる。寒いので温かい時期程身体も動かないから「飛びづらい」印象も受ける。 だから「テンションを落として “硬い” 打感を緩和、調整する」というのが「冬場はボールが飛ばないからテンションを下げる」という話に繋がっている気がしています。 実際、普段、50pで張っている人が45Pで張った全く同じラケットを渡されても (交互に打ち比べでもしない限り) 飛びの違いには気が付かないとも思います。 ラケットやストリングスのしなり、ゆがみ、たわみはエネルギーの伝達面で言えば『当り損ない』と同様の伝達ロスでしょう。伝達効率だけ考える、ボールを遠くまで飛ばす事だけを考えれば「ものすごく硬くて変形しないラケット」「ピアノ線ように硬い素材をたわまないように硬く張る」のが理想かもしれません。 でも、人は感覚が鋭いので、ラケットの違い、ストリングスの違いを性能以上に『打感』として感じ、「このラケットは使いやすい」「このラケットは使いづらい」と感じます。 同時に人は環境に慣れる順応性を持っているので、親に貰った重たく飛ばないラケットでも使い続ける中で「やっぱりこれが一番」と思うようになったりします。(だからラケットやストリングスを頻繁に変える方はいつまでも「道具を信頼して使える」ようにならないとも思います) また、ラケットとストリングスの組み合わせには「もっとも飛びやすい組合わせ、テンション」があるでしょう。最近は「緩めのテンションで張る」のが流行りですが、以前に見た雑誌のテストでは「60P以上の非常に硬いテンションで張ったものが一番飛ぶ」という結果が出ていました。(ラケットやストリングスが変わればまた違った結果がでると思います) |
プロは『水平方向に長く』飛ばすようエネルギーを加えている
「ボールが飛びすぎる」という話が出る際、その対策としてよく上がるのが「トップスピンをかけて飛距離を短くする」という話と「飛距離が出にくい道具 (ラケット・ストリングス) を使う」といった話だと思います。
これらとは別に、YouTube等で男子プロのラリー練習を見ているとその多くは、バウンドが頂点に達する前位のタイミング、あまり打点を落とさないタイミングで “水平方向に” 飛んでいくようボールにエネルギーを加えている 印象を受けます。
Marius Copil and Stanislav Wawrinka practice in Sofia 2018, Court Level View
回転をかけるために「バウントしたボールが落ちてくるのを待って、振り上げるようにラケットをスイングして打つ」選手は見かけません。
道具の進化でプロの打つボール速度・威力が上がり「打ち頃に落ちてくるのを待って打つにはベースラインから5m後方で」とかになりそうですし、飛んでくるまでの大きくエネルギーを消耗したボールを「一生懸命振って飛ばす」より、バウンド直後のエネルギーの残ったボールを「軽く打つ」方が相手の時間を奪えるメリットもあります。現代テニス的な部分ですね。
ナダル選手が「ラケットを振り上げて打っている」という点
因みに、多くの方が思うナダル選手のスイングは「ラケットを振り上げている」イメージでしょうが、身体を地面と垂直より “やや後傾” させてスイング角度を上げているものの、スイング軌道自体は体軸と90度の回転軸に沿ったもの。フェデラー選手の打ち方と変わらないと考えます。
また両選手とも「グリップが厚くない (ナダル選手はセミウエスタン位)」という特徴があり、腰から膝上位の『薄いグリップで打ちやすい打点の高さ』を基本のストロークで使っています。
グリップが厚い、打点を前に取る他選手とは異なる。2人の身体の使い方には共通点を感じるのです。
バウンドが落ちてくる所を振り上げて回転をかければ、そりゃ距離も長くなりやすいし、飛ぶ距離も調整しづらいですよね
回転をかけたいから敢えて打点を落とす
一概には言えるものではないですが、
「強いトップスピン回転をかけたい」と “回転” に対する強い思い、憧れがある方は、ボールが落ちてくるのを待って打つ、敢えて打点を落として打ちたいという傾向が見られる
と思っています。
スイングしていきたい方向とボールが進んでくる角度が合うからでしょう。
この「待って打つ」という部分が、想定よりボールに速度がある、前進力が強い、球足の速いサーフェスだったりすると「ボールとの距離感が近くなり窮屈なスイングになる」事もあります。失礼ながら、高校生位の「グリグリに回転かけて強く打ちたい」系の方の打ち損じはそんな感じでしょうか。ちょっと勿体ないですね。
グリップが厚い分、打点も前に取らないといけないけど、飛んでくるのを “待って” 打とうとするから喰い込まれてしまいがち。グリップが厚い分、ラケットと身体の距離感が近く、ボールの延長線上に近い所、身体の正面に近い位置でボールを捉えようとするのも「距離感が合わせづらい」要因だと思います。(ボールの前進を、斜めから見る、真正面から向かってくるのを見る違い)
無意識でも、リバースフォアハンド (バギーホイップ) を多用してしまう方は「ボールが飛んでくるのを待っている」傾向もあると考えます。一旦下がった所から、前進しつつ打とうとするような方に比べ、前方向への距離感に対する “余分・マージン” が小さいでしょう。
フェデラー選手やジョコビッチ選手が「打ち損じが少ない」「不安定な態勢でボールを打つことが少ない」のは、予測に基づくこのボールとの距離感を適度に保ち続けているからだと素人ながらに考えます。以前は見られた、2人のこういうシーンを最近はほぼ見ません。(下がらずに打てる技術を高めた部分もあるでしょう)
厚いグリップは『高い打点』で打つのに向いている
グリップには『厚い』『薄い』と呼ばれる違いがあり、ボールを飛ばしたい方向 (例えば水平方向) にラケット面を向けた際、握り方によって打点の位置は違ってきます。(人の身体の構造によるもので打ちやすさはあってもその理屈から外れる打点のとり方はしたくない)
基本的に、グリップが厚くなるほど打点位置は身体から前に離れ、グリップが薄くなるほど身体に近くなる傾向にあります。(腕の長さもあり前に離れるにも上限が、身体に近づくにも肩よりも後ろにはなりません。なお、フォアハンドの場合、横向きを作る事で打点の位置は更に下げる事も可能です) また、グリップが厚いほど高い高さが打ちやすくなり、グリップが薄い場合は腰から膝位までの高さで打ちやすくなります。
イースタン~セミウエスタンの “厚くない” グリップで打つフェデラー選手、ナダル選手が腰位の打点で基本のストロークを打っているのは前述しました。
打点が腰位の高さだから、両足で地面を蹴って得る『反力』を直接的にラケット加速に反映される打ち方をしていると考えます。
加速に時間がかからず、低い打点を打ちやすいので「バウンドが頂点に達する前に捉える。速いテンポで打つ。ベースラインから前に入って打つ。相手の時間を奪うといった現代的なテニス」のに向いていると考えます。フェデラー選手は現代テニスの進化を引っ張る代表でしょうし、ナダル選手がベースラインから下がらずに打つ、時にはスニークインでネットで決めるといったテニスに変更できた要因の一つだとも思っています。
一方のグリップが厚い場合は肩位の高さの打点も打ちやすいです。
ただ、低い打点を打つ際は、身体の回転軸 (肩のライン) を傾ける、スイングもやや斜めに振る、ワイパースイングの要素を増やす等の工夫が必要になります。身長2mの選手に「膝を大きく曲げて腰を落とす」は難しいですし、打った後の次に動作にも影響しますからね。
「高い打点が打ちやすい」という利点を活かしたいですが、スイングしていく位置が地面から遠くなるので、薄いグリップのように両足で地面を蹴って得る『反力』を直接的にラケット加速に反映される打ち方、地面を踏んで下半身で瞬間的に加速といった打ち方が難しいです。
結果、上半身の力をダイナミックに使い、大きめのテイクバックから身体の前、薄いグリップよりも身体から遠い打点に向けて “時間をかけて” 大きくスイングするような打ち方が見られます。
前に遠い分、後ろも大きく取って前後のバランス、感覚的、時間的なズレを解消する感じでしょうか。「前に大きく振れ」とは言っても身体に近い所からいきなり前に大きく振るのでは力も入らない (足の力も) し、バランスも取りづらいでしょう。
また、「高い打点でジャンプしながら打つ」のも厚いグリップの選手に多く見られる傾向だと考えます。薄いグリップの場合は「バウンドが頂点に達する前の低い打点で地面から得た反力を使って打つ」方が向いているからです。
厚いグリップは地面から得る反力を “即” 加速に結び付けづらいので、上半身を積極的に使う中で「足は地面を踏んでジャンプ」という部分が薄いグリップよりも出しやすいと考えます。
打点を下げず、前に強く飛ばす、水平に近くボールを打っていくのはどうか?
高い打点から打てれば、相手コートのライン内に着地させるための落下幅 (落下させる長さ)が少なくて済むのは経験からも分かります。
ネットの2倍の高さを通過するための打ち出し角度は水平+4.943度
また、ベースライン中央付近の地上から80cmの高さの打点 (身長170cmの方で腰位) からネット中央の最低部の2倍の高さ (80cm + 102.8cm、約1.8m) の所を通過させるための打ち出し角度は『水平+4.943度』でしかありません。
『水平+4.943度』にラケット面を向け、前進させるスイングをすると勝手にネットの2倍の高さを通過する理屈です。
水平+5度位ですよ。
一概に言えないですが、この角度以上の水平+20度、水平+30度とかでラケットを “上に” 振っている方は『毎回 “かすれ” た当たり』だったり?? 安定してボールが飛ばせるのでしょうか。
軌道を上げるという事は「曖昧に打つ」という事では?
この部分も蛇足ですが、軌道の高いロブショットは10cm単位の精度で狙うショットとは呼びづらいです。軌道の高いトップスピンのボールを打つ際も同様だと思います。
俺は (私は) ロブを、トップスピンを「自信を持ってぎりぎりを狙って打てる」という方も居られるでしょうが、ネットより高い位置から直接的に着地点が狙えるボレー、スマッシュとベースライン付近からネットを越すために「打ち上げる」軌道を用いる場合の根本的な違いがあります。
どんなに自信があっても、常に下図のような軌道と飛距離の使い分け、常に認識を持ち、コントロールできるとは思えないのです。(ロブ等はトッププロでも難しいでしょう)
By User:Cmglee CC BY-SA 3.0, Link
軌道の高いロブや回転をかけた高い軌道のボールはどんなに時間的、心理的に余裕がある状況でも「深さや左右のサイドアウト」から余分を持った位置に打ちたいボールかなと思います。
確率のスポーツであるテニスですから「その状況で用いる事ができる、自分が持っている『結果に繋がる選択肢』の内から確率の高い順に考える」のが原則と言えます。確率も何も考えないのは論外ですが冒険するのは『相手と敢えて勝負する瞬間』位にしたいでしょうか。
打点を落とすな、高い打点で打てという話
「打点を落とすな」「高い打点から打て」という話はよく聞きます。
これには色んな意味があって、
- バウンドから時間が経過する程、ボールも持つエネルギーは減り、より長い距離、自分がラケットで加えるエネルギーで飛ばさないといけなくなる
- 出来るだけネットに近い位置で打って相手の時間を奪いたい、角度をつけやすくしたい
- ネットに近い位置の出来るだけ高い打点で打つ方が「しっかり構えて打った」場合より威力がなくても相手に対して心理的なプレッシャーをかけられる (目の前でスマッシュされる事を考えてみて)
- 日本に多いかなり厚めなグリップ。オムニのように弾み、止まるコート。身長が高くない方が多い日本人の心理的不安の払拭のため
- 「打点を前に取れば強いボールが打てる」という “信仰” (理屈で示さない指導)
等が考えられるでしょうか。
言われる通りに「高い打点で打とうとする」なんとなく「高い打点で打たないと」と思っている方も居るかもしれませんがこれらを知っているか、考えているかは大きな違いです。
フェデラー選手やナダル選手は基本となるストロークで「肩より上の打点でボールを打つ」事はしません。薄めのグリップだと腰から膝上位で打ちやすいし、厚いグリップより打点が身体に近い事もあり、バウンド直後 (或いは2バウンド目間近) のボールを短い瞬間的な加速で打つのが向いている。
自分が厚いグリップで打っていても知っている、考えているだけでそんな事も分かってきたりする。当然、自分が何をすべきかも考えられます。
ボールが飛びすぎる理由は様々でしょうが…
ボールの打ち方は人それぞれであり、トッププロを見ても皆違います。だから、怪我をしない範囲で「ボールの打ち方に絶対の正解はない」と思います。
会った事もテニスを見た事もない方々も含めて「ボールが飛びすぎるのは○○だから」「△△を✕✕すれば良い」と言ってしまうのは乱暴ですし、専門家でもコーチでもない私が言う事でもありません。
今回、書いたのは「厚いグリップで打つ方が回転はかかる」「打点を前に取ると強いボールが打てる」「回転を多くかけて打ちたい」といった “思い” が安定した結果に繋がらないケースに対して、”理屈” の面から「ボールが飛ぶ」という部分を整理した感じです。
ただ「高い打点で打てば良い」訳ではないですし、何故、男子プロが「水平方向に強くボールを飛ばそうとしているのか」も打っているボールだけ見ても分かりません。それまで変わらず、ただ「真似する」だけになってしまうでしょう。
私が考えたような事が『正解』とも思いません。単なる情報の一つです。ご自身で色々と考える機会を設け、ご自身のテニスを上達させるために使われたらと思います。