ナダル選手のグリップは “セミウエスタン” 位
ナダル選手、12回目の全仏オープン優勝おめでとうございました。
Rafael Nadal vs Dominic Thiem – Final Highlights | Roland-Garros 2019
さて、そのナダル選手ですが、フォアハンドストロークを打つ際に使用しているグリップは一般的な指標で言う所の “セミウエスタングリップ” 位です。
インパクト前後の写真を見ても握る角度が “グリップの斜め上から” ですね。
ウエスタングリップなら “グリップの下側から” 腕が見える位の角度になります。
世間一般の認識としては
「世界一回転量の多いと言われるトップスピンを打つナダル選手のグリップはウエスタングリップか、それ以上に “厚い” に違いない」
といったものでしょうし、実際にそういう前提でお話をされる方も見かけます。
「なぜ、ナダル選手のグリップは “厚く” ないのか?」
そんな事を考えるとボールを打つという事とグリップの関係性が見えてくるかもしれません。
あくまでナダル選手のフォアハンドストロークの打ち方を考えるのが本題ですが、
「グリップは厚いほど良い」「スピンはたくさんかけないとダメだ」「スピンをかけるための打ち方はこうだ。コツはこうだ。」
というふうに見聞きした誰かの言う情報を皆で “当たり前” として取り入れてしまう風潮への疑問も含んでいます。ナダル選手が厚くないグリップで打っている理由らしきものはあるでしょう。
私は「自分のテニスを上達させるのは自分自身。コーチや周りの人達ではない」と考えています。テニスへの理解を深めるため「当たり前」でも「出来ている事」でも一度、自分で考えてみたいです。
普段から見ていて参考にしようとしている選手のグリップすら確認しないまま、その理由も分からないままでは上達にも結びつきづらいですよね。
グリップの厚さによる特性
“基本的な特性として” であり、人によって違いは出るでしょうが
「厚いグリップは高い打点に有利、グリップが厚くなれば打点は身体の前に離れていく」
「薄いグリップは低い打点に有利、グリップが薄くなれば打点は身体に近づいてくる」
と言われます。
「自然と打ちやすくなる」グリップによる打点の高低
ウエスタンよりも厚い位のグリップなら、握った状態でラケットの中心線より下側に腕が来る (ラケットを下側から握る形) ので肩よりも少し高い位の打点でも打ちやすいです。
逆に腰よりも低い位の打点なら、ラケットの中心線より上側に腕が来る (ラケットを上側から握る形) になる薄いグリップの方が対応しやすいです。
※各自『やりやすさ』は違うので「これが正解」といった事ではありません。
グリップの厚さで「自然と打ちやすい」打点の位置は前後する
グリップの厚さによって打点の位置が前後するのも、身体の前に差し出されたラケットを手首や腕に無理なく自然に「サッと」握った際、グリップが薄いほど打点は身体に近づき、(腕の長さの範囲で) 厚いほど身体から前に離れていくものです。
薄いグリップで打点を前にしていくとラケット面は “上” を向きます。
逆に厚いグリップで打点を手前にしていくとラケット面は “下” を向きます。
指導を受ける際、グリップの握りは変えたくないので、手首を曲げる等して打点の位置を調整しようとする方がいますが、それでは打ち方の再現性は低くなります。
前提として理解し、自分で考えるべきです。
因みにボールを飛ばし回転をかけるエネルギーは2種類
ボールを飛ばし回転をかけるためのエネルギーには
1. 速度を持って飛んでくるボールのエネルギーを反発させる。
2. 加速させたラケットが持つエネルギーをボールに伝える。
の2種類があると考えます。
時間の無い中、距離の短いネット近くで打つボレーは1メイン。自分でトスしたほぼ速度ゼロのボールを打つサーブは2メイン。
そして、ストロークは状況に応じて1と2のバランスを取って打つショットと言えます。
「同じボールはない」とかよく言われますが、相手のボールのエネルギーがどの位使え、その内どの位使うのか。自分はどの位スイングでエネルギーを発生させ、どの位を使うのか。そのための打つ位置や姿勢はどうするのか等々。考えるべき事はたくさんあります。「フォアハンドの打ち方はこうです」と教わる1つの打ち方しか使えない、使わないのでは様々なミスばかりになってしまうのは当然かもしれません。そういうのは初心者の段階で卒業したいです。
それも、ありがちな「スピンだけでなくスライスも使えばプレイの幅が広がる」みたいな事ではありません。(それは色々ある内のごく一部でしかない)
「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」ですからインパクトで一定方向にエネルギーが加わればボールは飛んでいきます。
我々が各自に個性的な打ち方でも最低限テニスが出来ているのはそのためです。プロみたいな打ち方ができないとテニスが全く出来ないのなら皆続けていないでしょう。
皆が同じように持つ身体の機能や仕組みを使って(自分の持つ範囲で)大きなエネルギーを出す、バランスを崩さない、安定的な再現性を出すやり方を学ぶ前提で、インパクトで打ちたい方向にラケット面が向き、ボールが持つ、或いはラケットで加えるエネルギーがその方向に向けば、打っている形は様々でも「ボールを飛ばす」目的は果たせます。
写真のような打ち方もすべきだといった事ではないですが、形としての『ボールの打ち方、ラケットの振り方』ではなく『物理現象』としてのボールとラケットの関係性をもっと理解し使えるようになりたいです。
リバースフォアハンド? バギーホイップ?
ナダル選手の打ち方はリバースフォアハンドなの?
ナダル選手と言えば、ラケットを振り上げる特徴ある打ち方に目が行きますが、世間で言われるエマージェンシーショット (緊急時の対処) 的な特性も強いリバースフォアハンドとは別物だと考えます。
厚いグリップで打つ「羽子板サーブ」は、ラケット面に対し90度真後ろから腕がラケット面を支え、腕を下ろす事でラケット面は “上から下に” 下がりますね。
厚いグリップのまま “下から上に” ラケットを持ち上げようとするものがリバースフォハンドに繋がってくるかと思います。
ストリングス (ガット) の縦糸、横糸とボールの飛び・回転との関係
ストリングス(ガット)はラケットの中心線に対して縦・横90度に交差して張ってあります。
「接触した際にストリングスがボールに押されてフレーム間の端から端までがたわむ。ズレ、一方に多く偏る。これらがボールの飛びや回転に影響する。」と考えます。
「インパクトでラケット面は地面と垂直にしろ」と言われますね。
1. 打ち出し角度に真後ろから90度でラケット面を向ける
ひとつは「打ち出したい方向・角度に真後ろから90度で当てるのが最も安定的にボールを捉えられる」という事を指しているのだと思います。
準備運動で行うような「ラケット面でボールを真上にポンポンと突く」動作でラケット面を真上に向けない人は居ませんね。
下図のように斜め上に打ち出すならその真後ろから90度です。
地面と垂直というのは「打点位置から水平に近い角度で打ちだす状況ですよ」という前提の話と考えられます。
因みにベースライン中央の地面から80cmの高さの打点からネット中央の最低部の2倍の高さ (約1.8m) を通過する軌道の打ち出し角度は計算上『水平 +4.9度ほど』しかありません。
トッププロのスイング軌道、打ち出し角度が、そのスピン量を考えるとやたら水平に近く見える、振り上げていないのはそのためです。
こういうスイングでも十分なトップスピンがかかる工夫が含まれているのだと考えます。
2. 縦糸がひっかかりスピンがかかりやすくなる
仮に、打点の位置からボールを水平方向に近い角度で打ち出すとします。
下図の手前がスイング方向(前)、スピンをかけるためにスイング中に何らかの方法でラケット面を垂直方向(上)に持ち上げるとして、ストリングスの横糸の角度がラケットを持ち上げる垂直方向に合えば、縦糸が上から下まで稼働してボールにひっかかり持ち上げてくれるのが分かるでしょうか。
この状態、関係性だとスピンはかかりやすいです。
ラケットヘッド側が下がり、ストリングスが斜めの角度『×』の状態で、なんからの方法でラケットを垂直方向に持ち上げても、縦横が同じように作用して “板面” で打っているのに近くなってしまいます。
この状態、関係性だとスピンはかかりづらいです。
実際のスイングではラケット面の向きや角度を変えずに “まっすぐ” 進めていく訳ではないですし、腕の機能や構造上、慣性の法則で直進していこうとするラケットに引っ張られる形で起こしやすい「ワイパースイング」と呼ばれる一連の動きでもスピンをかける事ができます。
ただ、インパクトにおけるストリングスの角度、スイング角度とボールとの “この関係性” が変わる訳ではありません。だから、十分理解しておきたいです。
3.リバースフォハンドは真下に下げたラケット面で前になんとか飛ばすための工夫
ヘッド側を下げた状態でのガットとボールの関係性はこうなります。
羽子板のように面を前に押し出して飛ばす事はできますが大きなエネルギーが出せません。
基本的にリバースフォハンドは、正面向きの体勢のまま、足や身体に力が入りにくい、前にボールを飛ばすためにスイングする前後幅 (距離・スペース) が取れず、身体に近い打点で緊急的に打ったりする際に用いられると思います。
結果、前に押しつつ、ワイパースイングのように腕を捻じる等して、フレーム側にラケットを引き上げ『縦糸でボールをひっかけつつ持ち上げるような動き』を加えて打ったりします。前には触れなくても横に引き上げるならまだラケット速度は出せますからね。
このようなエマージェンシーショットとナダル選手のストロークが同じ範疇にあるとは考えにくいと思うのです。
ナダル選手は “前に強く振る” 中でフォロースルーが上げる感じ
ナダル選手の練習風景を見るとよほど熱が入ってこないとあの「振り上げる」フォロースルーは使いません。
Nadal Intense Training Indian Wells 2019 Tennis – Court Level View
時折見せる低いボールを拾い上げるような状況以外は、頻繁に見せるのは試合に準ずるトップ選手と1対1で打ち合う練習の時位です。
元コーチで叔父のトニ・ナダルさんが「あの打ち方は好きじゃない。人に教えるならあんな打ち方はさせない。昔、弱かったナダルが強いボールを打つ意識から自然発生的に生まれた打ち方だ」」といった事を言われていました。
ラケットを振り上げる形に目がいってしまうとナダル選手のスイングそのものに目を向けられないです。
体軸の後傾
ナダル選手は、軸足である左足にグッと体重をかけて「地面を強く踏み、瞬間的に身体を回転させ、ラケットを加速させる」準備をしますが、その際、腰から頭までの体軸が背中側に自然と傾いているのが分かります。
Rafael Nadal Forehand Slow Motion 2019
体軸の回転軸と回転により両肩(と腕)が動く軸は90度の関係にあります。
下のフェデラー選手のように体軸が地面と垂直なら、身体の回転により両肩、肩に繋がる腕は体軸と90度の関係になる水平方向に進んでいきます。手に握るラケットも特別な操作をしなければ自然と同じ方向に進みます。
ナダル選手は
「身体の回転により体軸と90度で身体が回る、腕が “前” に進むスイングをしているのに、体軸が後継さえている事で自然な身体の使い方、自然なスイングのままスイング軌道をスピンがかけやすい “斜め上方向” に傾けている」
と考えられるのです。
Rafael Nadal Forehand In Super Slow Motion 3 – 2013 Cincinnati Open
これが
「ナダル選手がラケットを振り上げてスピンをかけているのではない」
と言える1つの根拠となります。
両足で地面を強く踏み、身体本体の力を使い、自然な身体の使い方でラケットを加速させているから強いスイングが出来ている。腕でラケットを振り上げてスピンをかける打ち方とは大元の部分で違っていると言えるでしょう。
ナダル選手のグリップと打ち方の関係
上で少し触れましたが、私がナダル選手のフォアハンドストロークで目が行くのが
「グッと軸足に体重を乗せ、身体を捻じり、両足で地面を強く踏み身体本体の力と連動させて強い初期加速を得ている」
部分です。
ごく単純に、部分的言うとこういった身体の使い方です。
身体を軽く捻じった状態から、軸足である右足で地面を強く踏み、身体の捻じれ戻しをするだけで『手や腕は全く動かさなくても』力強く前にエネルギーを加えられそうな動きになる のを感じます。(当然、これだけでラケットが振れる、ボールを強く打てる訳ではないです。)
グリップが厚いと打点が前に移動するからスイングのふり幅を多く取る必要がある
グリップが厚くなると自然と打点は前に取る事になります。
それは「打点を身体に近く取る薄いグリップの人よりスイング始動位置から打点付近までの距離が長くなる」という事です。
速度ゼロのスイング始動位置から身体の回転により手でラケットは引かれ、遅れて加速を始めたラケットは前進していく中、身体や腕を追い越し、慣性の法則によりその直進運動をしつづけようとするのでボールを打った後も更に前進していこうとします。
ただ、スイング初期と違い『足で地面を踏んで得られる反力』も『体のねじり戻しの力』もなくなっており、加速したラケットの速度を腕の動きでなんとか減速しづらくするのがせいぜいです。
「インパクト後にラケットの最高速が来る意識でスイングしろ」等と言われるのは加速のためのエネルギー供給が減少する事で急激な速度減、インパクトまで速度が保てない事を防ぐためのイメージ表現だと考えます。
打点がより前になっていくウエスタングリップを越える位に厚いグリップで打つ方ならこの点は顕著にボールの威力に影響が出るから余計に強調される点だと思います。
また、打点付近でグリップ位置が身体から前に離れるという事は
「加速段階でもある程度身体から離れた位置をスイング軌道が移動していくようなスイング、端的に言えば “大きなスイング” をする方がバランスは取りやすいと感じるだろう」
と考えます。
フォアハンドストロークは身体の回転を使って打ちます。打点が身体から遠い前にあるなら、身体から遠い位置にテイクバックを取り、「ぐるっと」身体から遠い大きな弧を描き、距離と時間をかけて打点まで加速させていく方が楽に感じるからです。
厚いグリップで打つ選手をみると「大きなテイクバック、大きなスイング」をするイメージがありますよね。
ティーム選手
ジョコビッチ選手
カチャノフ選手
また、
「厚いグリップで打ちやすい高い打点で打つため、テイクバックをした振り始めの位置も比較的高い位置に取る」
のも、共通してくる特徴だと思います。
ナダル選手のフォアハンドを見ると
ナダル選手がフォアハンドを振り始める位置や高さを見てみましょう。
『赤土の王者、クレーキング』のイメージとは違って
「腰から胸位の比較的低い打点で打っている」写真ばかり
なのに気づきます。
もちろん高い打点で打つケースもありますが、我々がイメージするナダル選手の打ち方っぽくなくなってしまいます。
クレーが得意な選手って、やっぱり厚いグリップで、高く大きなテイクバックを取って、高い位置でボールを叩いていく、ジャンプしながら打つイメージですよね。
圧倒的なクレーキングのナダル選手ですが
「そういった選手達とは打ち方が違っている」という事でしょう。
当然、プレイスタイルも違ってきます。
ナダル選手はリターンでカメラ画面からはみ出してしまう位に後方に位置取りますね。
フェデラー選手がその筆頭だと考えますが男子テニスは毎年毎年が進化の連続です。
現在のナダル選手はボールに合わせて常に位置取りを変え、ベースラインより中で打つ事も多いですし、相手にスキを突いた”スニーク・イン” でネットを取り、ボレーでポイントを決めてしまうシーンも多く見られます。
ただ、全仏優勝を始めた頃のナダル選手は、基本のストロークも常にベースラインより後方で打つ 動きの良さ、脚力、ベースライン後方からでも強いボールが打てるストローク力等 の特徴を活かして「ボールがバウンドの頂点から落ちてくる位置で打つ」のがしっくりくるスタイルだったのではないかと想像します。
クレーコートですからプロ選手のストロークは頭を越える位まで弾んだりする訳ですが、移動する距離が長くなってもそのボールに追いつき、深い位置からでも強く返球できるのなら「体力を消耗する常にジャンプして高い打点で打つ」といったプレイスタイルでなくても構わない (むしろその方が自分の特色が出せる) とも考えらえます。
ナダル選手はフォア側に回り込んで、深い位置からでも相手コートの端から端まで、逆クロスでもストレートでも、全く相手に読ませずに1発で決めてしまいますがその辺りはこのプレイスタイルが出ている部分かもしれません。(以前は足で無理やりフォア側に回り込んで打ってしまうなんて事もよくありましたね。)
テイクバックの位置も低く、重心である腰に近い位置
これもクレーが得意な選手の例と違う点ですが、ナダル選手のテイクバックはコンパクトで重心がある腰に近い位置に取っています。
これはナダル選手同様に薄めのグリップで打っているフェデラー選手にも共通する特徴です。
薄いグリップは低めの打点の方が無理なく打てる。このため、(分かりやすく単純に言うなら) 下半身側の力を有効に使おうとするならラケットの振りだし位置であるグリップの位置は身体に近い位置にある方が足で地面を蹴り、身体のねじり戻し等を連動させた身体本体の力をスイングに活かしやすいという事かと考えます。
くり返しになりますが “腰辺り” に力が入りそうなこういう動作です。
同じく薄いグリップで打つ代表格であるデルポトロ選手の強烈なフォアハンドも、身体の回転に合わせて右腰付近から腕が出てきて「バチン」とボールに当たるような打ち方だったりします。
Juan Martin del Potro Top 30 Biggest Forehands
身体から遠い位置をぐるっと回って「ブーーーン」と振られる大きなスイングという訳でないのです。
デルポトロ選手選手がフォアを打った後、高くラケットを振り上げるフィニッシュを見ると思います。これはナダル選手の “振り上げる” フォロースルーに通ずるものかなと思うのです。
これらは腰から胸位までの比較的低めの打点で打つのに向いた身体の使い方、ラケットの加速させ方 (人によっては膝位から。フェデラー選手は高い打点を打つのも上手い) を有効に使った打ち方だと考えます。
私もグリップはセミウエスタン位で厚いとは言い難いので、デルポトロ選手やナダル選手のこの「軸足で地面を強く踏んでの身体の回転で、利き腕の腰辺りからグリップが出ているラケット加速のイメージ」は参考にしてみています。
まとめ
ナダル選手のグリップとボールを打つ様子から考えると
ナダル選手のグリップはセミウエスタンほどで決し厚いグリップではない。
そうしている理由は恐らく単純に言えば「自分のプレイスタイルに合わせている」もの。
グリップが薄くなれば胸より下の打点のボールが打ちやすくなり、打点も (前後差で) 比較的身体に近い位置に取れる。
ベースライン後方でボールを待って打つ。それが出来るだけの脚力、身体能力、深い所からでも威力のあるボールが打てるから、無理して落下してくる前の頭より高いような打点でボールを打つ必要がなかった。
ジャンプしてのフォアハンドの連続は体力も消耗するし、次への反応も時間がかかる。(着地し体勢を整えるまでの時間、最初から着地した状態で打つ場合との比較)
腰位の打点を無理なく打てるグリップ。
スピン量を自然と強めるために軸足支点で身体をやや後傾させ、足を強く踏み、体のねじり戻しにより身体を瞬間的に回転させてすぐにインパクトが迎えられる、ラケットが身体を追い越して後の速度低下の懸念がない、身体の近い位置で打てる “薄めのグリップ” の方が都合は良い。
といった事が考えられます。
打点を身体に近い位置、腰付近から下位に取りづらくなる極めて厚いグリップの方がナダル選手の打つ際の身体の使い方をマネしようとしても難しい (打点に到達するまでに加速エネルギー、速度を保つためのエネルギーが不足してしまう) でしょうし、厚いグリップで打点を前に取りたいのであれば、”大きく取る事で逆に失速するような事がない範囲で” 体から少し離れた位置にテイクバックを取って大きなスイングをする方が無理のないストロークが打てるのかもしれません。
ただ、グリップが厚いティーム選手、ジョコビッチ選手、カチャノフ選手を見ても、腕を前に伸ばきった後のような距離感ではボールを打っていませんね。
足や身体の力を使って初期加速を生みだしている点は変わらないので、加速させている身体の力が無くならない、腕が伸びきらない範囲の「我々が厚いグリップでイメージする打点よりもかなり身体に近い位置」でボールを捉えているのが分かります。
テニスを教わる際、『形』を作らせる事、それを再現させようとする事を指導の基盤にします。インパクトの形、テイクバックの形、フォロースルーの形等です。
これらはその昔、プロ選手の打ち方を参考にする情報が写真しかなかった事の名残りだと考えています。
自分の能力の範囲で最大限速く走りたいのであれば “片足を上げた静止状態” をいくらきれいに再現できても意味がないであろうことは分かります。
両足で交互に地面を強く踏んで前進するための反力を地面から得る事で我々は前進できる訳で、その動作を理解させる事をせず、 “形” を作らせて終わっていては出来るものも出来るようになりませんよね。
今の時代、これだけスポーツ科学が発展しているのですから、身体の構造や仕組み、その使い方の情報を下地にYouTubeに載っているようなスロー動画を見ていく方がまだ理解が進みやすいのではないでしょうか?
テニス指導の場、環境、説明、指導内容の関係でそれらが変わっていかない、数十年前のまま続くのであれば、我々が工夫していく必要があるのだろうと思います。