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ラケットを重くする、軽くするということを考えてみる (テニス)

ラケットを重くする、軽くするというのはどういうことか?

現在、テニスラケットの重量は300g位が平均だと認識されていると思います。これは25年ほど前に登場したバボラのピュアドライブが初心者から上級者まで使えると圧倒的に売れたことに関係しており、100インチ、300gというスペックだったので皆がこれを基準と考えるようになったのだと思います。それ以前、例えばラケットが木製だった時代は女性でも350g以上あるラケットを普通に使っていたと思いますが、メーカーも300gを基準にラインナップを設定している以上、昔はどうだったと言うのは意味がないかもしれません。

テニスラケットの重量については「男性で今280gのラケットを使っている。買い替えにあたり300gのラケットを使うのはどうだろうか?」「女性で280gのラケットを使っている。重すぎるだろうか?」と言った質問を頻繁に見ます。

個人的な意見ですが「300gは薄めの文庫本2冊分の重さ。その重さが重すぎて腕をしっかり振れない人は女性でもまずいない。ラケットには重量バランスもあり、移動しながらの体勢の悪い中で100km/h以上の速度で飛んでくるボールを打つ負担もあるとは言え、280gと300g、1円硬貨20枚、100円硬貨なら4枚ほどの差でいきなりラケットが振れない、扱いにくいという変化が起こるとは考えづらい。今使っている280gのラケットと300gのラケット、今使っている300gのラケットと320gのラケットを打ち比べれば、慣れていない重いラケットの方が使いづらいのは当たり前で、ラケットでもガットでも違いものに変えれば1ヵ月・2ヵ月は使い続けないと慣れることはできない。逆に言えば、280gから300gのラケットに変えても1ヵ月も使い続ければ、前の280gのラケットとの違いを具体的に言えない位に慣れてしまう。人は違いに敏感でもあり、慣れてしまう能力も高いから」と思っています。

ラケット毎の飛ぶ・飛ばない、扱いやすい・扱いづらいも同様で、ラケットの性能というより打って感じる「打感」の好みを言っているだけです。仕方なくでもその扱いづらいラケットを3ヵ月も使えば気にならなくなってしまうでしょう。

代表的なラケットメーカーが「欠点のある悪いラケット」を販売する訳もなく、散々テストした挙句に発売してるのでメーカー戦略上、同様の性能でも差別化のため「敢えて打感を変えてある」訳ですが、ラケットを選び継続して使うためには、重さや打感は慣れるという要素を踏まえて考える必要があります。(一番大事なのはその道具を気に入って使えるということ。単純には、好きなメーカー、好きなプロが使ってるとか、色が好きとかです。)

さて、その上で、ラケットを重くする。軽くするとどういう違いがあるのかを考えてみたいと思います。

ボールを飛ばし回転をかけるのは、スイングよって速度を得たラケットが持つ運動エネルギーがスイング中のボールとの接触によりその一部がボールに伝わるためです。

ラケットの持つ運動エネルギーの大きさは「1/2 x 重量 x 速度 ^2 (2乗)」で計算されます。手に持つラケットは1種類なので単純に言えばラケットスピードが速くなるほどラケットも持つ運動エネルギーは増え、ボールスピード、回転量が増えます。

ただし、ラケットの運動エネルギーがボールに伝わるには「接触」が必要です。

ラケットとボールは固定されていないので、接触の仕方、つまり当たり方によってボールに伝わる運動エネルギーには伝達ロスが生まれます。

きちんとラケットの中央で当たらない他、スピンをかけようとボールの打ち出し角度・方向とスイング角度の乖離が大きくなれば当然正確なインパクトは難しくなり伝達ロスになります。

その他にもインパクト時のラケットのしなり・ブレ・歪みも運動エネルギーの伝達ではロスになります。

“フレームの薄い、いわゆるしなるラケットは『ボールをぐっと掴んでから』飛ばす”と言われますが、ラケットのしなりはボールがラケット(ガット)から離れるまでの僅かな時間(0.004秒)では復元しません。(※ラケットのしなりが復元することでボールが飛ぶのではなく、ボールがラケット面から離れラケットをしならせていた力が抜けるのでしなりが戻るだけだと考えています。)

ラケット(ガット)とボールの接触映像

つまり、“ボールが離れるまではラケットはしなりっぱなし”なのでラケットから伝わる運動エネルギーの伝達ロスになります。これは、金属バットでテニスボールを打てばはるかに飛んでいくことでも分かります。打感を無視すればフレームが硬くしならない・ブレない・歪まないほど運動エネルギーの伝達ロスは小さくなると言えます。

ラケットのしなりとガットのたわみは違う

ボールがガットに接触するとラケットは押され、フレームがしなり、歪み、たわみます。これらは基本的にボールを飛ばし・回転をかけるための運動エネルギーの伝達に関してはロスだと思っています。(基本的にはです。)

これと同時にボールと接触しているガットもボールとの接触で押され『たわみ』ます。

このガットのたわみをトランポリンのように伸びた糸が縮むことでボールを飛ばすと考える事がありますが、トランポリンが人をはね上げるのはバネや生地が伸び・人が沈み込む時間があるからです。トランポリンの上に立ち、瞬間的にトランポリンの面を両足で踏み込んでもその部分が沈み込むだけで上に飛べないことでもわかります。

このことから0.004秒というわずかな時間でたわむラケット面はその復元でボールを飛ばす力は(私たちが考えるほどは)期待できないと思います。

仮にラケットにはるガットがゴムのように伸びる素材だったら、ボールが当たっても当たった箇所が伸びるだけで、せっかくスイングにより発生させた運動エネルギーはそこで吸収され、ボールの飛び・回転には反映されなくなってしまうのは分かるでしょう。

従って、ボールの飛びを考えるならガットもできるだけ硬く張ったり、伸びにくい素材を使ったりする方がラケットからボールに伝わる運動エネルギーのロスを小さくできると考えられます。

ただ、ガットとラケットが違うのは、ボールに接触しているのはガットだけだという点ガットの硬さや伸び、柔らかさのような要素は、人が感じる『打感』に直結します。

あくまで想像ですが「ガットを40ポンドで張ろうが、50ポンドや55ポンドで張ろうがボールの飛びや回転量には大きな差はでない」と考えています。(ラケットの仕様とガットがマッチして最も飛びやすい張りの強さはあるでしょうが。)

緩く張ると回転がかかりやすいと言われますが、70ポンドとか極端に硬く張らなければボールが当たった際のガットの変化はごく僅か(ボール周辺で0.数ミリの違いとか)で物理的な球速や回転量の違いに直接影響を与えるものではないと思っています。

ただ、ガットの違いや張りの強さは人の感じる『打感の違い』に影響するので、打感が硬いと回転がかかりづらい、打感が柔らかいと回転がかけやすいと人が感じてしまうのでしょう。

ガットの種類や張りの強さにこだわるのは構わないと思いますが『飛びや回転量が変わるから』ではなく『打感の違いがあるから』と考えるべきでしょう。ガットは張った直後からどんどん伸びますから昨日と今日で同じ打感とは限りませんし、プロ選手が試合中に頻繁にラケットを変えるのは『ガットが伸びて飛ばなくなるから』というより『伸びて打感が変わるのが嫌だから』だと考えています。

ラケットの重量を変えるということ

前置きが長くなりましたが、ラケット重量が変わるとボールを飛ばし回転をかけることに繋がる運動エネルギーの大きさがどう変化するか計算してみましょう。

※ラケットの持つ運動エネルギーの大きさは「1/2 x ラケット重量 x ラケットスピード ^2 (2乗)」です。

300gのラケットを120km/hでスイングする
1/2 x 300 x 120 ^2 = 2,160,000

320gのラケットを120km/hでスイングする
1/2 x 320 x 120 ^2 = 2,304,000 (300g比 約+6.6%)

280gのラケットを120km/hでスイングする
1/2 x 280 x 120 ^2 = 2,016,000 (300g比 約-6.7%)

ラケット重量の増減は単に掛け算なので重量が増えた分、減った分、そのまま運動エネルギーは増減します。

ラケットを軽くする

では、300gのラケットを使い120km/hでスイングしていた人が280gのラケットを使う場合、同じ大きさの運動エネルギーを生む (同じように当てられるとして同等のボールスピードや回転量を生み出すのに必要)にはラケットスピードをどの位上げればいいのでしょうか?

√2,160,000 ÷ 280 × 2 = 124.2118.. km/h

つまり、300gから280gにラケットを軽くするならラケットスピードをプラス4km/h速くしないと同じ大きさの運動エネルギーが発生できないことになりますね。

ラケットを重くする

逆にラケットを300gから320gに重くした場合、ラケットスピードはどの位落ちても同じ大きさ運動エネルギーが発生できるのかというと

√2,160,000 ÷ 320 × 2 = 116.1895.. km/h

重量の違いは単純に掛け算なので、軽くするのとは逆に20gラケットが重くなっても4km/hスイングスピードが落ちても運動エネルギーの大きさは変わらないと言えます。

ラケットが20g重くなったら急に振れなくなる、スイングスピードが落ちるということはないはず

最初に書いたように300gのラケットは薄手の文庫本2冊分の重さです。このラケットに100円硬貨4枚を張り付けたからといって急に重すぎて振れない、スイングスピードが落ちてしまうということは起こらないだろうと思います。

ラケット 10gの違い 硬貨で例える

必要なのは『その重さとラケットに慣れること』だけです。

もちろん、好みはあるので「重い方がいい」とは言いませんが、ラケットを選ぶ際に10g程度の違いに敏感になりすぎだろうとは思います。(その割にガットが伸びることで生じる打感の違いには皆鈍感ですよね。”打感の変化”ではなく”飛びの変化”と認識されていますがそちらの方が物理的影響は大きくないでしょう。)

ラケットスピードを上げれば運動エネルギーは2乗で増えるので、考えるべきは道具を変えることより、安定的にラケットスピードが上がるスイングができること

まとめというか、ラケット重量を重くすればラケットが持つ運動エネルギーは増えた割合分、増加するし、ラケット重量を軽くすれば減らした割合だけラケットスピードを上げる必要が生じます。

従って、ラケット重量は自分が違和感なく扱える範囲で重い方が有利と言えます。扱いやすいというだけで敢えて軽いラケットを使うのはストロークやサーブなどスイングを伴うショットでは不利になるでしょう。(ラケットが軽いと打ち負けると言ったりしますが20g(100円硬貨4枚)軽くなっただけで急にボールに打ち負けるようなことにはならないでしょう。テニスボールの重量は65g程あり、それが速度を持って飛んでくるのですから。

ただ、ラケット重量の変化よりも2乗で増えていくラケットスピードを上げる方を考える方がよりシンプルにラケットの持つ運動エネルギーを増やし、結果的にボールスピードも上がり、ボールの回転量も増えることになります。

分かると思いますが、力任せにラケットを強く振ろうとしても増加するラケットスピードの割合は僅かでしょうし、スイング軌道の安定度は落ち、数十球ラリーする中で毎回力を込めるのは精神的にも肉体的にも披露に繋がります。

また、ラケットスピードは『コツ』の類では大きく改善しないはずです。体全体を使って打つ、運動連鎖を使って打つ、プロネーションを使う、膝の曲げ伸ばしを使う、腕をしならせる、ラケットが遅れて出てくるようにする、インパクトでラケットを止める等々、コツと言われるものを沢山見聞きしますが、大事なことはもっとシンプルなことで『物体であるラケットには慣性の法則が作用する』『ラケットの加速と減速』『これらと体の機能や仕組みの使い方の関係』といったことが初心者の方が最初に教わる内容あるべきだろうと思っています。

男子プロ選手はそういった点を踏まえて体を使いスイングしてボールを打っていると感じます。誰もが持つ体の機能を使うものだからこそ、効率がよく、安定しており、怪我をしづらい打ち方になります。プロだからそういったスイングができている訳ではなく誰でもできるものだからプロも使っている (技術以前に) のでしょう。