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フォアハンドでラケットを加速される要素と腕の機能 (テニス)

tennis forehand

ラケットをスイングする意味

ボールを打つためにテイクバックしたラケットは腕や体を使って加速されることで運動運動エネルギーを持ちます。そのエネルギーが接触したボールに伝わり、ボールを飛ばす力と回転させる力に反比例的に分配されます。スイングにはボールを飛ばす方向や角度を調整する意味もありますが距離を運ぶ必要がなければ止めたラケットの方が確実です。

ラケットに生じる運動エネルギーは「1/2 x ラケット重量 x スイングスピード ^2 (2乗)」で表せますが、手に持っているラケットは1種類なのでラケットの運動エネルギーを増すにはスイングスピードを速くするしかありません。

ラケットの運動エネルギーを100%ボールに伝えることは無理なので、1)ボールに当たる際にしなったり、ブレたりすることでエネルギーの伝達にロスが生まれるラケットを使わない。 2)正確にボールを捉えることができないことで発生するロスを解消する。(その多くは技術の未熟さより、体の使い方に無理があることで生まれる。) の2つによりロスを少なくすることはできますが増やすことはできません。

ラケット操作よりラケットを加速させること

ラケットに運動エネルギーを持たせるには、ラケットを持っている手で加速させることになります。手からラケットに伝わるエネルギーでラケットは加速し、それ自体が運動エネルギーを持ちます。

野球のピッチャーがボールを投げる際、腕全体に力を込めることがないように体の持つ本来の機能を有効に使うためにはリラックスした状態が基本となりますし、テニスで言えば “腕よりもラケットの速度の方が速くする” 必要があります。腕とラケットが一体となって動いてはスイングスピードを上げることができません。

テニスはラケットという道具を使いボールを打つことで、人は「ラケットをボールに当てよう」「ラケットを使ってボールを操作しよう」という意識を必ず持ちます。

ただ、主に止まった面で打つボレーと違い、スイングを伴ってボールを打つ場合、特にラケットの運動エネルギーをボールに伝えることが重要となるストロークやサーブ等においては、優先させるべきは「ボールを操作すること」よりも圧倒的に「ラケットを加速させること」です。

ラケットによる操作を排除できるわけではないですが「ラリーを打ち合っている際に1球毎にラケットを操作してボールを思った場所に運ぼうと考えながら打つのは精神的負担も大きくミスに繋がる。ラケットをしっかり振るための誰もができる体の使い方が身についていればリラックスしてラケットを振るだけで大まかな範囲でボールをコントロールできるしその方がラケットも加速させやすい」のは理解できると思いす。実際、長くラリーを打ち合えるレベルにある人の多くはボールを打つ際に細かくラケットを調整することなど考えていないはずです。

ラケットを加速させるには?

なんとなく「ラケットを大きく、長くて振った方がラケットの速度は増す」と考えてしまいますが、ラケットを加速させるだけの筋力があるなら短い距離で瞬間的に加速させる方がメリットが大きいのです。ラケット重量は約300g、文庫本2冊、りんご1個の重さです。重量のあるボーリングのボールを強く投げるには助走や距離が必要でしょうが、300gの重さのラケットを加速させるのに距離は必要ないでしょう。(空港の滑走路と空母のカタパルトの違い)

大きくラケットを振ろうと考える人は “回転軸の中心にあたる体からラケットを離した状態で” 振ってしまいますが “中心からの距離が遠くなるほど同じ角度を進むのに長い距離を動くことになりその分のエネルギーが必要となる” ので加速させるのに時間もかかるし動かし続けるにも多くのエネルギーが必要となるわけです。

体からラケットの位置が遠くなり離れてしまう横向きのテイバックの例

軟式テニス出身の女性などで背中側から体の周りを大きくラケットを回すように打つケースがありますが、一生懸命スイングしている割にラケットの速度が速くないと感じるのではないでしょうか?

速度が上がらないのはや女性だからではなく、そのスイングの仕方にも意味はあるのですが、ラケットの加速という意味ではマイナスに働いているからだと考えます。

振るのに支障がない範囲で体に近い位置にラケットをテイバックし、そこから瞬間的に加速させる方が加速させやすく効率がよいからです。

正面向きの構えの形から上体をひねることでテイバックを行うとラケットは体から離れずに済む

フィギュアスケートのスピンやジャンプでも手を身体に近づけた状態の方が小さいエネルギーで回転でき、回転速度も速くしやすいですね。

また、前述の通り、中心からの距離が遠くなるほど動くのに多くのエネルギーを必要としますが、一旦動きだした物体は中心からの距離が遠い程、それ自体多くの運動エネルギーを持つ持つようになります。同じ角度を移動する際、中心から遠い物体の方が同じ時間で長い距離を動かないといけないのでその速度はより速くなる、速度が速いということは運動エネルギーが大きくなるということだからです。

中心より遠い物体の方が速度が速くなる

つまり、体に近い位置から加速をさせ始めたラケットをラケットヘッド側が遠心力で外側に膨らむのに合わせて、体からの距離を放すようにしてやればラケットを加速させることができるわけです。 

ラケットを加速させる腕の一部機能を考える

ラケットの加速は腕の機能だけで行うわけではありませんが、体全体を使ってラケットをスイングする中でも腕が担当する機能があるわけでこの点を踏まえた上でそれらの機能を考える意味はあります。

いわゆる “手打ち” と違い、プロ選手が態勢の悪い中、腕の動きだけでボールを強く打つ意図を持って返球することはよくありますし、この機能を理解すれば “スタンスの違いとボールを打つということを切り離して” 考えることができます。

「体全体でボールを打つ」「体全体を連動させる」とは言っても、ボールを打つためにラケットを振るのは結局は腕の役割です。体の機能の内、腕が持つ機能を理解することでこれを単体で使うということも、体全体を連携させて使うということもできるようになります。走るのは全身運動ですが普段意識しないものの膝や肘の動かし方が分かっているからこそ走れるのだと言うことです。

バチで太鼓を叩くような前腕や手首の使い方

腕の機能の内でも、バチを使って太鼓を叩くような腕の動きは重要だと思います。短い距離で手に持つ物体を加速させるのにはピッタリです。

野球にスナップスローとか、手首を使って投げるといった言葉がありますが、手首自体にボールを距離投げるような力はないので、腕全体の機能の中で小さい動きで瞬間的に大きな力を発生させているものを言っているだけです。(右利きの人が左手で手首を抑えてしまったらボールを飛ばすことすらできません。)

バチで太鼓を叩く腕の使い方もこれらに共通すると思います。前腕と手首の可動だけでは長い距離を動かすことはできませんが、テイバックで停止したラケットを加速させるきっかけとしては十分ですし、短い距離で加速させることができます。

バチで太鼓を叩くような腕の動作 (その1)

ラケットを立てた状態でラケットをこのように動かせば小さな動きでも力強くラケットを動かせる (=加速させられる) のが分かると思います。

バチで太鼓を叩くような腕の動作 (その2)

この動作を腕を倒した状態で行えばラケットの初期加速に繋がるのはイメージできるのではないでしょうか。

ボールに回転をかけることに繋がる前腕の動き

停止状態にあるラケットの加速を助けるこの前腕の動きを踏まえ、実際のスイングでは上体を捻ったテイバックから体を回転させラケットを引くことで、ラケットはグリップ側から引かれ、ラケットヘッド側は後方から進行方向に後ろから追従していきます。

テイクバックからのスイング開始時におけるラケットの動き

その際、後方に取り残されたラケットヘッド側に引かれることで前腕は自然と回外(スピネーション)方向に回転します。

下のフェデラー選手を見てもラケットに後方に引かれる事で手首が甲側に曲がり、前腕が回外方向に「キュッ」と捻じれているのがわかります。

スイングの初期段階、グリップを握る手や腕は身体の回転に合わせて身体の前側に移動していきますが、実際の所、慣性の法則で留まろうとするラケットに引っ張れて『手や腕単体でラケットを引き寄せるような動き』はほぼできないです。(強くスイングしようとする程、慣性の法則でラケットが留まろうとする力も大きくなります)

つまり、フォアハンドの所加速において重要なのは、足で地面を踏んで得られる反力と身体のねじり戻し等の力を組み合わせて横向きにより身体の後方に下げた利き腕肩を身体の前側に戻し始める動きです。

下図のような動きならイメージが湧くでしょうか?

足で地面を強く踏み身体を回転させる動き

加速を開始したラケットはヘッド側が遠心力で外に膨らみ、速度が増し、グリップ側を追い越し、慣性の力により更に前に進んでいこうとします。(速度を持ち進む物体はその直進運動をしつづけようとする)

ラケットを持つ手は前に進もうとするラケットに引っ張られ、その動きをサポートする形で前腕がプロネーション(回内)側に回転していきます。

前腕をプロネーションさせなくてもラケットは振れますが、それ以前の加速の取り組みにより速度の増したラケットを支えるには前腕を回転させた方が楽だし体の機能として自然だからです。

この結果、”ラケットヘッドは上方向に” 持ち上げられます。

よく聞く「ラケットヘッドが走る」と言うのはこういった事象を指すのでしょう。もちろん自分で意図して起こしている事象ではないです。

テニスでトップスピンをかけると言うとラケットを “下から上方向に” 持ち上げることを考えるかもしれません。

ただ、「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」です。

ボールとラケットが接触する際、一定方向にエネルギーが加わればボールは飛び回転がかかります。「ボールの一方の端に偏って力がかかればボールに回転が生まれる」だけです。テニスにありがちな「トップスピンをかけるにはこういう打ち方をしないとダメ」といった考え方はこういった技術以前の理解を邪魔し、柔軟な思考や発想をできなくします。

ボールが飛び回転がかかるために使われるエネルギーは

「1. 速度をもって飛んでくるボールが持つエネルギーを反発させる」

「2.自らスイングし速度を持たせたラケットが持つエネルギーをボールに伝える」

のいずれか、或いは両方の組み合わせです。

時間の無い中、ネットに近い位置、相手のボール速度が残っている、飛ばす距離もベースラインからよりも短いボレーは「スイングしない」と言われる通り1メインのショット。自ら上げたほぼ速度ゼロのボールを打つサーブはラケットを加速させないと飛ばせない2メインのショット。ストロークは打つ場所、ボールの状態、飛ばす距離などに合わせて1と2を組み合わせて打つショットです。テニススクールでは『それぞれの打ち方を”形”で』説明され、こういった “技術以前” の情報は強調されません。

ストロークでもサーブでも我々がスイングする最大の目的は「ボールを遠くまで飛ばすこと」です。そのためにボールに飛ぶための大きなエネルギーを持たせます。(速度の大きさ ≒ 飛距離です) 道具の発展によりボール速度が上がり、回転もかけやすくなったのでこれをテニスに取り入れているものです。「回転をかける事」が目的になってはいけません。

「ラケットを水平方向に前進させること」と「ラケットを水平方向に引き上げる動作」は運動の方向(ベクトル)が違ってきます。「前に強く振りながら上にも引き上げる」とかスイングが毎回変わる予感しかしません。

リラックス状態でラケットを加速させれば、ラケットは自然と直進運動をしようとし、安定したスイング軌道にも繋がる。ラケットヘッド側が身体を追い越せば、前進しようとするラケットに引っ張られて腕は回内(プロネーション)方向に捻じれる、それに合わせて肩、肘、手首等を柔軟に曲げていけば、前に強く振りつつラケットヘッド側が持ち上げる事象が起きる。これをトップスピンの生成に利用する方がより自然で目的に合うと言えます。

実際、プロ選手がラケットを振っている方向はボールを打ち出す方向 (前方向) であり、ラケットを意図的に上向きに引き上げるような動作は見られません。

こういうと「トップスピンの代名詞でもあるナダル選手は上に振り上げるフォロースルーをしているじゃないか」と思う方も居るでしょうが、ナダル選手がラケットのスイング軌道を引き上げるのはインパクト後のボールが離れた後です。少なくともボールが離れるまではボールを打ち出す方向、角度に向かってラケットを “まっすぐ” 振っていることは分かると思います。

ナダル選手のストローク練習

また、ナダル選手は軸足である左足に体重をかけて身体の軸を背中側に傾けて打っています。身体の軸が地面と垂直なら水平芳香へのスイングとなる所が、この後傾により『体軸に対して90度の方向へまっすぐ振っているけどスイング軌道は少しだけ斜め上向きになる』工夫がされています。

プロ選手が打っているストロークのスイング角度はせいぜい「水平 + α 」といった所です。

計算上、ベースライン中央付近の地上80cmの打点から、ネット中央の一番低い位置の2倍 (約1.8m) の高さを通過させるためのボールの打ち出し角度は “約5度” です。

ベースラインからネットの2倍の高さを通過する打ち出し角度

回転をかけようとそれよりはるかに上向きの角度でラケットを振り上げる、振っていくことに積極的な意味を感じません。

打ち出し角度とスイング角度の大きな乖離はボールを正確に捉えられない、ボールに伝わる運動エネルギーのロスに繋がり、安定して速度や回転のあるストロークを打ちたいという目的にも合致しなくなってしまうと思っています。