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ラケットのインパクト面をバックネット方向に向けるテイクバック (テニス)

ラケットの初期加速

現在、初心者が教わるラケットヘッドを予め下げた昔風のテイクバックからストロークを打つ男子トッププロ(※)はほぼ居ないでしょう。

テニス テイクバック

皆、グリップよりもラケットヘッド側を上げた (簡単に言えば立てた) 状態のテイクバックからスイングを開始します。

※女子は居ます。

以下はテニスフォーラムさんのYouTubeチャンネルにある竹内映二さんの解説です。

ボール速度を高めるコツ(講師:竹内映二 第19回テニスフォーラムより)

予めヘッドを下げておくと振り始めのグリップ位置より高い打点のボールに対応しづらい (テコの原理でラケット重量以上の負荷が手にかかる) ですし、振り始めにヘッド側を下ろす動きをきっかけ、弾みとして使えます。

テコの原理

慣性の法則により停止した物体はその停止状態をし続けようとし、速度を持って進む物体はその直進運動をし続けようとします。リラックスした状態でラケットをグリップ側から引けば、停止位置に留まろうとするヘッド側はグリップが引かれる方向と逆向きに手をひっぱりつつ、進行方向の真後ろから追従し、その後、加速したヘッド側はグリップを追い越し身体の前に全身していきます。(ダルマ落としと同じ)

ラケットに働く慣性の法則

私は

「スイング開始時にグリップがある位置が “おおよそボールを捉える打点の高さ” の目安とするのが望ましい」

と考えています。

横向きの準備段階からインパクトまで利き腕肩の位置が身体の前方にあり変わらないバックハンドに比べ、

「横向きの準備段階で一旦身体の後方に下げた利き腕肩の位置を、何かしら身体を回転させる事で再び身体の前側に戻す距離をラケットの初期加速に利用しているのがフォアハンドの特徴」

と考えているので、

身体の回転軸が地面と垂直に近い状態でスイングするなら身体の回転に合わせて利き腕肩も水平方向に前進していき、手で握るグリップ位置も水平方向に動く。
手や腕で無理に操作しなければ、グリップの高さでヘッド側も身体の周りを周って前方に出てくる。

と思います。(紐と付けたおもりをぐるぐる回すのと同じ)

テニス フォアハンドストローク テニス フォアハンドストロークテニス フォアハンドストローク

だから、体軸の角度により利き腕肩が水平方向に動く、グリップが水平方向に進んでいく中、下図右のように

下から上、上から下へと大きな角度でラケット軌道が遷移していくならそれは『身体の動きと関係なく、腕や手の操作でラケットを動かしている』

可能性があります。

テニス ストローク 身体の回転とスイング軌道のズレ

身体の回転により利き腕肩が前方に移動、肩に付いている手や腕、手に握るラケットも勝手に前進、慣性の法則で直進し続けようとするラケットも安定的に動きます。

手や腕の操作でそれを無駄にしている、邪魔をしている状態です。

「高いボールを打つ際はテイクバックを高く取りなさい」と言われますよね。

振り始めのグリップ位置を上げれば身体の回転によりグリップの高さでラケットは進んでいきます。下げた位置から振り上げれば身体の回転(それによる利き腕肩の前進)のエネルギー関係なく、腕で振り上げる事になり発生するエネルギーは小さくなり、インパクトでボールのエネルギーを支えづらくもなります。

同時に時に低いボールを打つにグリップ位置を上げたテイクバックを取れば打ちづらいです。

また、一番大きな理由は動画でも説明(2分30秒位から)されているように「リラックスした状態から急激に手首・腕の向きを切り替える事で瞬間的で急激なラケット加速ができる」からという点が非常に重要です。

手の平で机を叩く、例えが悪いですがビンタをする際等、手の平を一定の幅で振る、動かす場合、リラックスしていれば自然と手首は手の平川、甲側に曲がる動きを見せると思います。

スムーズな腕の動き

手を前腕(肘から手首まで)の延長線上にまっすぐ、或いは甲側に折れた状態で腕を動かせば筋肉に緊張がありスムーズに速く動かせないです。

ボールを投げる際、バチを持って太鼓を叩く際等、すべてに共通する身体の仕組みです。泳ぐ前の準備運動で扇ぐように手を動かしたりもしますね。

上で上げた竹内映二さんの動画で「速いテンポでネットに向けボールを打ち続ける」デモをされていますが、初心者が教わるような『ラケット(グリップ)が身体から離れた位置にあるテイクバック』ではこれが出来ません。

テニス テイクバック

動画では「連続して打てない」という所に目が行ってしまいますが、考えるべきは、

「早い準備ができない」
「短い距離で瞬間的にラケットを強く加速されられない」

といった点でしょう。

動画に出てきますが、それまで教わってきた「準備やインパクトまで時間のかかるのに遅いスイング」が”当たり前” だった学生の皆さんには簡単にラケットを加速できるのが目からウロコなのは当然だと思います。

コート上で教わるボールの打ち方は「テニス固有の特別なもの」だと思いがちですが人の身体の構造は皆共通しており、各スポーツ、広く言えば日常生活でも使う運動も共通してきます。日常生活含め経験している身体の機能や使い方をテニスの場で切り分けるのは勿体ないです。(「この動きは○○と似ているな」と考えるのは知識や理解が要ります。ボールを打っているだけでは不十分。知識不足の”思い込み”は怪我に繋がるかもしれません)

テイクバックからの振り始めでインパクト面をどこに向けるか?

繰返しになりますが、私は、フォアハンドストロークでは横向きの準備段階で一旦身体の後方に下げた利き腕肩の位置を、何かしら身体を回転させる事で再び身体の前側に戻す距離をラケットの初期加速に利用していると考えているので、スイング開始時からインパクトまで、自分が設けた加速距離でインパクトに必要なラケット面の状態 (向きや面の角度) が安定的に再現できるならテイクバックから振り始める際の手首やラケットの角度は個人差があって構わない (ヘッド側を下げて手首に負担がかかる。グリップを極端に上げる、下げる等して身体の回転とスイング軌道がマッチしなくならない) と思います。

テイクバックから振り始めはラケットが動いている訳ですし、状況や打ち方によっても変わってきますが、フェデラー選手はインパクト面が真下方向を向いていますし、錦織選手やナダル選手は外側(身体の右側)を向いた状態から伏せてきますよね。

ラケット面がバックフェンス側を向いたテイクバック・振り始め

他にも振り始めでインパクト面が後ろ (バックフェンス側) を向いている選手も居ます。
例を上げるならワウリンカ選手やカチャノフ選手等でしょうか。

私の周りでも、比較的腕力に自信がある方やかなり厚いグリップで打つ方でこういうテイクバック~振り始めで打つ方は見かけます。

ただ、私だったらあまりやりたくない」かなぁと思っています。

※トッププロでも打ち方が様々な中、唯一ではないにしても「この打ち方が正解」と決めるのは無理があり、世界的権威や専門家でも難しいと考えます。テニスの楽しみ方も人それぞれですから怪我をしない範囲で「その人がやりたい打ち方で打てば良い」でしょう。ここで書くのは私が考えた内容であり、そういう打ち方をする方への否定ではありません。ご理解ください。

前述したようにリラックス状態でラケットヘッドが手や腕の負荷にならない位置 (ヘッド側が手の上で立っている等) にあれば、身体の回転に伴いグリップ側から引かれるラケットは慣性の法則でその場に留まろうとするラケットヘッド側はグリップ側に遅れてその真後ろから追従し加速を始めます。

テニス ラケットに働く慣性の法則 テニス ラケットに働く慣性の法則 

加速したラケットは慣性の法則でその直進運動をし続けようとするので、適度にリラックした状態でラケットの直進を妨げる事(無駄な操作)を加えない、ボールとの接触までに適切なインパクト面に至るように腕の関節の曲がりや腕の捻じれをうまく使って誘導してやれば「テイクバックから振り始めの状態は各自のやりやすいやり方で構わない」とは思うのです。

テニス インパクト前後

ラケットは加速させたいが加速したラケットを”操作”したくない

ここでの話とはズレてしまいますが「腕を動かしてラケット面をボールに当てよう」という意識“加速させれば勝手にボールに向け直進していくはず”のラケット軌道を歪めてしまう要因になります。

テニス 再現性の低いインパクト例

ボールとラケットのインパクト時間は0.003~0.005秒と言われます。仮にインパクト時間を0.004秒、インパクト前後のラケット速度を時速130km/hとすればインパクトの0.004秒の間にボールとラケットは接触状態のまま約13cm前進していくという計算になります。(単純な算数です。疑問の余地もありません) 初心者の時、ラケット面を差し出した空中に一点を『打点』として教わりますが、実際に我々は10cm強の幅でボールとラケットは接触していると考えられるのです。また、人間の反応速度は速い人で0.2~0.3秒と聞きますからインパクトの瞬間を人が認識しそれに対してラケット操作を加えるといった事は実質的に不可能でしょう。

Racquet hits the ball 6000fps Super slow motion

結果、慣性の法則で勝手に直進していくラケットの動きを操作で邪魔したくないし、操作を加える事で10cm超の幅で当たるラケットとボールのインパクトの再現性は低くなり、操作によりラケット速度も下がる可能性があります。インパクトの瞬間を人が認識し操作を加えられない事を考えると「インパクト前後の一定距離、例えば30~40cmは、ラケット面をボールにエネルギーを加えたい、ボールのエネルギーを反発させたい方向や角度に向き続けている、その向きで前進していく状況が望ましい」と考えられそうです。

振り始めとインパクト時での『ラケット面の向きの差』

テイクバックからの振り始めでインパクト面がどこを向いていようと、インパクトでは当然ボールにエネルギーを加えたい方向、ボールのエネルギーを反発させたい方向 (回転や軌道等もあり同義ではないですがここでは単純に「ボールを飛ばしたい方向」と書きます) に向いている必要がありますよね。

当たり前のようですが、テイクバックからの振り始めとインパクト時でインパクト面が向く方向の差が大きければ大きいほど「大きく角度が変化している」訳です。

身体の構造や実際に身体を使ってラケットを振ると考えるとこういう状況は難しいのですが、以下は「インパクト面が水平方向に直進し続けてボールを打った場合」の例です。これを基準に考えましょう。(茶色側をボールに当たる側、インパクト面と考えてください)

テニス インパクト

続いて、フェデラー選手のように「インパクト面が地面方向を向いた状態から振り始めてボールを打った場合」の例です。

テニス インパクト

90度ほどの回転ですから最初の図と大差ないスイング距離 (スイング開始からインパクトまでの加速距離) で出来そうに思います。

フェデラー選手のスイングを見てもそう感じますよね。

テニス フォアハンドストローク

次に「インパクト面が後ろ(バックフェンス側)を向いた状態から振り始めてボールを打った場合」の例です。

テニス インパクト

180度近い回転を行うので上の地面方向を向いた状態からの振り始めに比べて「同じ速度で回転するなら180度回転させるためにインパクトまでにより時間を必要とする」と思われます。

それの解決方法として単純には

1) 振り始めからインパクトまでの距離を長く取る (大きなスイング)
2) インパクトまでの距離は変えず、速く回転させる

の2つが考えられます。

私がインパクト面をバックフェンス方向の向けるような振り始めをあまりやりたくない」と思ってしまう理由は、

インパクト面を “より大きく “回転させていかないと「想定したインパクトが作れない」制限は、往々にして “インパクトの再現性” を下げる可能性を生む

と考えるからです。例えばこんな感じ。

テニス インパクト

インパクト面が180度の回転を過ぎてもインパクト面の安定が定まらず「上向きの面でインパクトしてしまう」可能性がある気がします。

あくまで私の印象でしかないので具体的な例は上げませんが、YouTube等で後ろ(バックフェンス側)を向いた所からスイングされるプレイヤーを見ていると「相手コートに向けてキレイに飛んでいく本来の軌道からすると、時折、打った瞬間に “フワッと浮き上がる(フカす)ような軌道のボールになる事があり、ベースラインに収まらずオーバーしたりする」と感じてしまうのです。

テニス フカしてしまう軌道

時折こういったフカす軌道が出るので、打つ際に手先でボールを抑えよう調整しようとした打ち方になる。そうすると「しっかり振り切れない」スイングになってしまう印象を持ちます。

ラケットは慣性の法則でその直進運動をし続けようとする特性があるのでインパクトまでの距離が十分に長ければボールに当たるまでに安定したインパクト面にしやすくなると考えます。ただ、より長い距離、長い時間ラケットを前進させる必要があると言う事は

ちょっとした感覚、タイミングのズレでもインパクト面の安定性が危うくなる、本来望ましいインパクト面の状態に至る前にボールに当たってしまうという可能性が残ると考えます。

グリップによる打ち方の差 (個人の見解です)

上のバックフェンスにインパクト面を向けた振り始めをする方は「ウエスタンかそれ以上に厚いグリップで打っている事が多い」と想像します。(ワウリンカ選手やカチャノフ選手はそう見えます)

ラケットを握るグリップの厚さの特徴として、

厚いグリップで打つ場合、打点は身体から前に離れていく。打ちやすい打点は高くなる。(高い打点が打ちやすい)
薄いグリップで打つ場合、打点は身体に近づいてくる。打ちやすい打点は低くなる。(低めの打点が打ちやすい)

です。

また、トップスピンが前提となる現代においてコンチネンタルグリップ等でフォアハンドストークを打つ方は少ないです。

現代における「薄いグリップ」をイースタン~セミウエスタン位だと考えれば、打ちやすい打点は膝上から胸位までの間といった所でしょうか。

ウエスタンより厚い位のグリップなら頭の上位でも問題なく打てます。

日本では昔から「グリップは厚いほどスピンがかかる」「グリップが厚いほど強いボールが打てる」といった “信仰” があると感じます。

軟式テニスの関係もあってエクストリームウエスタンと言われるような極めて厚いグリップで打つ方も少なくないです。日本人は総じて背が高くないし、強いトップスピンへの憧れやロブのような高い軌道を多用する、クレーやオムニコートのような”遅い”コートが多い事等から「高い打点をうまく打つ」必要性から「厚いグリップで打つ」ニーズは高いかもしれません。

でも、テニスのルールを考えれば「相手は自コート側の規定のライン内に必ず一度ボールをバウンドさせないといけない」です。(ネットを越した後ならノーバンで打っても良い)

つまり、

ボールがバウンドする直前か直後なら地面10cmの位置でも打てる

と言う事です。(※「ボールが2バウンドするまでに打てば良い」のですごく下がって2バウンド目ぎりぎりで打っても良い)

地上2m超の高さを常にボールが飛び交っている訳ではない事は皆が分かります。

割と知られているようにフェデラー選手のグリップは『イースタン位』と言われる位に薄いです。

強烈なトップスピンのイメージから誤解されますが、ナダル選手のグリップは『セミウエスタン位』で決して厚くはないです。

私見ですが、フェデラー選手やナダル選手はそのあまり厚くないグリップ(握り方)を活かし、あまり高くない打点でボールを打つのを基本としていると思っています。

「クレーキングのナダル選手が高い打点で打たない??」と思われるかもしれませんが、フェデラー選手はベースラインから下がらずライジング気味、ハーフバウンド気味に打っている姿はよく見ますし、逆にナダル選手はベースラインからはるか後方に下がってボールが頂点から落ちてきた位置で打っていました。テニス自体の進化で、皆、強いボールを打つのは当たり前になり、相手の時間を奪うために下がらない位置で打つ、時間を奪うために(昔と違った意味で)ネットプレイを使うようになりました。2~3年前からナダル選手も状況により下がらずライニング気味に打つ機会が目立つようになっています。

下がった位置で落ちてくるボールを打つ。1バウンド目直後を打つ。その両方で「腰から胸位の打点に強い」薄めのグリップの特性が活かせます。

こう言われて、改めて練習風景等を見てみると「ナダル選手はいつも腰位の高さでボールを打とうとしている」と感じるでしょう。

Rafael Nadal 4K – Australian Open 2016 Back Perspective (Practice Courts)

身体の重心と足の力でラケット加速を生むという事

人の身体の重心は身体を支える両足と最も重い部位である身体本体が繋がる下半身、腰辺りに来ると思います。

だから物を押したりする際、両足で身体を押し支えるエネルギーを発生させやすくするため、意識せずとも腰を落として重心位置を下げるのですね。

重心を下げ何かを押し支える姿勢

ボールが飛び回転がかかるのに使われるエネルギーは大きく、

1) 重量と速度を持ち飛んできたボールが持つエネルギーをラケット面で反発させる
2) 重量を持ち、自ら加速させたラケットの持つエネルギーをボールに伝える

の2つだと考えます。

・準備時間の短い中、ネット近くの遠くまで飛ばす必要がないボレーは1(ボールエネルギーの反発)を主と考えるショット。
・自ら上げたほぼ速度ゼロのボールを打つサーブは2(加速さえたラケットの持つエネルギーをボールに伝える)を主と考えるショット。
・打つ位置、飛ばす距離、飛んでくるボール速度、打ちたいボールの速度や回転量等が状況によって異なる、自身でも変えるストレートは1と2を組み合わせて打つショット。

といった具合です。

この2つのエネルギー源を状況によって使い分ける理解がないと「接近してのストロークなのにベースライン後方と変わらない強さでラケットを振る」「ネット間近で相手のボールが速いので打ち負けまいとラケットを振り回す」「ストロークとサーブを同じ感覚で打とうとしてしまう」といった事が起こります。

前述しようにフォアハンドストロークは横向きの準備段階で一旦身体の後方に下げた利き腕肩の位置を「ボールにエネルギーを加えやすい、ボールの持つエネルギーを反発させやすい」上図のような位置でボールを捉えるため両足の力を使って身体を回転させ、利き腕肩の位置を身体の前方に戻していく。利き腕肩が動く幅をラケットの初期加速に利用しています。それが利き腕肩の位置が身体の前方にあって変わらないバックハンドストロークとの大きな違いです。

テニス フォアハンドストローク テニス フォアハンドストローク

テニス バックハンドストローク テニス バックハンドストローク

初心者がストロークの打ち方を教わる際、「肩よりも上の打点で打て」とは言われません。「腰位の高さで」と言われるでしょう。

これは最初に教わるグリップがセミウエスタン位だからという事が大きく関係していると考えます。(グリップの厚さと打ちやすい打点の高さの関係)

握り方を教わる際、あまり明確に言われないでしょうが、初心者の方が何となく “厚く” ウエスタン位に握ってしまうと「膝よりも下位の低いボールが持ち上がらずネットする」という事が起きる気がします。(そこから「ネットするからインパクト時にすくい上げるような打ち方になる。ボール速度を上げようと思っても距離感がコントロールできずネットやアウト。スイング速度を上げられず常に恐々打つことになる」といった事に繋がる。だから『グリップと打ちやすい打点の関係性』は早い段階でしっかり認識、理解したい)

前述したように身体の重心は腰に近い位置にあり、あまり厚くないグリップなら腰から胸位の打点が打ちやすいです。

これはボールにエネルギーを加えるため加速させるラケットが地面から近いという事は両足の力を使って地面を強く踏む事で得られる反力をラケット加速に利用しやすい状況だという事でもあります。

それらの事から考えられるラケットの初期加速のための動作は下図のようなものが考えられます。

テニス 両足の力を使ってラケットを加速

見て分かるように利き腕はほぼ動かさず、両足の力を使って利き腕肩の位置を前に動かす事で結果的に肩の繋がる腕が勝手に前進していきます。

よくイメージする「フォアハンドは身体の回転で打つ」という意識が強いと大きなエネルギーを発生させる足の力より「身体を回す」動きが強くなり、上図なら『直線的にボールに向かうであろう手(ラケット軌道)』『身体の周りを、円を描くように回っていく軌道』になりそうです。円軌道だとボールに当たりづらくなるので「腕の操作でインパクト面をボールに近づけようとする」事になり、ラケット速度も低下してしまうという懸念を持ちます。

※我々は「腕を振ってラケットをスイングする」と考えますが、慣性の法則でその場に留まろうとするラケットに手や腕はスイング軌道後方に引っ張れるため、ラケットの初期加速時、手や腕は殆ど動かせないと考えます。ワイパースイングのような腕の機能や仕組みを使ってラケットを操作できるのは、ラケットが加速して前進し、身体(利き腕肩の位置)を追い越して以降、手や腕を引っ張るラケットの負荷が軽減されて以降です。

厚いグリップ、高い打点で打つには大きなスイング、広いスタンス

厚いグリップで打つ際の打点は薄いグリップよりも身体の前方に離れていきます。

フォハンドは横向きの準備段階で一旦下げた利き腕肩の位置を身体の回転により再び身体の前側に戻す中でボールを打ちますから、

「打点がより前で取ろうとする」という事は回転軸と言える身体から見て「後ろ側の準備も対となる大きさが必要となる」

という事だと思います。

厚いグリップを活かして肩よりも高い位の打点でボールを打つ選手の打ち方を見てみましょう。

ラケットの速度が最も高まるのは加速を始めてラケットが身体を追い越す位までだと考えます。それ以降はラケットの初期加速に貢献した両足の力、身体や腕がラケットを引っ張る力が供給されなくなるからです。

テニス インパクト

「打点をより前に取る」という事はインパクトに至るまでの距離が長いという事であり、大きなスイングをして長い距離でラケットを加速させていく方がスイングしやすいでしょう。厚くないグリップを活かし、短い距離で瞬間的に加速させ、身体に近い位置でボールを捉える打ち方では「打点までに失速してしまう」懸念があるからです。

身体の重心から遠くなる “高い打点” でラケットが身体から遠い位置を動く“大きなスイング” をするなら、身体のバランスを取るため、両足で身体を支えるためにも野球のピッチャーのようにスタンスも大きくしっかり取る方が望ましくなるでしょう。

ピッチャー

Da Vinci Vitruve Luc Viatour.jpg
By レオナルド・ダ・ヴィンチ – Leonardo Da Vinci – Photo from www.lucnix.be. 2007-09-08 (photograph). 

頭より高い打点でボールを打つ際に選手がジャンプしつつ打つ事がありますがこれは「重心位置である腰ができるだけ打点に近い位置に置いた状態で打ちたい」という意図も含まれていると思います。

Embed from Getty Images

単に高い打点で打ちたいなら「腕を上げて打てば良い」ですが、それだと棒立ちになり足でエネルギーを出せない、威力が出ないです。また、ジャンプすれば良いという訳ではなく「ジャンプしつつ重心位置が打点に近い打ち方になる(足が付いた打ち方と変わらない)」事が大事。ジャンプしても身体が伸び切ってしまっては”棒立ち”と同じですね。

どれが正解という事はない

私は偶然というか、フェデラー選手の打ち方を参考にボールを打つ際の身体の使い方を考え始めたためか、グリップはセミウエスタン位のまま、ボール速度が速く跳ねにくい室内カーペットコートで練習している事もあり下がって落ちてくる所を待って打つよりボールがバウンドした直後をコンパクトに捉える打ち方が安心して打てるようになっています。

私とは違い、クレーやオムニ等で高いバウンドのボールを高い打点で打つために厚いグリップと大きなスイングでボールを打つ事が基本となっている方も多いと思います。

トッププロですら打ち方がそれぞれ異なる中、唯一でなくても「この打ち方が正解」と決める意味はないと私は思います。打ち方を教わる際「この打ち方が正解ですよ」と示して欲しい気持ちは分かりますがテニスの世界的権威、著名コーチでもそれは難しいでしょう。我々のような立場なら尚更です。

(同時に人の身体の構造や仕組みが皆共通してくる事から「ボールにエネルギーを加える、ボールにエネルギーを反発させる」のに適した身体の使い方といったものは皆が共通して理解できる情報だと思います。打つ”形”ではなく身体の機能や仕組みを理解しどう機能するかを学びたいです)

ただ、男子テニスを見ても「テニスは日々進化してきている」のを感じます。

スポーツ科学が進化し、経験則ではないスポーツへの理解が深まっています。多くのスポーツでもそうでしょうが一部の才能を持つ者達が成績を独占していた時代から今は総アスリート時代になっています。

テニスで言えば皆が200km/hのサーブを打ち、皆がそれをリターンでき、皆が強烈なスピンのかかったボールを打ちます。何か突出した技量や戦術を持つ存在が出ると数年後には皆がそれを出来るようになる。それによってテニスは進化してきています。

現在で言えばボールの威力を上げる物理的限界に至り、そこから「相手の時間を奪う」テニスに移行してきています。

その昔、ベースライン後方でスピンの効いたボールを延々打ち続ける試合ばかりだった全仏オープンですらテンポの良い短い打ち合いでポイントが決めるようになっています。

途中、「グリップが厚くなるほど打点が前になる」と書きましたが男子トッププロを見ても、ウエスタンを超えるほど極端に厚いグリップで打つ選手は見られなくなり、厚いグリップで打つ選手も身体に近い打点でボールを捉える工夫をしているように感じます。

ストロークを打つ際、相手のボールの持つエネルギーを飛びに利用するなら「1バウンド目から時間が経過しない段階でボールを捉える方が望ましい」でしょう。(ボールはバウンドの摩擦によりエネルギーが減衰し、飛ぶ中で空気抵抗、重力によりエネルギーが減衰する)

ライジングやハーフバウンドで打つのは技術的に難しくなりますが下がった位置で待って打つのではボールのエネルギーは小さくなり、遠い距離を飛ばすために自分が加える必要があるエネルギーの量も大きくなります。第一、相手により長く準備する時間を与えてしまいますね。

薄いグリップ(現代で言えばさほど厚くないグリップ)で強いボールが打てないというのは、ラケットが木製で飛ばない、エネルギーの伝達ロスが大きかった時代の常識で、ラケットがストリングの素材が変わり、重量も軽くなり、それを活かした身体の使い方やスイングの仕方が出来るようになった現代では「昔とは違った意味で、厚くないグリップで、瞬間的にラケットを加速させ、エネルギーの減衰が少ない身体に近い位置で強いボールを打てる」打ち方が出来るようになっているのだと思います。

自分がやりたいテニスをやれば良いと言える半面、現代テニスを考えれば「とにかく厚いグリップでスピン、スピン」という時代でもないと思います。

自身、進化を続けツアーのトップに居続けるフェデラー選手やナダル選手がその例ですし、最近になって「全てにおいて両手打ちバックハンドに負ける」と言われていた片手打ちバックハンドがトップ選手の間でも目立つ、むしろ両手打ちバックハンドよりも優勢に見えるようになった事にも関係していると想像します。(昔の常識とは違う”現代的な片手打ちバックハンド”)

テニスは確率のスポーツですから「打ち方は再現性が高い方が望ましい」です。(同じような状況で再現性高く同じように打てないならそれだけで確率が下がる。自信がない。自分を信じてボールが打てない。)

自分なりの打ちやすさはあるとしても無駄に再現性を下げる打ち方をする必要はないとも言えます。

最初に述べた「リラックスした状態から瞬間的にラケットを加速させられる身体の使い方」は理解が望ましい内容だと思います。

同時に「自分が打ちやすい」というだけで自分がどういう打ち方、身体の使い方をしているか考えないまま。どういった問題点が考えられ、それによってどういった事象が実際に起こっているのか (途中で上げた「ボールをフカしてしまう」要因) を理解しないままでは再現性の高い、確率の高いテニスが遠のいてしまうかもしれませんね。