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ロシアの3選手、メドベージェフ、カチャノフ、ルブレフが面白い (テニス)

テニスを”国籍”で見るのはピンと来ない

テニスは基本的には個人競技でダブルス含め国籍はほぼ関係ありません。強い選手が勝ち、弱い選手が負ける、シンプルな世界です。

『国際○○大会』等で”日の丸”を背負って戦ったりしないので、錦織選手、大坂選手の活躍に対し、日本テニス協会が全くと言って良いほど表立って絡めて居ないのはそのためです。 錦織選手は15年前に渡米して以降、大坂選手の経歴は良く知りませんが17年前に渡米と聞きます。グランドスラムダブルスでベスト4、デ杯日本代表にも選ばれているマクラクラン勉選手も25歳まではニュージーランド国籍でした。人生の多くを海外で過ごした彼らは”日本の選手”なのでしょうか? 

他スポーツと違い、テニスはATP、WTA、ITFの3組織が世界統一でトップツアーを運営しているシンプルな構造なので、ランキングを上げる、大きな賞金を獲得するには世界ツアーを回って結果を出すしかない。国籍がどこであろうと本人次第、世界各国の選手と戦うのならそういった選手が居ない日本より早い段階から海外で自分を磨きたいと考えるのは自然な流れでしょう。いくら世界を知っている著名コーチが指導しても日本で育成するより、2時間移動すれば周囲の複数の隣国に行け、沢山のジュニア選手と試合ができる環境にある国の一般的な強化コーチに教わる方が意味はあるかもしれないです。日本でテニスをやる方は400万人程居るそうですが、プロスポーツとしてのテニスでは圧倒的な後進国であり、国籍上いくら世界で勝つ選手が出てきてもそれは今後も変わりそうにありませんね。

その一方、テニスには国別対抗戦としてのデビスカップ、フェドカップが有り、プロツアーとのスケジュールの兼ね合いから上位選手の出場を確保し辛い(去年の優勝国が上位選手が出ないだけで早期敗退したりする位)中、毎年続いています。両大会のためではないですが、“自国の存在意義のため” 日本とは桁違いに選手育成に力を注ぎ続けるテニス協会もある訳です。例えば、オーストラリア、カナダ、イギリス、フランス等で、そういった国では“世界で戦える選手が同世代で何人も揃って”きます。

オーストラリアはテニスが衰退気味ですがキリオス選手の他にも紆余曲折を経てデミノー選手、ミルマン選手と揃って来ました。カナダはラオニッチ選手、シャポバロフ選手、ポスピショル選手、アリアシム選手、ネスター選手とシングルス・ダブルスの選手層では世界一と言っても良い位になっています。

ロシア3選手の台頭

去年位からロシアの男子プロテニス選手の活躍が目立ってきました。

ダニール・メドベージェフ選手

カレン・カチャノフ選手

アンドレイ・ルブレフ選手

の3選手で、度々ツアーハイライトやニュース映像で名前が出てきます。

メドベージェフ選手は先日錦織選手を破って楽天ジャパン・オープンで優勝したので名前を聞いた方も多いと思います。

それぞれのプロになるまでの経歴はよく分かりませんが、メドベージェフ選手とカチャノフ選手が22歳、ルブレフ選手が20歳で、3人ともモスクワ生まれのようですので、ジュニア時代から旧知の仲という感じかなと思います。実際3人とも仲が良いそうです。

映像等を見ていて気づく範囲ですが、今回は3選手を見て感じる点や特徴等を上げてみたいと思います。(上の並びは現状のランキング順です)

ダニール・メドベージェフ選手

1990年代に男子シングルス4位、全仏準優勝のアンドレイ・メドベデフという選手が居ました。私としては懐かしい名前です。同じ苗字 (当時日本ではメドベデフと読んでいた) なのですが、このメドベージェフ選手は彼と親類関係等ではないそうです。

身長198cmでかなり細身に見える選手です。

2016年にTOP100入り、今年2018年にTOP50を切り、後半にかけて順位を大きくあげて来ています。2018年10月18日現在で21位。

メドベージェフ選手は、フォアもバックもストロークの打ち方が特徴的です。

フォアハンドはウエスタンよりも厚い位のグリップで握り、

腕を伸ばしラケットヘッド側を身体後方に高く上げたテイクバックから”バチン”と打ってきます。

打っている様子を見た方なら分かるかもしれませんが「軟式テニス経験者なの??」と思ってしまう位、軟式から硬式に移った方に見られるテイクバックとスイングに近く見えます。

スイングスピードがかなり速い事とこの特徴的なスイングから、インパクト直前とラケットがボールに当たって飛び出してくる辺りのボールの出処が見づらい印象です。(ヘッド側が下がらないテイクバックで肘が曲がった状態のまま巻き込むようにラケットが前に出てくる感じ)

一方、バックハンドは両手打ちですが、右手も左手もかなりグリップが薄めで、左肩を下げ、右肩を上げ、身体に近い位置でボールを捉え、前にまっすぐ押し出す(下から上というより軽くスライスでも打つような振り出し)ように打っています。

「ストロークは後ろから前へ体重移動しながら打つ」みたいな指導とは真逆の「このグリップで厚く当てて打つならこういう打点、こういう打ち方しかないな」という感じの打ち方でしょうか。(グリップが少し違いますがマレー選手の打ち方に似ている気がします。)

いずれにしても対戦すればかなりトリッキーな打ち方に見えるでしょうし、高身長とスリムな体型を活かした感じのボールの威力もあり、やり辛い相手なのは間違いないと思います。

特に高い打点で打ってきた時のボールの威力は “唸りを上げて飛んでくる” 感じすらありますね。

タイプで言えば、しっかりサーブを入れてからのストローク勝負。これは他の2選手も似たタイプです。前述の元世界4位のメドベデフさんや同年代の元世界1位カフェルニコフさん、その後のサフィンさん、ダビデンコさんもストローク中心だったので、ロシアの伝統という感じかもしれません。

高身長(足が長い)を活かしてフットワークの歩幅が広く、歩幅が広い割に強くダッシュできているので遠いボールもしっかり追いつけています。球際でボールをラインにねじ込む器用さも持っている選手です。 

タイプがだいぶ違いますが、同じロシアのダビデンコさんもねちっこくボールを拾い、ここぞという瞬間に1発でボールをねじ込みポイントを狙う選手でした。それに通じる気がします。

次のカチャノフ選手がかなりサーブを武器としているのですが、同じ年齢でサービスエース数がカチャノフ選手の64%位しかなく、速度も200km/hいかない位ようなので、サーブはコースをしっかり付いてその後のストロークでしっかり決める感じなのだと思います。

ウェアはロット、ラケットはテクニファイバーですね。 

好きなサーフエスは芝、好きなショットはリターンだそうです。

蛇足ですが、1年の中でも髪型がよく変わる選手です。短髪だったりマッシュルーム型にモコっとした髪型だったり。でも、試合中、汗をかいてくると前髪部分がピッチリと額に張り付いてきて「あぁ、きっと将来は髪が….」という感じですね。(苦笑)  

カレン・カチャノフ選手

メドベージェフ選手と同じ身長198cmですがかなりガッチリした体格です。(プロフィールではメドベージェフ選手+7kgですがもっと体重差はありそう)

正直言うと今回の3人の中ではカチャノフ選手が一番好きです。

彼も2016年にTOP100入りし、2017年にはTOP50入り、今季後半に入りTOP20を狙える位置まで来ています。

印象的だったのが今年始めのホップマンカップ。

フェデラー選手と対戦し3-6、6-7で破れたのですが2セット目はタイブレイク8-9まで行ってかなり良い勝負でした。最後のアウトコールに願うようにしてチャレンジ結果を見つめるカチャノフ選手の表情に彼の性格が現れている気がします。(「もっとロジャーと試合を続けたい。頼む入っていてくれ。」)

カチャノフ選手は、強いサーブ、強いストローク、小技もきちんとこなせる、かなり高次元でバランスの取れた選手です。

憧れの選手はサフィンさんとデルポトロ選手だそうで、それがそのままプレイスタイルに現れている気がしますね。 

今期のサービスエース数は569本チリッチ選手やデルポトロ選手とほぼ同じ位の数と言えばサーブが武器であるのは想像が付くかと思います。

以下はトス時の写真ですが、トスして上の伸びた左手に対してラケットを持つ右手がこれだけ遅く間を持って持ち上げられる (タイムラグがある)、右手全体が弧を描いて持ち上がろうとしている様子サーブで強くボールを打てる選手の特徴だと思います。

トスを上げるのと同時に利き腕を上げトロフィーポーズを作る”バンザイ”型の選手は腕を強く振れません。一流のピッチャーは、ボールを持つ利き手を肩より上に”担ぐ”(上腕を回転させ肘支点で前腕を持ち上げる)際、身体(脇側)と利き腕が逆Cの形になるそうなのでそれに通じます。利き腕を上げるタイミングに意味があるのではなく投球で言う所の”ワレ”を起こすとこういう身体の使い方になるものです。

フォアハンドは手首を手のひら側に曲げた“コンパクト”なテイクバックから一気に振り切ってボールを“バチン”とひっぱたくような打ち方です。

このテイクバック、手首を返してヘッド側を後方に伸ばすと”大きな”テイクバックになってしまい、その状態から振り始めると初期加速がしづらく、振り遅れの懸念も出ます。筋力が必要ですが理にかなっているテイクバックとも言えます。

ティアフォー選手、ソック選手等、若手選手にはこういったテイクバックを取る選手が見られますね。カチャノフ選手はグリップがウエスタンよりも厚く位の握りなのでそれも関係しているのだと想像します。

※グリップと打点の位置

軟式出身の女子選手のフォアハンドで”振り始めで背中側にラケットヘッド側を落とし、ぐるっと身体の周囲を回ってラケットが出てくる”スイングの場合、スイングスピードが上がらないと感じます。(遠心力では加速させられない)

脇が空きラケットが身体から遠いテイクバック

フォアの初期加速は腕の引き、身体の捻り戻し、軸足側で地面を踏む反力等を連動させて得たいので、身体は回転させてもラケットの動きはコンパクトなテイクバックから直線的、瞬間的にボールに向かう方がこれに適合します。

足で地面を強く踏み身体を回転させる

このため男子トッププロはそういう打ち方が多いのです。

加えて言えば「日本人は背が低いから高い打点で打つため、スピンをかけるためにグリップは厚い程良い」という”通説”みたいな話もインパクト時のラケット速度 ≒ ボールの威力と考えるなら厚すぎないグリップで身体に近い位置 (加速度が落ちない位置) で打つ方が理にかなっていると私は考えます。

フェデラー選手、ナダル選手がせいぜいセミウエスタン位。ジョコビッチ選手、マレー選手はウエスタンですが打ち方の工夫で打点はフェデラー選手、ナダル選手と変わらない位”身体に近い位置”で打っています。

それが何を指すのかは分かるでしょう。

こういった若手選手に見られる打ち方、ダイナミックには見えますが、長くトップを争うような選手達を見れば最終的には“シンプルな”無理のない打ち方がミスや怪我のリスクを減らすのでしょうから(個人差はあっても)我々はそういう打ち方を参考にすべきでしょうね。

カチャノフ選手は大柄ながらストロークでは常に“しっかりと踏み込んで打とうとする”ので打ち方に“軽さ”はないです。まさにデルポトロ選手風の踏み込みに見えます。 

ボールの後ろにしっかりと入り軸足を決める感じ。その場に棒立ちで腕だけでひっぱたくような打ち方をしたりしない。打っている様子を見るだけで基本に忠実で真面目な選手に見えます。

※スタンス幅

「身体全体を使って打つ」とは言いますが、我々であれば『肩幅位のスタンス幅でフォアハンドを打つ』方が殆どだと思います。 身体を回転させながらフォハンドは打ち、 “腕の長さ + ラケットの長さ”だけ身体から離れた位置でボールを捉えますよね。ボールを捉えるその位置は“両足のスタンスよりだいぶ外側にはみ出ている”でしょう。身体を回転させつつ身体から距離のある位置で強く打つには“現状の自分で言えば広すぎてシンドイ”位のスタンス幅が必要だと思いませんか?

決して大振りではなく速いボールにもしっかりと打点を合わせて厚く強く打てている印象です。球質はフラット系にスピンが効いた感じ。とにかくビューンと相手コートにボールが伸びていきます。 

バックハンドもかなり力強いですが、フォア同様、コンパクトなテイクバックから短い距離で瞬間的にラケットを加速させ、しっかりと姿勢を低くしてインパクトの瞬間にパワーを集中させている感じです。(弾んでくるボールに低い所からインパクトを合わせる感じがナダル選手の打ち方に近い気がします)

打ち方を見てもバックが得意という感じには見えないので、試合の様子で見られるようにやはり “最終的にはフォアで決める” 選手だと思います。

大会優勝といった成績はメドベージェフ選手のようなタイプの方が獲得しやすいかもしれませんが、上位選手と対戦した際、見ていて面白い試合をしてくれるのは圧倒的にカチャノフ選手の方だと思います。 そういう印象に残るタイプの選手ですね。 

ウェアはナイキ、ラケットはウィルソンですね。 

アンドレイ・ルブレフ選手

2017年にTOP100入りし同時にTOP50を切る勢いだったのですが、今季後半に80位近くまで後退してきています。背中の怪我で今季4~7月にかけて大会出場が出来ずそれ以降も調子が取り戻せていないようです。

ルブレフ選手は188cmで他2選手に比べると”小柄”です。

体格で言えばフェデラー選手やナダル選手と同じ位、一概には言えませんがビックプレイより総合力が求められる体格という感じでしょうか。

それは試合の様子を見ても分かります。

公表で体重65kgとかなり細めなので、ボールの威力やボールを追う際のフットワークはまだまだで、厳しく来たボールに追いつかずスライス等でかわすケースも多く見られます。

フットワークだけでなく相手のボールコースを操る技量もこれからなのでしょう。

錦織選手然り、ワウリンカ選手然りで、厳しいバック側を走り込み際にストレートを抜いてしまうような事を上位選手なら狙ってきますね。試合のハイライト映像を見ていると簡単にスライスで繋いでしまう選手は上位選手にそれを一発で決められてしまう印象です。それ位、厳しい世界ということでしょう。 

ルブレフ選手のフォアハンドを打つ様子を見ても多少腰高で、ボールを”前に”飛ばすために強く力を伝えるという点でカチャノフ選手の打ち方より改善の余地を感じます。

テイクバックで両足の中心に身体の軸があり、その場で身体を回転させ、腕が出てきた位置でボールを捉えるという感じ。カチャノフ選手がボールの後ろ側に軸足をしっかりと位置させ、出来るだけ踏み込んで打とうとする点との違いがあります。

カチャノフ選手とルベレフ選手の練習風景

ハーフバウンドも含めて常に上から叩き込もうと強く振っている印象を受けますね。

バックハンドは割とオーソドックスな打ち方です。身体の回転に合わせてラケットを振っていく感じ。

ただ、フォア同様、その場で身体を回して打っていて「前に強く飛ばす」という感じが少し弱いでしょうか。  もう少し身体が大きければこういった打ち方でも十分なのでしょうが強く振っていても少しパワー不足に見えます。

錦織選手との練習風景

フォア中心ですが、多少のバック側でも回り込んでフォアで打とうとしている辺り、バックよりフォアで打ちたい(バックはそれ程自信がない?)という事でしょう。

自身も得意なショットはフォアハンドと言っているようです。

身長がほぼ同じディミトロフ選手との試合を見ても身体の違いから来る安定感の差は歴然です。

全豪オープン2018 3回戦 ディミトロフ対ルブレフ

ルベレフ選手の方がだいぶ無理をしているように見えますね。 

体力的なものなのか、思うように試合運びが出来ない精神的なものなのか、試合中にこういった様子を見せる事もあります。

現在20歳という事もありNextGen ATP対象メンバーで、現在のFinalsのリストではズベレフ、チチパス、シャポバロフ、デミノー、ティアフォー、フィッツ、ルベレフの順で7位です。デミノー選手までは活躍が見だっていますが、単発的な活躍に留まっているティアフォー選手、好調とは言えないフィッツ選手の下という事で、彼が今どういう情況なのかは想像が付きます。

ルブレフ選手を見て感じるのはその「気性の荒さ」「負けず嫌い感」のようなものです。

この辺りがランキングを上げてきた要因の一つかなとは思います。

サフィンさん、カフェルニコフさん、 ダビデンコさんもかなり気性が激しく、ジャッジに激怒するような選手だったのでこの辺も”伝統”なのかもしれませんね。(ちなみにメドベージェフ選手も表立って見せませんがかなり”負けず嫌い”な選手に感じます。)

ルブレフ選手のウェアはナイキ、ラケットはウィルソン。

これはカチャノフ選手と同じ組み合わせですね。 

なお、ルブレフ選手はダブルスにも良く出場していて今季は9大会に出ています。

ダブルスパートナーは毎回のように違うのでシングルス出場の補完的な意味合い(ダブルスに力を入れている訳ではない)なのでしょうが、カチャノフ選手と組んだマイアミ・オープンでは決勝まで進みブライアン兄弟と対戦しています。(6-4, 6-7の後ST4-10で敗退)

若手選手らしいぎこちなくもしっかりとした動きですし、基本的なダブルスの動きやボレーやロブ等もきちんとこなしている印象ですね。

最初に書いた“総合力”という言葉が浮かびます。

シングルスの印象が強いナダル選手も実はかなりダブルス強く、機会を見ては出場しきちんと試合をやっています。

2歳の違いとは言え メドベージェフ選手、カチャノフ選手と比べると「選手として仕上がっていない部分が多く残っている」印象も受けます。それを踏まえても彼らよりランキングが急上昇する位の強さがあるのでしょう。

去年と今年を比較したシャポバロフ選手、今年後半のチチパス選手を見るに有望選手は1年の経験で大きく進化し成長すると実感するので、同年代のNextGen選手たち、上位選手達、他2人のロシア選手達と競い、怪我が完治していけば、来年以降、メドベージェフ選手、カチャノフ選手ら以上のブレイクを見せる可能性はあると思います。

NextGen ATP Finalsリストにあるズベレフ、チチパス、シャポバロフ、デミノー、ティアフォー、フィッツ、ルベレフの顔ぶれを見ても同じ国で多くの強豪選手が居るのはカナダのシャポバロフ選手位です。

やはり、同じ国に同年代で世界のトップで戦える強豪選手が3人揃っている意味は大きいのだろうなと改めて思います。