アレックス・デミノー選手
改めて説明する必要もない位、2018年に目立っていたオーストラリアのプロテニスプレイヤー。現在20歳でATPシングルスランキング25位 (2019年5月28日現在)
オーストラリアは、29歳のジョン・ミルマン選手も2018年にTOP100を切りTOP30入り間近まで来ていました。(現在は56位)
トミック、コキナキス等の「ヒューイット以降」の期待選手が軒並み失速し、キリオス選手も伸び悩みやトラブル面が多い等、不安視された同国には明るいニュースです。
オーストラリアはテニス人気が下降気味で、大都市圏すらテニスコートがどんどん減っているそうで、イギリス等と同様、国レベルで育成を考えています。
海外育ちだろうが、海外での育成で自国が一切絡んでいなかろうが「我が国の選手」として旗を振ろうとするどこかの国とは大違いですね。
デミノー選手を始めたのが4歳。5歳の時にオーストラリアからスペインに移住 (母がスペイン人)、 13歳でオーストラリアに戻ったそうです。(英語、スペイン語が堪能でフランス語も話せるとか) 2016年全豪ジュニアダブルスで優勝。
2018年シーズンはATP250大会、ATP500大会でそれぞれ1回ずつ準優勝があり、ATP NextGen Finalsでも準優勝でした。
身長は180cmとツアー上位選手の中では小柄な方です。(同じオーストラリアのヒューイットさんも180cmですね)
身体も細身でいかにも若手という体形の選手に見えます。
デミノー選手の特徴として特に目立つのはそのフットワークの良さです。
ボールを追う姿がすごい
トッププロであれば、我々と違い、ボールを追うたび、ボールを打つたびに身体の軸がグラグラとブレたり、大きく上下動するような事はありません。長時間の試合に耐えられるように身体も鍛えてありますし、なによりバランスよく身体を使い動く感覚を養うトレーニングを日頃から重ねています。
我々との違いは体格や筋力といったあからさまに分かる部分より「身体の機能をうまく使う」訓練を重ねているかだと考えます。よく見る体感トレーニングやヨガのポーズで長い時間キープできるようになる、体のブレが無くなるのは「インナーマッスルが強化された」効果より「元々、その人が持つ筋力やバランスをうまく使う方法が次第に分かってくる」からと考える方が自然です。いきなり出来てしまう人が居るのもそのせいでしょう。
そういった面を踏まえても、試合でのデミノー選手の印象を単純に言えば「足が速いな」といったものです。
全米オープン 3回戦 対ティアフォー選手
前後左右に振られた厳しいボールでも追いついてしまい、返球してきます。
全体的に細身の体形でもあり、ボールの威力等は更なる進化をしていくのでしょうが、この『ボールに追いつく能力』は周りのトッププロを見ても目立つ部分です。
ボールに追いつくには2つの要素がある
相手が意図を持って打った自分から遠い距離まで移動して打たざるを得ないボールに追いつくには、まず2つの要素があると考えます。
1つは予測であり、もう1つは追い始めて打つ位置に到達するまでの時間です。
予測はテニスをやる前提になるもの
まず、テニスにおいて『予測』は常に行動の前提として行うべきものです。
「”次にボールを打つ” 選手の情報を目や耳で捉え、コース、球種、速度を予測。それに対し自分が取るべき行動の準備、気持ちの準備、相手に対するプレッシャーのかけ方等を考え、予め出来る行動、準備をしておく」といったものですが、テニスを教わる際に『予測をする事の重要性と意味』はボールの打ち方ほどは明確には言われないかもしれませんね。
予測しているから準備が出来、打った瞬間、時には相手が打つ前にボールを追いかけ始められます。打ったボールを見てから追い始めるとのでは、ボールを追う(加速する)意識も含めてボール到達までに1秒以上の差が出るかもしれません。(予測した通りにボールが来れば思い切って追えますし、予測と違っても早く反応できます) 相手が打ってきそうなコースを塞ぐ形でプレッシャーをかけたり、ワザと空けてそこに打たせてみたりといった駆け引きの前提にもなります。
ダブルスは2人で攻守するので相手が打つ位置から自コートのライン内に無理なく収まる扇状に広がる角度を2分割したものが “自分が担当すべき範囲” と考えられます。
相手に近づけば担当する角度の広がりは狭まり、離れるほど広がります。その理解に基づけば無理をして打つ必要があるコースは予測コースから除外できます。ボールは前から飛んでくるので頭上を抜かれない限り、空いた後方を気にする必要もありません。
相手は打つたびに場所が違い、同じボールも打ってこないのに、何となくの雁行陣、平行陣での立つ位置に立ったままボールが飛んできてから合わせて反応しようとすればミスをミスで返す、一発エースで決まってしまうようなダブルスっぽくないダブルスになるのは当然です。『ボールの打ち方』と『ゲームのやり方』は別に学ぶ必要があります。前者はボールを打つ事で練習できますが、後者は自分で意識して学ばない限り身につきません。(テニススクールのレッスン内容には様々含まれていますが、ただボールを打っているだけでは身につかない。周りも出来ていないからそんなダブルスが “普通” だと思ってしまいますよね。)
“打つ位置に到達するまでの時間”であり、”足の速さ” ではない
常に次のボールへの予測を行う前提で初めて、ボールを追い始めて打つべき位置に到達するまでの時間が意味を持ってきます。上の予測についての部分で少し触れましたが、ここで「足が速い」と書かないのには理由があります。
シングルスコートで言えば、ベースライン中央からサイドラインまでは4.115mしかありません。ベースラインからネットまでは直線で11.885m、コートの対角線で見ても16.175mだそうです。これだけの短い距離なら50m5秒台の人と8秒台の人が同時に走っても0コンマ数秒の差しか付かないでしょう。
予測をし、心と体の準備し、ボールを追いかければトータルで1秒位の違いが出るかもしれないと書きました。
つまり「単純に “足が速い” だけでは意味がない」という事です。
他の選手に比べてボールに追いつくのが速い、色んなボールに追いついて打ち返してしまう選手を見ると、飛びぬけて身体能力が高い、足が速いグループという訳ではないそうです。
「精度を高めた予測を活かして、短い距離をいかにスムーズに加速し、時間を無駄にせず減速、停止できるか」
そういった視点で考え、トレーニングする事がボールを打ち合う中での “心理的余裕” 、「振られても短いボールを打たれても十分届く」といった自信に繋がるのかなと考えます。
デミノー選手の特徴「バランスが良い」
デミノー選手がボールに追いつける理由を端的に説明するのは私には難しいです。
スポーツ科学は走る事の専門家の方なら色々なポイントを上げられるのでしょうが、私が上げられるのは「こういった要因があるのだろう。その根拠はこういった部分」という考察を上げるのみです。
デミノー選手の特徴を上げると「常に身体のバランスが良い」点です。
ボールを追う際、ボールを打つ際、打った後の次への動き、コート上の全て動きにおいて常に上半身(股関節から上)がブレない印象です。
テニスはポイントが始まり、決まるまで、ボールに対する意識を停止させる事はできません。
ボールの位置変化、コートの範囲、ネットの高さ、相手の位置、打つべき・打つべきでないコースの判断。それらの殆どは目から得られる情報を前提にしています。(音が補助的に使用されます)
また、ストロークやサーブ等は、程度の差はあれ「身体の回転を利用してラケットをスイングする」ため、ラケットを加速させる、スイングする間に体軸や頭の位置がブレてしまうと即スイング軌道のブレが起こります。(回転しているコマの軸が左右にブレたらコマの軌道も不安定にブレますね。)
目から得られる視力情報を使うため、スイング軌道を安定させ最大限エネルギーを発生しやすくするためのどちらにとっても、ポイント中に身体がブレない事は重要なポイントになります。
足で地面を強く踏むという事
ごく単純な言い方をするなら「身体を支える土台となるのは”両足”」です。
地球には重力があり、私たちは直立して立っているだけでも体重の重さ(60kgの方なら60kg)で地面を踏み、同じ強さで地面から押し返されています。(だから”立てる”)
地面を強く踏み、前に進むエネルギーを地面から得る事で我々は歩けるし、走れます。
テニスでも「身体のバランスが云々」という話になりますが、ストロークを打つ際、サーブを打つ際、身体の軸が傾いてしまうのは「両足を使い、地面を強く踏めていないから」という点は大きいのでしょう。
自分の体重に対し、立つ、地面を強く踏み、歩く、走るという事は “皆が出来ている事” なので、筋力が無いから体がブレる、傾くという指摘は的外れかもしれません。前述した体感トレーニングやヨガのポーズの話と同様、身体の使い方を確認すればすぐに解決する問題かもしれないからです。
ストロークを打つ際、サーブを打つ際、「身体の軸が傾いているから直しなさい」と注意される事はあっても「足で地面を強く踏みつけなさい」と言われる事は余り無いかなと思います。
デミノー選手の走り方
デミノー選手がボールを追いかけて走っている様子を見てみましょう。
やや身体が前傾しており、頭が身体よりも前に出たような姿勢です。
体の軸が前傾して状態でボールを追うのでこういう体勢でボールを打っているデミノー選手の写真を良く見ます。
ボールを追うために進行方向に身体を向け、 その方向に前進していく訳ですが、ボール軌道と進行方向が接する付近で停止し、横向きからボール方向、ボールを打つ方向に身体を回転させつつ、”正面向き” でボールを打つのが基本的な打ち方です。
このボールを追う横向きの姿勢のまま打ってしまうデミノー選手のスタイルは「加速した速度を落とさず、ボールに追いつくことを最優先にしたもの」だろうと思いますし、テニスで言う『ランニングショット』は停止して打つよりもボールとの距離感やタイミングを取るのが難しくなるものです。
プロ選手のランニングショットでもボールを打つ前後で若干、歩幅や速度を調整しつつ打つ事が多いのかなと思いますが、一切、減速せずにちゃんと打ってしまうデミノー選手のセンスには驚かされますね。
昔、大きなステップを使いこなしカウンターを打ちまくった選手が居た
1990年代、大きな歩幅のステップを使いこなし、相手が打つボールを走り込みながらカウンター (当時のWOWOW放送では「切り替えし」と表現していた) を打ち、エースを取りまくっていた王者が居ます。
ピート・サンプラスさんです。
サンプラスさんのフットワークの特徴は、デミノー選手にも共通しますが「加速から打ち終わるまで細かい歩幅のステップを使わず、速度を保ったままボールが打てる」という点だと考えます。
一方、デミノー選手との違いで言えば、「広いスタンスから進行方向に身体をスライドさせ、そのまま1歩みから大きなストライドを使って進む」点で、それは現在より打ち合うボール速度が遅かった当時だからこそだったのかもしれません。そのボールか、返球されても追った次のボール位で決められていたので、今ほど「次、次、次」といった細かいストップアンドゴーが必要なかった可能性もあります。ネットプレイが下火になり、互いにベースライン後方で打ち合う所から始まる打ち合いが増えてきた頃です。
最初から大きなストライドを使うということは細かい加速を考慮していないであろうと言えますし、広い歩幅でも前進させられる脚力と股関節周りの柔らかさが必要な気がします。現代なら、サンプラスさんももっと小さいストライドを使って加速していたのかもしれませんね。
走る姿勢から分かること
デミノー選手がボールを追い走っている姿勢は陸上選手等のそれとはだいぶ違い、あまりカッコいい、キレイな姿勢には見えません。
ただ、この「前傾した前のめりに見える走り方に速くボールに到達できる要因が含まれている」と考えます。
サッカー選手と陸上短距離選手における加速の違い
その根拠となるのは『サッカー選手が試合中に見せる、ボールを追い、停止に近い状態から急加速する際等に見られる走り方』です。
サッカーもテニス同様、ストップアンドゴー (停止と急加速) を試合中、数えきれない位に繰り返すスポーツです。
テニスの持久力アップのためには走り続けるより止まる方が大事な件 (テニスフォーラム)
走る速度を上げるポイントとなるのは、
『1歩あたりの歩幅 (ストライド)』
『足を動かす速さ(ピッチ、1秒間に足が何回転するか)』
の2つです。
スプリントコーチ 秋本真吾さんの指導 (トクサンTV)
陸上の100mであれば「出来るだけ早く最高速度まで到達する加速をし、後は歩幅を広げてその速度を持続させる」走り方になります。
100m先まで減速する必要がない訳ですからね。
一方、ストップアンドゴーを繰り返すサッカーやテニスでは「ボールに到達するまでのごく短い距離で最大限の加速を得る。到達した速度が最高速度でなくても加速途中で急停止しなくてはならないし、停止しつつボールを打ち、打ち終わるのと同時に反対方向へ戻る、次のボールを追うための姿勢を取らないといけない」といった違いがあります。
最高速度を出すよりも状況に応じて必要なだけの加速を短い距離で行い、安定的に止まる。それを持続的に継続しつづけられる走り方が求められる訳です。
動画を紹介する事ができないのですが、私が以前に見たTV番組でスポーツ選手の走り方について取り上げた回があり、陸上短距離選手のスタート加速 (力士の加速も近い) に比べてサッカー選手の加速は歩幅が短くピッチ(足の回転)を重視したような加速の仕方でした。
How to run faster | How to get faster at running | How to increase speed for soccer and football
素人ですがサッカーで分かりやすいのは、フリーキックをする際の2~3歩の加速とか、フェイントで抜いた後に相手を置き去りにするような加速とかでしょうか。
ドロップショットが苦手な選手の特徴
テニス選手にはフェデラー選手のようにドロップショットを得意とする選手が居る一方 、ドロップショットへの対処が苦手で試合中に何本も決められまくってしまう選手も居ます。
例えば、ベルディヒ選手や
ズベレフ選手等です。
ズベレフ選手は2018年シーズンにかなり改善された印象ですが、長身、足が長い、サーブやベースラインからの強打が武器といった共通点があり、ボールを追いかける様子は “腰高”に見え、また、“足で地面を強く踏めていない”ように見えます。
なお、このタイプの選手が一様にそうという訳でない点が重要です。
デルポトロ選手等は近いタイプですが大きなストライドを使ってフットワークは素晴らしいですし、ドロップショットにも十分追いつけています。
ラリーの中では「前後左右にボールを追い、停止し、ボールを打ち、戻る」という繋がりを持った動きになるため、単純に “足の速さ” だけでは意味がない事は『予測』の部分でも書いた通りです。
一方、ドロップショットへの対処は純粋に『ボールを追う事』。ドロップショットは相手の予測を外したタイミングで行う事も多いです。その場合、2バウンドするまでにラケットで触れる位置まで到達しないと返球自体できないので「今居る場所からボールの落下地点までいかに早く、短い時間で到達するか」に重きをおいた加速が必要となります。
(※「ドロップショットを追い、ギリギリ拾うような動きが我々に必要か?」という疑念より「デミノー選手のようにボールを追うには?」という点、自分が持つ身体の機能を効果的に使い加速する方法が理解できれば、今より余裕を持ってボールを追え、疲れにくく、スムーズでミスをしづらい効果的なテニスになる可能性がある。それは多くの方に取って無意味ではないでしょう。)
ドロップショットを追う映像を見ると「足は動いているけれど “なかなか” 前に進まない、ボールに追いつけない」選手には以下のような特徴を感じます。
1. 身体が左右に捻じれ、足、膝、股関節が外、内に傾いてしまう。
2.前のめりになり、顔や上半身は前に出ていくけど、足に繋がる “腰” 部分は後方に残ってしまう (お尻が引けたような状態)
プロ選手は我々より身体能力も高くトレーニングも行っているという前提にはなりますが、(比べるのもなんですが) 子供の頃にこういう駆け出し方をする子がいなかったでしょうか?
野球は素人ですが、子供の頃、野球の盗塁というと「姿勢を落として、ガニ股で、膝が外側にはみ出た感じの駆け出し方」な印象でした。
実際には、スタートする際に身体の向きを変えるので多少膝が外側に広がるのはあるのでしょうが、1歩目、2歩目以降の純粋な加速時は “前進するための足を前向きについている” のを利用した走り方になるのだと思います。(昔の盗塁王達だから「その人の個性、センスで速く走る」そういう走り方だったのかもしれません。今ならスポーツ科学に基づいて走り方やフィジカル面を強化させれるはず。)
つまり、
「改めて走る際、駆け出す際の “身体をどう使って力をかけるか” について意識する機会がなければ、こういった駆け出し方をするのは、我々の行う自然な反応、動作なのだろう」
と想像します。
地球には重力があり、地面を押す反力で我々は立ち、走る事ができる
地球には重力があり、体重60kgの人は立っているだけで地面を60kgの強さで押しており、地球から同じ強さで押し返される(反力)事で地面に立てています。(体重150kgの人は150kgで押し返されているから60kgの人と変わらず立てます。身体の骨格や筋力がその重さを支えられるかはまた別の問題です)
ジャンプしたり、強く走ろうとすれば、直立状態における体重の何倍もの力を足を使って地面にかけ、同じだけの反力を地面から得る事で飛ぶ、走るという結果を得られます。
飛ぶ、走る、で地面に影響を与えられるのは “両足における地面との接地点だけ” なので、地面を強く踏むための “筋力” の強さだけでなく、「効率よく、うまく地面を踏む事」が重要なのは想像が付きますね。(強いボールを安定的に打つのも筋力だけでは難しいです。)
サーブやストローク、ラケットの初期加速は「腕の筋力は小さいから体全体を使ってスイングしろ」の話通り、両足で地面を踏んで得られる反力や身体のねじり戻し等のエネルギーを連動させたものです。
「ボールを打つ際は腰を落とせ、姿勢を低くしろ」と言われるのも「地面を強く踏んで反力を得るため、それをラケット加速や身体の安定に使うため」です。(打点と身体の重心位置を合わせる、視点を合わせる等もあります。)
「言われるから腰を落とす」のが目的、「姿勢を下げた状態がただの習慣になっている」方は勿体ないです。本来期待される結果を得るための動作ではない訳ですからね。
直立状態から真上にピョンピョンとジャンプする際、縄跳びで飛ぶ際など、頭から足首まで地面と垂直になるはずです。わざわざ頭を前に傾ける人は居ませんね。また、大きく飛ぼうと身体の軸より膝が前に出てしまったり、お尻が後ろに下がってしまったりしても逆に飛びづらくなるし、ジャンプをくり返す動きには不都合です。
足が速くなるジャンプトレーニング/秋本真吾が実演【つま先力トレーニング】
飛ぶ、走るために必要な力を、地面を踏む・力をかける事で同じ大きさのエネルギーを地面から得たい訳で、そのために効果的な身体の使い方や姿勢なども大まかに決まってくるはずです。人の身体の構造は皆ほぼ共通している訳ですからね。
私は「自分のテニスを上達させるのは自分自身。コーチや周りの人ではない。」と思っています。
「コーチの指導が悪い、スクールが悪いから上達しないのだ」と言ってみても自分が世界的に著名な実績あるコーチに3ヵ月間教われるとして「3ヵ月後の自分は今よりも段違いに上達している」と断言するのは小さなお子さん位でしょう。「上達するとは思うけど、やってみないと分からないな」と思うのは自分でも「上達は自分次第だ」と分かっているからからです。コーチから教わる事、見聞きする情報を理解するにも知識が要ります。
プロからコツを聞けば上達すると考えるのは、向こうからすれば『小学生が大学の授業を受けようとするような事』かもしれませんね。聞いても無難な事しか言ってもらえないのは聞く側の混乱や誤解を避けるためかもしれません。
私は、自分のテニスへの理解を深めるために他スポーツの指導ややり方の説明をよく見ています。
人間が行うスポーツなら走る、飛ぶ、投げる (腕を振る) 等の動きは共通する部分がある。逆に「テニスの指導で言われない事を言っている」ならそれがテニスの理解を深めるきっかけになる可能性もあると考えます。
使う道具の違いで直接的に参考にできなくても身体の使い方の理解を深める情報にはなりますよね。(例えば、バトミントンのラケットは軽いのでテニスで同じようなスイングをすれば故障しそうです。ただ、指導を見るのは有用でしょう。)
そういった視点でもう一度デミノー選手がボールを追う様子を見てみましょう。
踏み出して着地する前側の足の上にきちんと腰の位置があるのを感じますね。腰やお尻が引けた状態にはなっていません。
上半身、下半身共に走る際に捻じれたり傾いたりしておらず、膝、つま先がきちんと進行方向を向いており、”前進する” ためにその方向にまっすぐ踏み出されています。
足の付け根から外側へ足を外に出すような着き方もしていません。付け根からまっすぐ前にという感じです。
前に着き身体を前進させ、逆側の足が前に着く事で後ろ側に残る足もギリギリまで地面に着地して地面を蹴り続けている、「前に足を次々出すだけ」ではないです。
子供の頃、体育の授業で「もも上げ」をやり、足を速く動かせば速く走れると思っていましたが、地面を踏む力の分しか前進のためのエネルギーは得られない(だから砂浜では強く走れない) のでいかに強く、長く地面を踏めるかという事のようです。
陸上短距離王者のウサイン・ボルト選手は「地面を踏んだ後ろ側の足が地面から離れる、引き上げるのが他選手よりも遅い。その分ギリギリまで地面からの反力を得ているのだろう。」と聞きました。
デミノー選手の走り方から学ぶこと
私はコーチや専門家ではないので、試合中のフットワークはこうした方が良いみたいな話はできないのですが、今まで2バウンドまでに追いつかなかった、追う事を諦めていた短いボール、遠いボールに対し、筋力アップを必須としない前向きなアプローチ方法があるのであれば知っていて損はないと思います。(今回の”前に進む”とかけている訳ではないですよ。)
テニススクールのレッスンでも、相手と打ち合う際の短いボールを2バウンドさせてから待って打ったり、大きく移動したくないので無理して追わない、バックハンドのスライスを多用してなんとかしようとする方は多いと思います。
最初に述べましたが、それを理解して使っていく前段、前提となる “予測” の理解と研鑽する事は絶対だろうと思いますし、「自分のテニスを上達させるのは自分自身」ですから「もう初心者じゃないのだから基本なんて十分できている。改めて学ぶようなものではない。」といった (その人なりの小さな) 慢心は捨て、「苦労したくない。自分ならコツさえ聞けば上達できる。苦労せず上達したい。」といったかえって遠回り (永遠にゴールへの筋道が見えてこない) な甘えもしまっておきましょう。
私は「ボールを打つ経験や回数無しに上達するのが難しい」 (素振りだけでは実際のボールに対応できない)ように「テニスについて考える機会無しに上達するのも難しい」と考えています。
「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」ので、インパクトの瞬間、一定方向にエネルギーが加わればボールは飛び、回転がかかります。皆が様々個性的な打ち方でも最低限テニスが出来ているのはこのためです。
トッププロですら打ち方に個性がある中、我々が「その打ち方は間違い。正しい打ち方はこう。」と指摘しあうやり合いは不毛だと考えます。
その人が (唯一ではなくても) “正解”を実行できるのなら恐縮ですが、トッププロ達ですら「少しずつ全員間違えている」理屈になり、そこから「(1つとは限らなくても) テニスにおいて “絶対の正解” はないだろう」という推測が成り立ちます。
(正しいか間違っているはどうでもよく、その人より”上”に立ちたい、マウンティングを取りたいだけなら「ストレートにそう言えば?」と思いますけどね。)
「ボールを追う」際の走り方
少し脱線してしまいました。すいません。
デミノー選手がボールを追う様子を見て、他スポーツにおける『効果的に誰もが速く走れる方法』といった情報を見ていった結果、テニスにおける一部の要件でしかないが、シンプルに「ボールを追う」ために必要となってくる、誰もが実践できる点は以下のようなものかなと考えます。
・足は前進するために “前に” 向けて動く、踏み出すように出来ている。ボールを追い前進するなら、つま先、膝を足の付け根からまっすぐ前に向けて使う。
・身体の重心と言える位置は地面を踏む足の上に置く。それは我々が地面を踏む反力で立ち、飛び、走れるから。端的には足が繋がる腰部であり、重さのある頭部だけが突出して両足のスタンスから外側に出てしまうと簡単にバランスを崩してしまう。(バランスを崩す要因は地面を踏む足で体が支えきれないから)
上で述べたドロップショットへの対応が苦手な選手に見える走り方で分かるように『ボールを追う意識が先行する、気が急いてしまうと上半身だけが前に傾くような状態』になりやすく、足に体重がかけられないので、足を速く動かそうとしても「身体は進んでいかない」状態になると思われる。(それがお尻が引けた、腰が引けた状態にも見える)
それらは人の自然な反応であるから「足の上にしっかりと身体を載せた状態、意識するのが難しければ、身体が直立した状態で上げた足を真下に踏み下ろして “500mlの空き缶” を踏むような練習をしてみる」のも良いかもしれない。
・前進する際に着いた前側の足の上に身体の中心軸を載せ、体重をしっかりかけ、地面を強く踏んで身体 (足が付いている腰)を”強く”前進させていく。足を前に出すだけ、地面を蹴るだけでは意味がなく、走る目的は『身体を前進させる事』である。
陸上短距離の加速後の速度をキープしてく段階ではないので、走り出し時に身体が前傾するのは「加速のために “前”に向けて、足は逆方向へ地面を強く踏む」結果ですが、重心位置や身体の姿勢、膝やつま先など足を踏み出す位置、地面を踏んで身体を強く前進させても、身体の後方でギリギリまで地面を踏み続ける事等を意識してみようと思います。
因みに走る際ラケットは両手で持つか、片手で持つか
なお、「ボールを追う際にラケットを両手で持つべきか、片手で持つべきか」については、移動する距離が長い場合は腕を大きく振るために片手で持つのが良いと思いますし、短い距離でも次に打つショットが足元のボレー等であれば移動を重視して片手で持った状態でという事でよいと思います。
両手で握った状態で走るのは短い距離を移動して『両手打ちバックハンドを打つ』事が確定しているような場合ではないでしょうか。
上の写真のデミノー選手は片手で持った状態でボールを追った後、左手を添えてグリップチェンシし、両手打ちバックハンドで打っていました。
「片手で持ったらラケットの重さが気になるのでは?」という点については、ヘッド側を立てて持てば手への負担は純粋にラケットの重さだけになりますが、ヘッド側が倒れた状態で持てば “てこの原理” で手にラケット自体の重さ以上の負担がかかります。
300gのラケットは標準的な文庫本2冊分位の重さです。
それを片手に持った状態では「全然走れない」という方は少ないでしょう。
女性や年配の方だと重さが嫌でヘッド側をぶらんと下げてしまう事も多いので気を付けたいです。
脱線しますが、よく「ラケットを立てろ。寝かせちゃダメ。」と言われるのは、この手や腕への負担の事もありますが、前腕と手首がまっすぐな自然な状態でラケットを持つと自然とヘッド側は上を向くからです。
ヘッド側が下がるという事は手首が伸びる等、不自然な状態になるという事でボレー等、飛んでくるボールのエネルギーを反発させて飛ばすショットでは面の不安定さ、コントロール性の低下に繋がります。
それが理解できていれば、低いボールもこういう打ち方にはなりませんね。
姿勢を落とすのではなく「手首が自然な状態を保ったまま、腕を下げれば良い」となります。
まとめ
ボールを追う様子が印象的なデミノー選手を見て、その走り方について考えてみましたが、やっぱり、陸上やサッカーなど他スポーツでも共通してくる「人の身体の構造や仕組みから来るその状況に応じた身体の使い方」に沿ったものなのだろうと感じました。
だから、テニス以外の他スポーツの情報も見ていくのに意味が出てきます。
昔ですが、マイケル・チャンコーチが日本で大人気だったのは、日本人に近い体形でビックサーバー達と競うフィジカル面の強さからだったかと思います。当時はTVや紙面の情報が全て、目で見た印象だけでそう思っていた面も強いはずです。
今はインターネットもあり情報も溢れているので「日本人なら錦織選手のテニスをそのまま参考にすべきだ」という人は少ないでしょうが、大柄とも言えないデミノー選手の “見た目” ではなく、その走り方、走るための身体の使い方を見ていく事で、テニススクールでレッスンを受けているような我々レベルでも (ごく一部のパーツではあるものの) 今の状態のまま、自身のテニスの底上げが出来る可能性があると考えます。
「自分のテニスを上達させるのは自分自身」ですからテニスへの理解を深める取り組みは色々行っていきたいです。
「ボールを打つ経験や回数無しに上達するのが難しい」ように「テニスについて考える機会無しに上達するのも難しい」ですからね。