テニススクール、テニス雑誌。インターネットの普及とテニスの情報
私は2009年位からYouTubeでテニス関連動画を見るようになりました。
個人でも組織・企業のチャンネルでも、Webやブログ同様、YouTubeでの発信を継続するにはかなりのパワーが必要です。ちょっと忙しいから明日にしよう、編集が面倒だから少し先にしよう、発案者のコーチが居なくなってチャンネル運営が途絶え放置状態、そんなチャンネルがとても多いです。
昔は雑誌に載る選手の連続写真と解説者の説明が貴重な情報源でした。TVでプロのプレイを見る機会は少なく画質も荒い、今でも日本ではテニスの試合を楽しむという文化は育っていないですからね。「錦織選手・大坂選手の試合だけ見る。他の選手は全く知らない。」ばかりでは大会運営を続けるのは大変です。
個人的にはインターネットが媒体として身近になった事でテニス雑誌が持つ『もうひとつのテニススクール』的役割も終わったと思います。
ゴルフ雑誌同様、同じような内容を捉え方や解説者を変えて一定刊毎のローテで企画を回す。YouTubeに限っても “毎日” 新しい情報が載り、色んなコーチの色んな解説動画が自ら選べ、繰り返し見られます。(ネットを使うのにお金を支払うから『タダ』ではないし、そうやって情報を軽んじるのは発信される方にも失礼かも) 人員や予算の制限もあるのでしょう。テニス雑誌のYouTubeチャンネルを見れば素人の方がマシに見えます。
テニススクールに通っても多くの場合思うように上達しません。成人がテニスを始めるほぼ唯一の選択肢がテニススクールですが、個人的には「自分のテニスを上達させるのは自分自身でコーチや周りの方ではない」と思っています。
自分が上達しないのはスクールが悪い、コーチの教え方が悪いと考えたりもしますが、世界的に著名なコーチに教わったとして上達に差がある、全然上達しない方もやっぱり存在するのは想像できます。自分が教わったとして “必ず目に見える上達ができる自信” は無いだろうし「やってみないと分からない」位ですよね。
スクールを「設備の整ったキレイなコート、何百球もある沢山のボール、コーチを含む自分と同等以上のレベルの打ち合う相手。これらを週のほぼ毎日、朝から夜まで好きな時間で確保できるコートの利用権」と考えれば1回90分程を2,000~2,500円位で確保できる仕組みは素晴らしいですね。
「上達するかは自分のテニスに関する理解が深まるかどうか」です。
初心者の方に教える内容はどのスクールに通っても大体同じ、内容も20年以上前からほぼ変わりません。指導内容がより理解しやすいものになれば各自の理解も深まりやすいのでしょうが、少なくとも「言われるまま、見聞きするままではなく、自分で考えていかなければ自身の理解は深まらない。」と考えます。
「周りの人より考えている。色々調べている。でも上達しない。」と言われる方のテニスが良い悪いは別にどんどん変わっているとは限りません。周りが言う「良くなったねぇ」は “変わった” という事です。多分、それは「考えられてない」のでしょう。技術やセンスではなくやり方や考え方の問題かもしれません。
スクールに通っても上達しないというのはその辺が大きく関わるのだと考えています。
テニスフォーラムさんの動画がかなりスゴい
先日、最近見ているYouTubeのテニス関連動画として、テニスフォーラムさん、窪田テニスさん、TennisHouseFunさんについてブログを書きました。

3つのチャンネル共、その後も発信を続けておられるのですが
『目立って興味を惹かれる内容が発信されているのがテニスフォーラムさん』
なのでもう少し紹介したいと思いました。
先日は、名前をよく存じ上げている竹内映二さんの講習内容をテニスフォーラムさんの動画の例に挙げました。竹内さんは元デ杯監督でナショナルコーチ。以前から良く拝見しているみんなのテニスラボ(みんラボ)チャンネル運営組織の代表もされています。
ただ、他の講習会登壇者(コーチ)の動画も興味深く、編集された短い公開動画を見るだけもかなりインパクトを感じています。
テニスフォーラムさんが発信されている動画の多くは同組織が開催されているテニス指導者向けの研修会で講師の方が参加者に説明されているものです。YouTube動画にある講習会の内容はDVD化され、テニスフォーラムさんのWebでも販売されているそうです。
※DVDは個人向けではないようなので
このDVD、買えるものならとりあえず手に入れたいと思うでしょうが、出版社が販売する市販DVDと違い、初回プレス数のみで増産は行わないそうです。その目的通り、『ご自身がテニス指導者でイベントに参加できずに残念』と思われている方の手に届くのが良いのでしょう。個人的に手に入れても1-2度見て終わり、他に何も発信しないのでは勿体ないですよね。公開されているYouTube動画でもその内容はかなり価値があると感じます。
神谷勝則さんの講習会動画
神谷勝則さんは有名なコーチの方で、雑誌や書籍等でお名前を拝見した事があると思います。ただ、実際に指導されているような動画をきちんと見たのは初めて位かもしれません。
テニスとはどういうゲームなのか?
2本のラケットを操ることで基本を身につける
2本のラケットでストロークを打つ
フォームにとり憑かれずにボレーを練習しよう
テニスのレベル問わず、どなたが見てもその分かりやすさは明確だと思います。
「テニスで用いる身体の使い方は我々が日常生活、過去の運動経験で行えるようになっている基本的動作の応用でしかない」でしょう。全くゼロから学ぶテニス特有の身体の使い方は合ってもごく一部だと考えます。
誰もが等しく同じように体感、実感できる手法を示して「テニスをやるという事、ラケットでボールを打つ事が “特別な何か” ではない」と体感させるのも必要なアプローチ方法だと思います。
その効果の程とは別に、人は「目から鱗」な体験が好きですからね。
この動画がすごい
神谷コーチの講習動画で一番衝撃を受けたのはこの説明です。
【要確認】あなたはラケットの「面」に力があることを意識できていますか?
「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」ので、身体をどのように使ってラケットを振ろうが、ボールとラケットが接触する部分に一定方向に向けて力が伝わればボールは飛びます。
テニススクールを見ても多くの方が個性的な打ち方でボールを打っているのに上手い下手は別に最低限テニスができているのはそのためです。
スクールの指導を見ても「ボールの打ち方」を形として教える事が多いですよね。
テイクバックの形、インパクトの形、フォロースルーの形等々です。初心者への指導は昔から殆ど変わらないし、どのスクールに通っても大差ありません。(だからスクールは指導より “通い易さ” を第一に選ぶのが良いです。第二が設備。)
ボールが飛び回転がかかるエネルギーは大きく、
1)速度を持って飛んでくるボールの持つエネルギーを反発させる
2)ラケットを加速させて持たせたエネルギーをボールに伝える
の2つです。(エネルギーの大きさは『1/2 x 重量 x 速度 ^2 (2乗)』)
時間の無い中、ネットに近い飛ばす距離が必要無いボレーはほぼスイングせずに1をメインで打つショット。自分でトスしたほぼ速度ゼロのボールを打つサーブはほぼ2で打つショット。ストロークは両方のバランスを取りつつ打つといった感じです。
我々は必ずラケットでボールを打つ訳で、ボールを飛ばし回転がかかる力がかかるのはラケット面の接触点の部分です。
テニスでも近年言われる「脱力」。その言葉が出る際、「脱力とは何か? どういう状態が脱力なのか?」が情報として示される事はないです。私も未だに分かりません。
ただ、脱力を英語で「リラックス、リラクゼーション」と言えばそのイメージは一変し、皆が近しい理解ができます。テニスにおける特別な事柄ではなくなります。
ボールのエネルギーをラケット面で反発させる。加速したラケットのエネルギーをボールに伝える。手や腕でラケットを操作しても力が作用する点は手から45cm程上のラケット面の接触部分です。
スクールで「ボレーは身体の前にラケットをセットして当てるだけ」がうまく理解されずコーチが怒る様子を毎週見ています。
出来ている人が昔教わった言葉通りに今度は人に教える。かつて教える側も行ったように “説明を理解するのはその人次第” だから出来ない人は出来ない、出来方も人それぞれという事が起きます。
教える人から教わる人へ、認識のコピーは出来ませんからね。
私は自分の理解を深めるために、考え、情報を探し、その事が説明できる根拠を持って身体の使い方 (打ち方) を構築していきたいです。
これは自分の理解のため、自分側から行う上達へのアプローチという感じです。
一方、スクールで教わる一般的な「打ち方」の説明、形を作らせるような教え方でなくても、神谷コーチの講習のように、皆が等しく同じように実感しやすい手法を考え、体験させる、実感させるのも大切な取り組みだと思います。
こちらはその人の理解のため、説明する側から行う上達へのアプローチですね。
「ラケットのタッチが分からない人はこの動画を見ればOK」みたいな事は言いません。どう考えるかは見られる方次第です。でも、こういった視点の違う情報に触れるのは自身の理解を深めるきっかけにはなりそうですよね。
白戸仁さんの講習会動画
白戸仁さんも有名なコーチの方で、神谷さん同様に雑誌等で度々お名前を拝見した事がある気がします。動画は何かの媒体で拝見した気がするのですがちょっと曖昧です。
テニスフォーラムさんの講習会で登壇された際は、主にジュニア向け指導という観点でお話されたようです。
東京サテライト2016 DVD(講師:白戸仁)ダイジェスト
ジュニア指導を考えるヒント
細かい感覚を養う練習・習慣
回り込んで打つフォアハンド
バックハンドについての考え方
実際に状況を設定しその場で打たせてみて実感させる形で伝えたい事、こういう場合はこう打つのが良い、なぜプロ選手はこういった打ち方を選択するのかといった情報を伝えられています。
「こういう場合はこう打ちなさい」とパターンだけ説明されても聞く側はその事を考えることなく「はい、分かりました」となるだけ、その練習内容に慣れるだけです。
この動画が面白い
再生数の違いが物語っていますが、白戸コーチの動画で興味深かったのはこの動画です。
サーブが苦手な大学女子テニス選手をフォーム矯正しました
前述の神谷コーチの説明は、講習会等で多くの方に説明される事を意識して用意した内容という印象を受けるのに対し、白戸コーチの説明は普段からジュニア等に指導される手法そのままでやろうというスタンスに感じます。
当日会ったばかりでボールを打つ、モデルになる学生さん達にイマイチ指示が伝わらない印象ですが、やろうとされている事は明確で、矯正前後で学生さんのスイングは大きく変わっているのは分かります。
やはり「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象」でしかないので、ラケットとボールが接触するラケット面、ボールとの接触部分で力を加える事。
途中「内転ばかり気にしているから」という話が出てきますが、サーブ練習となれば「サーブはこうやって打つもの」という認識が日常生活で普通に出来ている動作を邪魔します。
「目の前の地面に強く叩きつけるように打つ」のはよく行う練習方法ですし、動画に出てくる「ベースラインから敢えてズラした位置で打たせる」のも“サーブの打ち方”に縛らせない良い手法だと思いました。
私は、ベースラインは適当なまま、鈴木貴男選手のように1歩踏み出しながら打ったり、歩きながら打ってみたりしています。フェデラー選手もサーブ練習の始めの数球、そうやって打つのをよく見ますね。
Roger Federer in Super Slow Motion | Serve
他にも「向こう側のバックフェンスまで届くように打ってみる」といったものもありますね。
いずれも「まず身体を大きく使って(リラックスして)ラケットを振る」事を確認します。
考えないより考えた方が良い。知らないより知っている方が良い。
度々書いていますが、元横浜ベイスターズの仁志敏久さんは内川聖一選手に聞かれ「考えて野球をやれ。自分がやった事を説明できないとダメだ。この場面でこういうボールが来たからこう打った。成功しても失敗しても100%その理由を説明できる事が”考える”事だ」といったアドバイスをされたそうです。
私は「自分のテニスを上達させるのは自分自身。コーチや周りの人達ではない。」と考えているので、テニスにおける “基本” と言われる様々な説明、コーチからのアドバイス、世間で言われるコツの類も “全てひっくるめて”「自分の理解に “落とし込め” なければうまく身につかない」だろうと思っています。
YouTubeで多くのテニス関連動画、他スポーツの関連動画を見ているのは自分の理解を深めるための情報、ボールを打つため身体をどう使うのが良いかの根拠を持ちたいからです。全く同じ事を言っていても、説明者が違ったら、説明するアプローチが違ったらしっくり理解できたりしますよね。
特定のコーチが説明される内容を盲目的に信頼して「通っているスクールのレッスンはダメだ」と言ってみたり、説明される内容をどう理解すべきかに時間を割かず『斜め読み』のような見方だけで批判・拒絶したり。いずれも “かなり” 気持ち悪い。行動が “浅い” です。
情報を探し、それらを知っても、見るまま聞くままでは『理解したような気持ちになっているだけ』でそれまでと同じ事の繰り返しになるかもしれません。うまくいかなかったらまた新しい何かをそのままマネするのでしょうか。
「自分はこうこう、こういう根拠から身体を使いボールを打っている」と言えれるようなら自分のテニスに指標ができ、そこからどう変えていけば良さそうか、調子を崩した際に何が違ってきているか判断も出来ます。あまり考えず毎日何百球もボールを打っても調子が維持出来るとは限らず、調子を崩してから好調時の映像を見るのは “他人の映像” を見てマネするのと同じですね。
「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」し、トッププロを見ても打ち方には違いがあるように「これが正解だ」と断言するのは世界的権威でも難しいです。
前向きで走るのが効率的でスムーズだと分かっていてもその人が後ろ向きで50m走りたい、走るのが良いと思っているなら、怪我をしない範囲でその人に任せれば良いのかもしれません。周りは「後ろ向きで走るなんておかしい」と口を揃えて言うでしょうが、そう言う人達の走り方が100%正しい訳でもありません。50歩100歩な見方にも思えます。
「すでに知っていると思っていることを学ぶことは不可能だ」とはギリシャの哲学者エピクテトスの言葉。「周りを見ても自分のテニスはそれなりに上手い」「あの人より自分の方が上手い」「初心者じゃないんだ。基本なんて十分出来ている」「コツさえ掴めばもっとうまくなるはずだ」とか思ったりします。後ろ向きで走る事を試す人の方が “前進” しているのかもしれません。
今思っているより「自分で良いと思う情報や根拠」を新しく知る機会があったら、正しい・間違いではなく “自分の上達のために” その人が情報を役立てれば良いだけ。試してみて違うと思ったらそれを糧に修正すれば良く、それが改善という事かなと思います。
強くなりたいなら「考えないより考えた方が良い。知らないより知っていた方が良い。」は野村克也さんが監督時代に選手に言われた事です。
自分の上達のため自分で考えるなら、テニスに限らず広い視野で出来るだけ色んな事を知る方が良いでしょうし、今の時点で言えば、YouTubeはかなり有用な情報源であるのは間違いないだろうと思います。
くり返しになりますが「自分の上達のため自分で自分のテニスについて考える事が大切」です。それまでと同じ『見るまま聞くまま』で上達できないのなら尚更です。