- 男子テニスで片手打ちバックハンドの選手が目立ってきた
- デニス・シャポバロフ選手
- シャポバロフ選手の片手打ちバックハンド
- バックハンド、および片手バックハンドについて少し整理する
- 片手バックハンドは打点を前に取れと言われるが…
- ラケット速度、スピンを考慮し、軸は後方に残す
- 強くボールを捉えてまっすぐ飛ばす、回転をかけるための腕とラケットの角度
- 片手打ちバックハンドでに適したグリップの厚さ
- 手の甲で打つイメージなのか、手の平でキャッチするイメージなのか?
- 因みに「遠心力」でボールは飛ばせない。なぜなら”存在しない”から。
- 姿勢は低く地面を強く踏め、打点を体に近くスピンもかけやすくなる
- シャポバロフ選手の片手打ちバックハンド
- 片手打ちバックハンドを”かっこよく”打つには
男子テニスで片手打ちバックハンドの選手が目立ってきた
2013年位までは男子プロテニスでも「片手打ちバックハンドは絶滅危惧種」という雰囲気でした。フェデラー選手は代表格でしたが、他はガスケ選手、ハース選手、コールシュラーバー選手、ロブレド選手とベテラン揃い。2014年にワウリンカ選手とディミトロフ選手がブレークしましたが「片手打ちバックハンドなんて…」という感じは変わりませんでした。
ところがこの2年位で片手打ちバックハンドの選手が目につくようになり、むしろ両手打ちバックハンドの選手よりも日々目立つポジションに位置するようになりました。
テニスは世界的なスポーツなのでジュニアでも片手打ちバックの選手も一定割合はずっと居たはず。多分、日本のように”片手打ちなんてやめておけ”と指導されないでしょうが、新しい選手も含めてその活躍にプロの世界でもまた我々素人の意識的にも「片手打ちでも十分行けるのでは?」という感じに少しですが変わってきた気がします。
デニス・シャポバロフ選手
最近活躍する片手打ちバックハンドの選手の中で特に印象強く、目立つ一人がカナダのデニス・シャポバロフ選手ですね。
私が最初にシャポバロフ選手を見たのは2017年のデビスカップ、対イギリス戦、不用意に打ったボールが審判を直撃し、失格になってしまったニュースを見た時でした。
デビスカップでの事故の模様
その後の活躍を見た時、審判にボールを当てた若手だと気づかなかったのですが、最近はたびたびニュースでも取り上げられる選手になりました。
シャポバロフ選手の片手打ちバックハンド
私がシャポバロフ選手の片手打ちバックハンドで好きな点は
「打点を近く取っている」
と思う所です。
ただし、これは
“物理的に打点が体に近いか遠いか”
という見方とは少し違います。
望ましいと思うインパクト姿勢
個人的には『片手打ちバックハンドは下の図のような姿勢を”基本”としてボールを捉えたい』です。
3Dモデル作成が未熟でイメージしづらくてすいません。
一般に教わる片手打ちバックハンドの打ち方とはイメージが違うでしょうが、言葉で言うと
「体の軸が軸足である後ろ足の上にしっかりと残っていて、腰高でなく、軸や頭を傾けることなく、ラケットとボールのインパクトをラケット面を通して後方から見ることができている感じ」
です。
動画や静止画等を見ると、フェデラー選手もシャポバロフ選手もこういう捉え方を基本としている気がします。
今回は片手打ちバックハンドについて少し書いてみようと思います。
ただし、“シャポバロフ選手の打ち方に関する感想” が主題ですからそれを説明する都合で必要な点をかいつまんでです。
(その辺りも含め、片手打ちバックハンドについては後日書いてみようと思います。)
バックハンド、および片手バックハンドについて少し整理する
フォアハンドとバックハンドの違い、そして片手打ちバックハンドについて少し整理しておきましょう。
スイングの支点
片手打ちバックハンドにおける主たる”スイングの支点”は『利き腕の肩』です。
片手打ちバックハンドでは主に肩から先の腕の機能を使ってボールを打ちます。
フォアハンドのように積極的に身体を回転させて打つことはしないです。
フォアハンドを打つ際は、
テイバックにおいて利き腕の肩が体の後方にあるので”体を回転させてそれを体の前側に移動させる必要がある”
と考えます。
一方のバックハンドは、
テイバックからインパクト前後まで利き腕の肩が体の前方にあります。
その肩を支点にスイングする片手打ちバックハンドでは
フォアハンドのように『積極的に体を回転させる事でスイングする』理由がない
ということになります。
横向きを保つ
片手打ちバックハンドで「横向きを保て」と言われます。
これは
スイング中に体を回転させてしまうと”スイングの軸となる利き腕肩の位置”が動いてしまうからです。
(一般的に言われる”肩が開く”といった状態)
体を回転させると
“体の中心軸”と”利き腕の肩”の2点がスイング時に可動する
ようになり、腕の動きが複雑化、結果、
スイング軌道が安定しづらくなる、再現性が低くなる可能性がある
のです。
横向きを保って利き腕肩の位置を変えないようにして打つことで安定してボールを捉えることに繋がる
ので「横向きを保て」と言われる訳です。
※一種の “矯正方法” なので「横向きを保つ」だけで、身体が開かなくなる、良いスイングが出来るようになる訳ではありません。
腕の曲げ伸ばしだけでは加速が不十分
横向きを保った状態でも
“単純な腕の曲げ伸ばし動作” によるスイングで、ボールを飛ばし回転をかけるために必要なラケットの運動エネルギーを十分得ることは難しい
です。
初心者の方は、下図のように
“打点の位置から両腕を広げる、伸ばすようにして”
ボールを飛ばそうとしますが、ネットを越すのが精一杯、相手コートの深い位置まで飛ばすのは容易ではないはずです。
我々がスイングを行う主たる目的は「ボールを遠くまで飛ばすため」です。
ボールが飛び回転がかかるエネルギーは大きく分けて、
1) 速度を持って飛んでくるボールが持つエネルギーを反発させる。
2)自ら加速させたラケットの持つエネルギーをボールに伝える。
の2つ。
物体が持つ運動エネルギー量は『1/2 x 重量 x 速度 ^2 (2乗)』で表わせるので、スイングにより速度を得たラケット も速度を持って飛んでくるボール も、
その重量と速度に応じた運動エネルギー量を持っています。
・時間の無い中、飛ばす距離も短いボレーは1メインのショット。
・自ら上げたほぼ速度ゼロのボールを打つサーブは2メインのショット。
・ストロークとは、打つ場所と状況により1と2のバランスを取って打つショット。
という理解、使い分けになります。
これらを前提として理解しておく必要性は高いです。なぜなら、多分、テニススクールで「ボールの打ち方」を習う際には説明されないからです。
運動エネルギーは『インパクト前後におけるラケット速度』でその大きさが決まります。
“スイングの大きさ”ではないです。
身体から離れた位置をラケットが動く大きなスイングは加速に大きなエネルギーと加速時間を要します。
うまく身体を使いラケットを加速させられない段階でラケットを大きく動かそうとすれば振り遅れる、タイミングが合わない、強く打てない、思うように当てられないとなるのは当然
でしょう。
(ただ、身体の仕組みや機能を使ってラケットを加速させる訓練は行うべきです。小さいスイング = 小さいエネルギーとなる可能性があります。繰り返しますが必要なのはスイングの大きさではなくインパクト前後のラケット速度ですから。)
そしてラケットの速度で言えば『テイバックでは速度ゼロ』です。
片手打ちバックハンドにおいて曲げた腕の関節を伸ばしていくだけでは十分なラケット加速は得られません。
横向きの状態から”軽く上半身を捻って下半身との捻転差を発生”させ、足で地面を踏む反力と組み合わせて、その捻りを戻す動作で、下半身からの力を上半身と連動させ、腕の曲げ伸ばしをきっかけにラケットを加速させる
工夫が必要だと考えます。
体の捻り戻しにより腕と下半身の力を連動させることができるようになるのはフォアハンドも同様ですが、片手打ちバックハンドでは
この 足で地面を踏んで得られる反力と”体の捻り戻し”を連動させ、利き腕肩の位置を前方に戻す距離をラケットの初期加速に利用している
と考えます。
単純に言うとこういう動きです。
我々は「手や腕を動かしてラケットを振っている」と考えますが、
慣性の法則でスイング開始位置に留まろうとするラケットに引っ張られ、遅れて加速を始めたラケットが速度を増し、腕や身体の位置を追い越して前方に出てくるまで “手や腕は殆ど” 動かせていない
と思います。
身体の回転により利き腕肩の位置が前に動いていく。腕を大きく動かせなくても、腕が付いている肩の位置が前に動く事で手やラケットも前方に移動する。
それがラケットの初期加速時に起こっている事象の一つでしょう。
因みにテニスでは「打点においてラケット面でボールを押す」イメージでと言われますが、0.003~0.005秒程と言われるインパクト時間は人の反応速度(0.2秒とか)を越えているし、加速により体の回転や腕の動きよりも速度が増したラケットを”物理的に押す”のは無理です。
100km/hを越える速度で進むラケットはインパクトの0.004秒程の間に(ボールとラケットは接触し離れるまで)約13cmも”接触したまま”前進している計算です。0.004秒を人が把握できないことを考慮すると幅を持たせたインパクト前後含む30cmとか、ラケット面はボールを飛ばしたい方向に向け続ける方が安全なので、それをイメージとして「押す」と言っているのだと想像します。
指導で言われるまま「押そう」と考えると、インパクト前後に意識が集中してしまい、本質的に必要な”インパクト時にラケットは何キロか?”、テイクバックからの”引き”による急激なラケット加速が満足にできないと思います。
片手バックハンドは打点を前に取れと言われるが…
片手バックハンドを教わる際に「打点は前に取れ」と言われます。
理由としては「打点が近くなると打点で力が入りにくく、ボールに喰い込まれるから」といった所でしょうか。
実際の打点は、”空中の一点”ではないということ
前述したようにインパクト時間(0.003~0.005秒)の間に、ラケットとボールは接触し、ボールが潰れ、ボールが多少復元しながらラケットから離れるという段階を踏みますが、その中でラケットとボールを接触した状態のまま約13cmも前進している計算になります。
『空中のある一点』かのように”打点”を確認させられますが、実際は
『スイング中、ラケットは約13cmの幅でボールを捉えている』
と考える方が現実に則しています。
当然
「打点を前に取れ」の”打点”は、0.004秒の始まり、「ここから約13cmの幅でボールにエネルギーを伝えるのだ」という地点である
と考える方が妥当な気がしています。
(そこから13cm前進すると考える方が13cm進みボールが離れる地点と考えるよりイメージに合うのではないでしょうか?)
サーブのインパクトを撮影したスロー動画です。
計算通り13cmとは行きませんが、ある程度の距離をボールとラケットが接触状態で前進しているのは確認できると思います。ラケットと当たった瞬間、空中の一点である打点からいきなりボールが飛び出していく訳ではないですよね。
我々が教わる、イメージする片手バックハンドの打点位置は、
利き腕肩の位置よりもだいぶ前、腕をネット方向に伸ばして腕と脇の間が空いたような状態
じゃないでしょうか?
この位置から13cm、ボールとラケットは接触した状態で進むのはちょっとイメージが湧きません。
繰り返しますがインパクトに向けラケットを加速させるのは
足で地面を踏んで得られる反力と身体の捻り戻し等を組み合わて得られる力
です。
これらの力はラケットの初期加速時にほぼ消費されてしまいます。
遅れて加速したラケットが身体や腕の位置を追い越す前後では、初期加速で活躍したこれらの力の供給は終わっており、新しく追加される力は身体の回転位でかなり少なくなっているでしょう。
慣性の法則でラケットはその直進運動をし続けようとしますが、加速のためのエネルギー供給は終わっているので、
初期加速位置から距離が長くなればなるほど、そしてラケットが腕や身体を追い越して以降は急激に『速度低下の要素が拡大』していく
でしょう。
つまり、
片手打ちバックハンドが両手打ちバックハンドよりも優れている点である
『振り抜きの速さ』『ラケット速度の速さ』
そして
『ラケットとボールは接触した位置から13cm、接触状態のまま前進していく』
ということを考えれば、
我々が「打点を前に取れ」と教わる位置よりも “もっと体に近い位置で” ボールを捉えるべきでは?
その位置からボールとラケットは10cm以上、“接触状態” で前進していく。その始まりの位置なのだと認識すべきでは?
と思うのです。
(この話を聞いた上で「いや、自分のイメージはボールが離れる位置だ」という方はそれ前提の理解を探されれば良いと思います。)
体の軸が両脚の中心にあると『利き手の動き』に影響を受ける
片手打ちバックハンドでは横向きを保つべき、利き腕肩の位置がズレる原因となる体の回転を接触的に行う理由がないと言えるのですが、
この図のように
『体の中心軸が両脚の間にある』状態
で
『棒立ち』な印象の姿勢・体勢
だと
地面を強く踏めず、地面を踏んで得られる “反力” と “身体の捻り戻し” の力をラケットの初期加速、腕をしっかり振っていく事に繋げられない
のです。要は「ラケットを速く振れない」という事です。
片手打ちバックハンドを習い始めた初心者の方はこのような状態でスイングしようとし、ボールを飛ばせないのは前述の通りです。
我々がスイングを行う主たる目的は「ボールを遠くまで飛ばすため」であり、ボールの持つエネルギーを反発させる、ラケットでエネルギーを加える事でボールは遠くまで飛ぶ、その速度も上がります。
ボールと手に持つラケットの重量は固定ですから “速度が速いほど” エネルギー量は増えます。
両手打ちバックハンドと比べての片手打ちバックハンドの利点の一つは
「スイング速度が高めやすい。速く振れる事」
なので
「ラケットを速く振れない姿勢・体勢で打っている」
時点で望ましい打ち方に至っていないと言えます。
体の捻り戻しは『上半身と下半身の捻転差』を生み出し、その捻転差が腕を振る上半身と地面を踏み反作用の力を得る足の力の連動を起こします。
これはフォアもサーブも同じ。「横向きのまま打つ」「正面を向いたまま打つ」のでは “腕の力で振ること” しかできません。
野球のピッチャーを見ればそういった事を感じます。
片手打ちバックハンドで
「胸を開く、両腕を開くようにしてフォロースルーにおける左右のバランスを取れ!!」
と言われるのは、単純に利き手側だけ300g重量が増え、ラケットに働く慣性の法則と自身もラケットを持つ手を振ろう、動かそうとする事で左右のバランスが崩れてしまう。結果、身体が回転したり、肩が開いたりといった事が起きやすくなるからでしょう。
でも、やってみれば分かりますが、
「インパクトからフォロースルーにかけて両腕を開く、肩甲骨を開くようにして打ってもうまく打てない事の方が多い」
と思います。
これはあくまで「矯正」しているだけ、本来適当とされるスイングとは異なるあからです。
私が、このアドバイスがされる際に決定的に抜けていると思っている点は、
両足や下半身を使う事に振れていない事
です。
フォアハンドストロークでもバックハンドストロークでも、サーブでも、ボレーでも、
「スイングしようとする際のスタンス幅が広くない、”棒立ち” な印象でボールを打っている方は非常に多い」
ですね。
「身体の重心は腰に近い位置 (へそとか丹田とか) にある」と言われますし、皆、それまでの経験でその実感があり、「腰を落とす」といった姿勢を取ろうとするのでしょう。
グリップの厚さによっても違いますが、
腰付近の高さで打つより、肩より上の高さで打つ方が「力がかけにくい」と感じるのは、重心位置である腰から打点の位置が離れているから
です。
ボールを飛ばし回転をかけるエネルギーの内、ラケットが伝わるものの大きさを決めるのはインパクト前後のラケット速度です。(そこから伝達ロスが大小生じる)
ラケットの初期加速を生むのは、両足で地面を踏み得られる反力と身体の力を連動させたものです。
これからボールを打とうとという人が、腰高で重心位置が高い、地面を強く踏めそうもない姿勢・体勢を取っていたら、強く振ろうとする意識、腕の動きに影響され、上半身がグラつく、傾いたり、回ったりするのはある意味当然の結果
だと私は考えます。
「両腕を開くようにしてバランスを取る」というアドバイスに合わせて、体勢や両足の使い方等を情報として伝え、理解させた上で打ち方を導入すべき
だと思います。
ラケット速度、スピンを考慮し、軸は後方に残す
片手打ちバックハンドの「利き腕一本でラケットを振る」という特性から、捻転差を設けて足の力も使い、テイクバックの速度ゼロから急激に利き腕の引きでインパクトまで加速させる初期加速を行う。
そのためには、腰高な姿勢で、左右均等な身体の中心に重心位置があるより、
重心位置を下げ、軸足である後ろ側の足の方に重心が残っている方が望ましいのではないか?
それが最初に上げたインパクトの状態です。
常にこういった状態で打てる訳ではないです。
どちらかと言えば、
バウンドしたボールが接近してくる、落下してくるのを待ちかまえて打つ
或いは、
バウンドの上がりばなを捉えて打つ
そういった状況向きの打ち方かもしれません。
ただ、フォアハンドストロークを考えてもそういった状況で打つ打ち方を皆「基本の打ち方」としていると思います。
肩くらいの高い打点で打つなら姿勢を少し高くなりますし、リターンやアプローチショットのように前側の足側に重心を乗せて打つ事も当然あります。
「ボールが飛び回転がかかるのは物理現象でしかない」ですから、ラケット面を通して一定方向にエネルギーが加える、反発さればボールは飛んでいきます。
重要なのは「インパクト前後におけるラケット面の状態」であり、打つ形ではないです。
我々が教わる「ストロークの打ち方」は確率が保てる打ち方の一例に過ぎず、「一回一回条件が変わる全てのボールをその1つの打ち方でまかなってしまおう」というのは流石に無理があります。
※スピンやスライス、トリックショット的な打ち方。色んな打ち方をしてそれを自慢する方も居ますが、それは “器用貧乏” であり、自分が取る選択肢の確率を高く保つ、ミスをしない事が重要なテニスの本質といった部分とは関係ないです。
ここで言いたいのは「基本と応用」といった事。
球出しのボールを打つ練習、クロスの長い距離でラリー練習位はこういった打ち方を基本としてできるようになりたいでしょうか。
片手打ちバックハンドを長年練習しているけどなかなかうまく打てるようにならないという方なら「大きく変えてみる」意味はあります。「良くなったね」も「悪くなった」も目に見えて分かる変化が生じているという事。自分だけ変わったつもりでも全然変わって見えないという事は往々にしてあります。
強くボールを捉えてまっすぐ飛ばす、回転をかけるための腕とラケットの角度
以上が体と軸、片手で振るラケット加速に関する話ですが、もう1つ重要な事があります。
選手達の写真を見て感じられますが「前腕とラケットの角度」です。
ガットの縦糸、横糸とボールの飛びやスピンとの関係性
ラケットには縦横に90度で交差するようガット(ストリングス)が張ってあります。
稀にガットを張る角度が異なる仕様のラケットもありますが、基本はラケットの中心線に沿って縦糸、90度交差する形で横糸です。
ラケット面がフライパンのような平たい板面では無い事で
ボールとラケットが当たった際のガットのたわみやズレがボールの飛びや回転に関係している
という点は言えそうです。
かつてWilson社は
「ボールに当たった際、ガットがズレて、それが戻る際に回転がかかる」
と言っていました(16×15等の粗いパターンのラケット、スピンエフェクトテクノロジー) が、
私は
「ボールが離れるまでラケットやガットはしなりっぱなし、ゆがみっぱなし、たわみっぱなし。押される負荷が減るから戻るだけ。スイングの力に比べ復元する力は弱く、復元する時間もボールの飛びに間に合わない。加えて、しなるラケットはしなる・たわむでエネルギーの伝達ロスが大きいから”飛ばない”。しならないラケットは伝達ロスが小さいから”飛ぶ”という理屈。」
という観点から、
「ボールの負荷でボールの一方に偏ってガットが集まる、力がかかる事が、全体に均等に力を加えるのとは違う力の不均衡を生み、それがスイング軌道と相まって回転の発生に影響を与える」
と考えています。
例えば、我々が「地面と垂直方向の “キレイな” トップスピンのかかったボールを打ちたい」なら、
インパクト前後において、ラケットの中心線と縦ガットが地面と水平方向の角度、縦ガットが地面と垂直方向の角度、ラケットのスイング軌道が地面と垂直方向に動く時、縦ガットが最大限可動しスピンに貢献し、横ガットはボールの曲がりを抑制してまっすぐ飛ばしてくれる
条件が揃うと考えます。
これが下図のような状態でしょう。
実際はボールの外側からラケット面を入れてショートクロス方向に打ちやすくしたり、逆クロス方向にシュート気味に打つためボールの内側(身体側)からラケット面を当てて打ったりもします。
また、片手打ちバックハンドでは難しいですが、フォアハンドにおけるワイパースイングのようにヘッド側を下げた状態から、グリップ側を軸にヘッド側を引き上げるようにして回転をかける場合もあります。
でも、いずれの場合も「ボールの飛び・回転」と「スイング方向とガットの縦糸・横糸関係性」は常に関係してきます。それはトップスピンだろうが、スライスだろうが、サーブ・ボレー・ストローク、全てに共通するものです。
片手打ちバックハンドでも、腕とラケットが一直線になり、ヘッド側が斜め下に下がったような状態では、しっかりスイングする事も、インパクト面を強く保ちコントロールすることも、遠くまで飛ばす事も、回転をかけることも難しいと思うのです。
やはり、地面をしっかり踏める姿勢・体勢、身体の力を使い、インパクト面を強く保つため、飛びや回転をしっかり発生させるためには前腕とラケットの角度が必要だと考えます。(ただし「そういう状態で打つには?」と考えるものでスイングの中で矯正するものではないですよ)
ガスケ選手の片手打ちバックハンド
スローで見るとよく分かりますね。
片手打ちバックハンドでに適したグリップの厚さ
片手打ちバックハンドを打つ際、基本となるのは、イースタン ~ セミウエスタンと呼ばれる範囲のグリップになると思います。
フォアハンドと違い
「ウエスタングリップ等の厚いグリップで打つ方がボールに威力が出る、回転がかかる」とは言いづらい
と考えています。
『フォアハンドとバックハンドの違い』は準備段階からインパクトまでの利き腕肩の位置の変化に現れています。
何かしらの方法で横向きを取る事で利き腕肩の位置が身体の後方に下がり、何かしらの方法で身体を回転させて利き腕肩の位置をインパクトでボールのエネルギーを支えやすい体勢、身体の前側も戻す“距離”をラケットの初期加速に利用するフォアハンドストローク
に対し、
準備段階となる横向きからインパクトまで利き腕肩の位置が身体の前側にあり変わらないバックハンド
という違いがあります。(利き腕だけで打つ片手打ちバックハンドなら尚更です。)
やり方は様々でも、フォアハンドストロークにおいてトップスピンをかける要素となる「ワイパースイング」と呼ばれる一連の動作
腕の各関節(指・手首・肘・肩)は身体の外側から内側により柔軟に曲がる仕組みになっており、外側に大きく曲がるのは手首と肩位。これがフォア側とバック側の打ち方に影響を与えています。
フォアハンドにおけるワイパースイング的な動作を片手打ちバックハンドで安定的に行うのは困難です。
なお、打ち方として「間違い」といった事ではないです。ネット近くの低い位置からショートクロス等の場合に使えたりします。
ただ、これを
「片手打ちバックハンドでトップスピンをかけるコツ」のように言う、考えてしまうのは適当ではない
と強く思います。基本のストロークでこれをやると怪我をしそうです。
では、どうやって片手打ちバックハンドでトップスピンをかけるのかというと、ここまで書いてきた
「ラケットの縦ガットがボールにひっかかる事が回転に影響する」
「その角度を実現するためのラケットと前腕の角度を作れる、維持できる身体の使い方」
の2つだと思います。
フォアハンドでもバックハンドでも
グリップが厚くなれば打点が身体から離れて前方向に移動していき、高いボールが打ちやすくなる。
グリップが薄くなれば打点は身体に近づき、低いボールを打ちやすくなる。
という特性があります。
前述したように片手打ちバックハンドで『ワイパースイング』的なスピンのかけ方は適当でないので、ウエスタングリップ等の厚いグリップで打点を “前” に取っても
「ボールを後ろから押し支えるだけのインパクト」
といった印象になります。
片手打ちバックハンドで「打点を前に取れ、ラケット面の手前側から当たるボールを見るようにしろ」と言われるのは、
「ラケット面を後ろから押し支えるようにしないとボールの威力に打ち負けるから」
といった発想だと思いますが、
むしろ、イースタン~セミウエスタン位の厚くないグリップで打点を身体の近い位置で取り、足で地面を強く踏み身体の力を使ったラケットの初期加速が十分残っている状態で、”前” 向け加速しつつ、自然と下から上にラケットが持ち上がっていく身体の使い方、打ち方をする
といった発想があって良いと考えます。
薄めのグリップで握れば「ラケットを上から握る」ような状態になり、厚いグリップで握れば「ラケットを後ろから握る」ような状態になりますね。
フォアハンドにおける「ワイパースイング」的動き使えない中、どちらがボールを持ち上げやすいかは明らかだと思います。
先に述べた
「ガットの縦糸・横糸がボールの飛びや回転に関係する。インパクトでスピンがかかりやすいボールとラケットが当たる角度、スイング軌道とその角度を作る腕とラケットの関係性、身体の使い方」
も片手打ちバックハンドにおけるボールを強く飛ばすための大きなエネルギーを瞬間的に発生させる、強い回転を生み出す事に繋がってきます。
それがプロ選手の片手打ちバックハンドに見る「前腕とラケットの角度」に出ていると考えます。
手の甲で打つイメージなのか、手の平でキャッチするイメージなのか?
因みに、片手打ちバックハンドを練習中の方に
「ラケットを持たずに片手打ちバックハンドのインパクトの形を作ってみて」
とお願いするとこういった体勢を取ると思います。
「手の甲側でボールに当てる」ようなイメージでしょうか。
でも、手の甲側でボールを捉えるイメージは『バックハンドスライス』が近いと思うのです。
コンチネンタルグリップで片手打ちバックハンドのトップスピンを打つ訳ではないですよね。(片手打ちバックハンドでも高い位置のリターン等はこのイメージでも分かります。)
両足で地面を強く踏み、身体の力でボールを飛ばすために “前” へのエネルギーを踏み出す、同時にラケットを下から上に持ち上げるのに適した体勢はこういうものだと思うのです。
少し極端にしていますが、野球の内野手が逆シングルでボールを取るような体勢。
手の甲側にボールを当てるのではなく、腕を捻って『手の平』でボールを掴む
イメージです。
身体の重心位置も踏み込み足側(右利きなら左足)に乗ってしまうでもなく、両足の中央にあるのでもなく、
しっかり踏み込みつつ、軸足(右利きなら)側に重心が残っている
状態です。
『重心位置が身体の前側、踏み込み足側にある状態』と『身体の後方に残っている状態』を考えればどちらがトップスピンをかけるのに有効か、ラケットの初期加速に近い段階で打てるかは明らかでしょう。
プロ選手の片手打ちバックハンドを見てもそういう体勢でラケットを加速させているように見えます。
繰り返しになりますが踏み込み足側に重心位置を乗せて打つのは高い打点をリターンする際等に使います。スピンというより高いボールを抑えるような打ち方。ボールのエネルギーを押し支えるので重心位置が身体の前側にある方が都合が良いのです。
※あくまで基本部分、土台となる身体の使い方の話です。「こうしなくちゃ打てない」みたいは発想は上達の邪魔をします。逆に「考える事をしないでなんとなくイメージだけであれこれやってみる」みたいなやり方も上達しづらいですけどね。
因みに「遠心力」でボールは飛ばせない。なぜなら”存在しない”から。
よく「遠心力で打つ」などと言いますが、物理の話では「遠心力」という力は存在しないそうです。
直進しようとする力を手で引き寄せ、その進む方向を曲げ続ける。結果、それが「円軌道」になる。引き寄せる手の力と直進する力の方向性のズレが、手の引き寄せる力と反対方向に引張る力として感じさせる。それが「遠心力」だそうです。
「物理的に存在しない力でボールを飛ばす」と言うのですから「遠心力で打つ」と言われている元を含むスポーツ選手の方は『物理的にボールに働く力、エネルギーの事を理解せず、イメージの話を実際の話として言われている』のだと思います。それを知らない我々も当然「遠心力で飛ばす」と思ってしまいます。(実際の作用を説明した上で「イメージとして」と言われるなら分かるのですがそうではないでしょう)
我々がスイングする、ラケットを進める方向はボールにエネルギー加えたい方向である “前” 方向です。(スイング方向にボールを飛ばすとは限りませんが、エネルギーが加わる方向にボールは飛んでいきます)
慣性の法則で加速させたラケットも勝手にその方向に “直進” して行こうとします。
その方向と90度近いズレがある、スイングする力、ラケットが前進しようとする力より圧倒的に弱いであろう遠心力がボールの飛びに大きな影響を与えるはずもないです。
ラケットを強く加速させれば、それを引く手の力も強くなり、感じられる遠心力も強くなります。
「足や身体の力を連動させてしっかりと使い、腕がリラックスした状態で、ラケットを強く加速させれば自然と強い遠心力を感じられるスイングになる」といった事を述べているに過ぎないと考えます。
同時にゴルフ等と違い、テニスのスイングは一定ではありません。
回転をかけたり、スイング半径の小さい打ち方をしたり、こねるように回転をかけたり様々であるため、常に遠心力が感じられるようなスイングを行う訳でもない点も注意したいです。
姿勢は低く地面を強く踏め、打点を体に近くスピンもかけやすくなる
テイクバックからインパクトまで、体の軸が軸足(後ろ側の)側に残っており、前腕とラケットとの角度がきちんと保たれていれば、片手打ちバックハンドの打点 (前述の通りラケット面がボールに触れ、ここから10cm以上前進し始める位置) は自然と”少し手前”に取れます。
地面を踏む足の力が使え、身体の軽い捻り戻し等と連動させることで、テイクバックからの腕の引きと合わせて十分ラケットを加速させられます。
結果、この”少し手前”の打点でも打ちづらい、ボールに喰い込まれるという感覚はありません。前腕のラケットの角度差で十分ボールを支えられる形が出来ていますからね。
打点が体に近い、スイング軌道から言えば地面に近い低い位置でボールが捉えられ、下から上に自然とフォロースルーを取れる形ですから自然とトップスピンもかけやすい、スイングを大きく取れるので加速してきたラケットの速度を邪魔しないフォロースルーが取れると思います。
『フェデラー選手やディミトロフ選手がこんな大きく上にラケットを跳ね上げるようなフォロースルーが取れるのは”腕をこういう風に振ろう”と思っているからではなく、そうなるようにスイングしているからだ』と考える方が自然だと思いますよね。
シャポバロフ選手の片手打ちバックハンド
ようやく主題の話に戻りますが、シャポバロフ選手の片手打ちバックハンドの打ち方はこれまで述べたような点を踏まえているように感じます。
シャポバロフ選手の練習動画
それは、
・テイクバックからスイングまで体の軸が軸足側に残っている
・前腕とラケットの角度もしっかり保たれた形でインパクトできる
・(軸足が後に残っているので)体が回転しづらくスイングの軸である利き腕肩の位置がブレにくい
・(軸足が後に残っているので)体の前にある打点までしっかりラケット速度を高めていける
・(軸足が後に残っており)前腕とラケットの角度があるので打点を少し手前に取れ、ラケット速度と腕の捻りで打点位置から上にラケットを跳ね上げやすく自然とスピンがかかる
等々です。
結果、現代風の大きく上にラケットを跳ね上げる、両腕が翼のように跳ね上げる、ボールにキレがありスピード感もある現代的な片手打ちバックハンドになっているように感じます。
また、打点が少し手前の取れるということは「それより前の打点でも打てる」ということです。
「”基本”こういう打ち方で打ちたい」と書いたのは、
片手打ちバックハンド(片手程ではないが両手打ちも同様)は打点位置に関する許容範囲が狭いので基本とする形以外でも打てる幅が必要だから
です。
低いボールを持ち上げる、クロスに打つ、ストレートに打つ、高いボールを打つ、様々な対応方法を考慮しておく必要があります。
打点が”少し手前の取ってもしっかり打てる”というのは片手打ちバックハンドに必要なそういった対応の幅を広げてくれるし、これらの打ち方自体そういった余地を含めた体の使い方になっていると考えています。
打点が合わなければ即ミスでは厳しいですからね。
因みに、シャポバロフ選手はフォアハンドの方がボールスピードも回転量もあるでしょうがバックハンドほどボールにキレを感じないのは打ち方に無駄が多いからかなと思います。左利きなのでフォアはスピン多めで右利きのバックを突く感じですがこれでフォアに威力があったらかなり脅威な選手だと思います。
現状、試合ハイライトの映像で取り上げられるのはバックハンドのウイナーが多いですからね。
片手打ちバックハンドを”かっこよく”打つには
私は、最初に述べた“フォアハンドに対するバックハンドの特性”を考えれば、
両手打ちバックハンドも片手打ちバックハンドも体の捻り戻しによる下半身と上半身の連動、及びそれに合わせての腕の引きによりラケットをテイクバックの速度ゼロ状態から急激に加速させる理屈は変わらない
と考えています。
両手打ちはフォアハンド同様、
非利き手の自由度 (腕の各関節は体の中心から外より、外側から中心方向に向けて柔軟に曲がる) 故にインパクト前後の調整はしやすい
ですが、ラケットの加速がスイング序盤の“腕による引き” (インパクト時ラケットでボールは押せない) であると考えれば
「両手打ちバックハンドの方が”打つ”のは簡単でもしっかりボールを打つ、打ち方をマスターするという意味では両手打ちも片手打ちも大差ない理解が必要」
じゃないでしょうか。
実際、
片手打ちバックハンドをしっかり打てる方なら両手打ちバックハンドも普通に打てるでしょうが、コーチ経験等のない方ならその逆は難しい
でしょう。
両手打ちバックハンドで打っていても
「”利き手の引きによるラケット加速”を考えずに”非利き手による調整”が主となっている。結果、フォアハンドほどボールに威力が出ない」
方が多いのではないか?と想像します。
※繰り返しになりますが、両手打ちバックハンドをしっかりマスターできている方なら、体の使い方からスイング初期の加速が十分できていて打つボールにも片手打ちに負けない威力があるはずです。ラケット速度を活かし自分から打っていくのに向いている片手打ちに対し、両手打ちはカウンター気味に打つのに向いていると言ってもです。
ボールを飛ばす理屈から考えれば、片手打ちバックハンドも両手打ちハンドも同じような手順で打てるようになる (=同程度の時間でマスターできる。片手打ちは難しいから辞めろとはならない)
と考えますが、片手打ちバックハンドは
『それまでの生活・運動経験で同じような体の使い方をしていないから自分で実感しづらい』
のが大きく
「その理解は普通に教わるだけでは難しい。自分で考えないと理解の入り口にも立てない」
です。
それが本当の意味での片手打ちバックハンドの難しさかもしれませんね。
片手打ちバックハンドをかっこよく打ちたい方は今回書いたようなことも含め自分で色々考えてみるべきでしょう。
「自分のテニスを上達させるのは結局自分自身。コーチや周りの人ではない」
ですからね。