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グリップが厚くないとスピンがかからないという話 (テニス)

tennis forehand

グリップが厚くないとスピンがかからない、グリップが厚いほどスピンがかかるという話

テニスを始める際、フォアハンドのグリップは “セミウエスタングリップ” 位が標準と教わるでしょうか。ただ、その後、トップスピンが打てるようになると「グリップが厚くないとトップスピンがかからない」とか「グリップが厚いほどトップスピンがかかる」とかいう話でグリップを厚くしてく人も多いかと思います。人によってはウエスタングリップを通り越したエクストリームウエスタングリップとか言われるグリップで打つ方もいますね。

でも、なぜ、グリップが厚い方がトップスピンがかかるのでしょうか?

“グリップが厚い方が力が入りやすいから” と説明されたりしますが私は正直説明になっていないだろうと思います。

「力が入る = 押せる? でも、なぜ押せるとスピンがかかるの?  押せるということとラケットスピードが上がることの違いは何?  押せなくてもラケットスピードは上げられるよね??」という具合です。

まず薄いグリップで打つフォアハンドを考える

比較のために薄いグリップの例としてコンチネンタルグリップでフォアハンドを打つ場合を考えてみます。

コンチネンタルグリップでフォアハンドを打つ場合、グリップが薄いことで“打点位置は体の真横辺り、腕とラケットは一直線に近い状態” になります。

テニス コンチネンタルグリップで打つフォアハンド

ボールにトップスピンをかける方法

あまり考える機会がないですが、“ボールにトップスピンの回転がかかるのは物理的な現象” です。

発生する条件としては、“ボールに上側の端に他の位置よりも偏って力を加わること” であり、例えば、“ラケットをボールの下側から上側に向かってスイングする”ことでそれが可能となります。

そして、フォアハンドでラケットをスイングする際に可動する腕の機能を考えてみれば、関節は「肩」「肘」「手首」の3箇所です。(指の関節はラケットを握る) 

つまり、ラケットをボールの下側から上側に向かってスイングする方法としては、

腕を使ってラケットを物理的に上方向に持ち上げる方法としての、

1.肩の関節を使って上腕を持ち上げる

2.肘の関節を使って前腕を持ち上げる

3.手首の関節を曲げる

の3つと、

4.前腕を回転させる(プロネーション)

があると思っています。

 

1~3はこういうことです

テニス コンチネンタルグリップで打つフォアハンド

テニス コンチネンタルグリップで打つフォアハンド

4はこういうことです

テニス コンチネンタルグリップで打つフォアハンド

テニス コンチネンタルグリップで打つフォアハンド

見て分かるように、どちらの動きも

ボールにトップスピンをかけるラケットの動きとしては十分とは言えない

です。

特に4のプロネーション動作ではラケット面を伏せてしまっており回転をかけるどころかボールが当たりにくくなってしまいます。

プロネーションとラケットの動きの関係

プロネーションは前腕にある2本の骨が捻れることで起きる前腕の回転の内、ニュートラルの位置から手の甲が上を向く方向 (胸側) に向けて回転することです。

前腕の回転 スピネーション、プロネーション

私は、「プロネーションを使ってボールにトップスピンをかけるには “前腕とラケットの間に角度が必要だ”」と考えています。この角度があることで初めて “プロネーションによりラケットヘッドが大きく動く” からです。

テニス プロネーション

テニス プロネーション

前腕とラケットに角度が付かない一直線になった状態では、プロネーションにより前腕を回転させても “ラケットはグリップの延長線上にあたる中心線を軸にクルクルとラケット面が回るだけ” でラケットヘッドは動きません。

テニス プロネーション

ラケット、中心軸を中心に回

コンチネンタルグリップで打つフォアハンドでは、打点の位置と高さの関係で上の図のように前腕とラケットに角度を付けることができず、下図に近く前腕とラケットは一直線に近い状態になります。

このためコンチネンタルグリップでフォアハンドを打つ際にトップスピンをかけようとする場合、“腕の機能である、肩、肘、手首の機能を使ってラケットを上方向に持ち上げる” “膝の曲げ伸ばしでラケットを持ち上げる” 等を使うしかありません。

ただし、“ボールを飛ばすためにラケットはボールの打ち出し方向に振らないといけない” ので、前方向に振る動きと上方向に持ち上げる動きは運動方向の違いから同時に行うことが難しく、妥協案としては「ボールの打ち出し方向、角度よりもやや上向きの角度のラケットを斜め上に振っていく」こととなります。

ボールの打ち出し方向、角度よりもやや上向きの角度のラケットを斜め上に振っていく

つまり「プロネーションではなく、主にスイング角度の工夫でトップスピンをかける」ということですね。

前述の通りトップスピンがかかるのは物理現象ですからこれでも回転は発生します。

ただ、打ち出し角度とスイング角度のズレが推進力のロスになる要素にもなりますし、スイングスピード自体上げづらいという点もあります。

厚いグリップで打つフォアハンドを考える

一方、グリップが厚くなってくると前述の “前腕とラケットとの間に角度を設けることが自然とできる” ようになります。グリップの違いで打点が体から前方向に移動することによりこの角度が発生するからです。

厚いグリップで打つフォアハンド

ボールの打ち出し方向に向けラケットを “前方に” スイングしている中で前腕をプロネーションさせることでスイング方向を維持したままラケットヘッドだけを持ち上げることが可能となります。

厚いグリップで打つフォアハンド

腕を使ってラケットを物理的に上方向に引き上げている訳ではないので、ラケットを前方に振るという運動方向に矛盾が生じず、“ラケットスピードを維持したままトップスピンをかけるということが可能に”なります。

エネルギーを加える方向性が異なる飛びと回転。

前に向かってボールが飛ぶエネルギーを加える事 (ボールを飛ばすためにスイングしエネルギーを発生さているのだからこちらが主) とラケットを引き上げる動作でボールに回転を加える事が矛盾しないように身体の機能をうまく使う事だと思います。

tennis forehand

プロネーションは慣性の力で動くラケットに引っ張られる形で自然と起きる

また、この前腕のプロネーションは自分で意識的に起こす訳ではないと考えます。

物体であるラケットには慣性の法則が働きます。

重力と速度を持って進むラケットは慣性の法則が働き、その直進運動をし続けようとします。

ラケットに働く慣性の法則 ラケットに働く慣性の法則

勝手に前進していくラケットに対し、「腕を捻じる、プロネーションさせる」とか「ラケットを引き上げて回転をかける」とか、腕の各部位の個々の動作が意識の中心になってしまうとせっかくラケット速度は落ちる (スイングが緩む)し、本来安定して進んでいくはずのラケット軌道を毎回ゆがめてしまう要因になります。

「脱力」が魔法の言葉の様に言われますが、要は「リラックスして打て」という事です。

ラケットが勝手に進んでいく動きを操作で邪魔したくないです。

tennis forehand

でも、厚すぎるグリップにはマイナス面がある

では「グリップが厚いほどスピンがかかる」という点についてです。

確かにグリップが厚いほど、打点位置における前腕とラケットとの間の角度は自然と90度に近くなります。

厚いグリップで打つフォアハンド

ただ、打点がより前方に移動し体から離れることで以下のマイナス面が生じると考えられます。

1. 初期加速の速度はどんどん低下していく

ラケットの加速度は “テイバックからスイング開始後の暫く、つまり初期加速時が最も高く、初期加速が過ぎた時点、ラケットが手や腕、身体を追い越して時点から “低下” すると考えれます。

tennis swing tennis swing

ラケットの初期加速は「グリップ側が手に引かれる」事で始まります。手や腕を追い越ししまえば「引かれていた」エネルギーの供給が無くなってしまうからです。

2. 打点が前になる事で「ラケットをボールに当てる」動作が出てくる

グリップを厚くすることで打点が身体の前、身体から離れていくと「初期加速のエネルギー源が無くなってからボールに当たるまで距離的、時間的空白ができる」という事になります。

tennis swing tennis swing

打ち方はともかく、打点が身体に近ければ「初期加速の勢いのままラケットとボールが当たれば良い。何も考える必要がない」です。ハーフバウンドやライジング打ち等はこれに近いものがあります。

tennis forehand

逆に初期加速からボールを打つまでが長いと、初期加速の収まった段階から「ボールに近づけていく。ボールに当てる」という操作が加わる、別にそういう段階が発生する懸念があります。

それを解消するために特に厚いグリップを使うプロ選手には「打点が前に長くなる分、同じだけ身体より後方に大きなテイクバックを取る」といった工夫も見られます。

Embed from Getty Images

身体から遠い位置から大きなスイング、コンパクトで瞬間的な初期加速の代わりに身体を大きく使って少し少し時間をかけた初期加速を取る事でインパクトまでの距離が長い点を感覚的、時間的、距離的にカバーしている感じです。

身体を基準に前と後ろでバランスを取っていると言えば良いでしょうか。

こういった点を認識しないまま「厚いグリップで打つ方が回転がかけやすい」「厚いグリップで打つ方が打ちやすい (身体の前、腕を前方に伸ばしたような状態で見られる、支えられるから)」といった点だけで続けてしまう、悪く言えば「慣れてしまう」とマイナス面ばかりが目立つテニスになる気がします。

極端にグリップで打つ人のスイングを見ると

「ラケットヘッドは大きく引き上げられていて回転もかかってるように見えるけどラケット速度はあまり速くなさそう (「シュ」ではなく「ブーーン」って感じ) だし、飛んでいくボールにも速度がない」

と感じる事がたびたびあります。

テニス ワイパースイング

※それがその人が築いてきたテニスですから「慣れる」という面も含めてダメというは全くありません。

また、軟式テニスに見られる肘をロックして背中側に大きくラケット面が入るテイクバック、身体の周りをぐるっとラケットが回ってくるスイングも、ラケットの初期加速にはマイナス (身体に近い位置から両足や身体の力を使って「シュ」と加速した方が効率が良い) だし、大きな円軌道になる事で「当たりづらい」「咄嗟の場面での振り遅れ (タイミングが合いづらい)」等の要因にもなると思います。(繰り返しますがダメといった事を言いたい訳ではありません)

細かい話はともかく「腕の筋力は強くない」は共通した理解だと思います。

身体は回転させてもラケット軌道は短いと直線にした方が当たりやすいし、加速も無駄になりにくいでしょう。これを腕ではなく足や身体の力を使って初期加速を作るという事です。

tennis swing tennis swing

 

個人的には、あまり厚くないグリップで打点を体からあまり離れない位置に取るのがよいと思っています。

技術的に難しい面はあるのですが、個人的には “セミウエスタングリップ位の厚さのグリップを用いて、テイバックからのスイング開始で十分加速させたラケットの速度が落ちない範囲の体から遠くない位置に打点を置くのがボールに伝わるラケットの運動エネルギーを有効に使えるため望ましいだろう” と考えています。

スイングスピードが速い範囲で打つことになるので、ラケットが大きく動いている、つまりボールを正確に捉えにくい要素になる訳ですが、腕や手の操作でラケットをボールに当てようとせず、ラケットに働く慣性の力を活かし、それを補佐するような体の使い方ができればラケットは遠心力等の効果もあり自然と安定した軌道を描くようになりラケットスピードがあってもボールへの当たりづらさを回避することが可能です。

そういう打ち方をしている例がフェデラー選手やナダル選手だと思っています。

フェデラー選手の練習風景

ナダル選手の練習風景

フェデラー選手やナダル選手はラケットスピード、特にラケットヘッド側の速度を十分に加速させているので体の回転速度は緩やかでスイング途中でラケットヘッド側は腕や体の位置を追い越していくのが分かります。決して一生懸命体を回転させようとはしておらず余裕があります。

厚めのグリップで打つのであれば

一方、厚めのグリップで打つことで打点付近のラケットスピードがやや落ち着いた状態で打てるので “打点において正確にボールを捉える” ことがやりやすい、イメージしやすいと感じる面はあります。スイングスピードが犠牲になる可能性がある訳ですが人によっては打ちやすいことが重要と感じることもあるでしょう。

その場合は、必要以上にグリップは厚くせず、打点位置も体から離しすぎず、インパクト後もラケット、特にラケットヘッド側がが十分前方に進んでいけるマージンが必要だと思います。

マレー選手やジョコビッチ選手はウエスタングリップ程度の厚さですが、ボールに推進力を与えるためインパクト後もラケットヘッドが前方に進んでいく打点位置とラケットの動きを確保しています。決してラケットを引き上げる動きが主とはなっていません。

マレー選手の練習風景

前述した「打点を前に取る分、テイクバックや振り始めの位置を “前後” でバランスを取ってみる」といった点も参考になるかと思います。

ただし「テイクバックを大きく取ればよい」ではなく「身体の位置を基準に前後でバランスを取る。振り始め → 身体までと身体 → 打点までが感覚的、時間的、距離的に合うようにする」という点がポイントでしょうか。

インパクトの0.004秒の間にラケットは15cm弱も動いている

時速120km/hの速度を持ったラケットはインパクト時間である0.004秒の間にも約13.4cm前方に進みます。

tennis impact zone

“打点”とボールに接触するのは “空間の1点” のように言っていますが、ラケットがボールに触れている間でもラケットは15cm弱も動いている訳です。

tennis forehand

ボールを飛ばすためにもボールに回転をかけるためにもラケットスピードは重要ですし、インパクトでラケットはボールを打ち出す方向に対してそれなりに動いていく必要があります。

スイング方向と運動方向が異なる“ラケットを物理的に持ち上げる”方法ではなく、プロネーションを中心とした腕の機能で“打ち出し方向、角度に向けラケットを前方に振る中でスピンをかける” ならグリップの特性にも注目してうまく使う必要があると思います。

決して「グリップが厚いだけでスピンがかかる訳でもグリップが厚いほどスピンがかかるわけでもない」と思っています。