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インパクトにおける手首の形は固定? 背屈? (テニス)

背屈

インパクトにおいて手首の形をどうするべきかという疑問

フォアハンドストロークに関してよく聞く疑問に「インパクトにおける手首の形はどうすべきか?」というものがあります。

例として上がるのが「手首を固定すべきか」「もうひとつが手首は背屈状態になるのか」といったもので、固定というのは「手首を固める」というような意味で積極的に手首を動かさずスイング中も角度を固定した状態を保つようにして打つということですね。

「背屈」とは手首が曲がる方向の一つで甲側に曲げる動きのことですね。

手首の背屈

手首の背屈

まず、フォアハンドのインパクトにおける手首の角度について個人的な考え方を書いてしまうと、「全てのスイングにおいて、ラケットが物理原則により自然と動くのを妨げないようにすべきでインパクトにおける手首の角度は意図的に作ろうとする必要がない」と思っています。

もちろんこれには段階を踏むべきでいきなりそれまでの打ち方を変えろというのは難しいでしょう。初心者の方にはラケットをスムーズに加速させるのは難しいので”ラケットを握りボールに当てる”打ち方になります。スイングスピードが遅い状況では、テイクバックからインパクトまで手首の形を変えない(インパクトの形でスイングする)のも手段の1つです。

でも上達する中で変えていけるタイミングはあります。”スイングの中で一番速く動いているのはラケット”なのですからその動きを邪魔せずむしろ活かすという取り組みも考えるべきです。

インパクトにおける手首の形を考えるための参考情報 1. 平手打ち

いくつか例を上げてみましょう。

まず、現代的なフォアハンドを打つ際の上半身と腕の動きにフォーカスすると、近い動きだなと思っているのが「正面にいる人を平手打ち(ビンタ)する動き」です。

※海外の動画を例として上げますが実際に人で試したりしないでください。”エア平手打ち” で十分体の使い方は確認できます。

“正しい平手打ちのやり方” なんて聞く機会はないと思いますが、右利きなら右腕を広げて肘を90度近くに保ち、上体を捻るようにして振りかぶります。そこから手や腕に力を込めず、体を回転させながら水平に近く腕を振っていくと、回転に伴って腕がしなったように続き、手首は自然と背屈して腕に追従します。相手の頬に当たる時点で腕から指までが一直線に並び、頬を捉えた後、指は手首を追い越し、手首は上腕と一直線の「ニュートラル」の状態から「掌屈」側に曲がっていきます。

手首の掌屈

手首の掌屈

当たった瞬間に腕を止めず振り切るなら腕は左肩方向進んで行きます。頬に手の平をぶつけるというより「人差し指から小指にかけての拇指球から指にかけての部分」だけを頬に触れるようにすると振り抜くスピードが落ちず「ビシっ」という音が出やすいです。筋力がある人は “手の平全体” を頬にぶつけるようにした方が威力はあるでしょうが振り抜くスピードは上がりません。

インパクトにおける手首の形を考えるための参考情報 2. ピッチャーの投球

次におなじみの「ピッチャーの投球」を考えてみます。

ピッチャーはボールを軽く持ち、握りしめることはありません。意図したリリース位置までボールが飛び出すのを防ぐ程度に指で抑えるといった所です。腕に力を込めたり指に力を入れたりすると腕は強く振れないしボールに回転もかけづらくなります。また、ボールがリリースされる瞬間、最後は指だけがかける状態になりますが、腕を振る中で手首は甲側に自然と折れた「背屈」状態になっています。

ダルビッシュ投手の投球フォーム

軟式や硬式のボールを投げたことがある人は分かる通り、腕を振ってボールを投げる際に手首を背屈させようとは考えませんし、腕を振る中でこの位置に来たらボールを離そうとも考えません。リラックスして腕を振りキャチャーミット目掛けてただ「投げる」だけです。

力のかかっている指が離れると手首は自然と「掌屈」方向に曲がりますね。

これらのことから分かること

これらの2つの動作を考え、比較して分かることは、

「リラックスした状態で腕をしっかりと振ることが出来れば、腕の速度上昇に伴い手首は自然と背屈し腕に追従する」

「力を作用させる点(頬、リリース位置)を過ぎれば、加速した手は腕の位置を追い越し、手首の背屈は解消されニュートラル位置から掌屈方向に曲がっていく」

ということです。手の平にも「慣性の法則 (止まった物体はその場に留まろうとするし、動いている物体は動き続けようとする) 」が当てはまるからです。

これらの事をテニスに置き換えると

「インパクトは、スイングで生じる慣性の法則によりラケットが動いている中の一瞬である。その時点で手首の角度がどうあるべきかを考える必要がない。正しく体を使いリラックスしてスイングし、ラケットに働く慣性の力を妨げない事が重要である。」

ということになります。

平手打ちや投球動作に限らず人が自然に行う動作の中で「手首をこのくらい背屈させよう」と考えることはありません。

ラケットに働く慣性の力という話

物体であるラケットには慣性の法則が働きます。

電車に乗った際でおなじみ、動いているものは動き続けようとし、止まっているものはその場に留まり続けようとするという現象です。

テイクバック時、速度ゼロのラケットはその場に留まり続けようとしますが、ラケットはグリップから手に引かれ、スイング方向にグリップから進み始めます。

ただ、手の影響を直接的に受けないヘッド側はその場に留まり続けようとするので身体に回転に伴い腕の位置が動き、結果的に手の位置が動く事でグリップ側から引かれる力とスイング軌道反対方向にヘッド側は手を引っ張り続けます。

ラケットに働く慣性の法則

この結果起きるのが「ラグ」と言われる初期加速時の手首の背屈であり、

サーブにおけるラケットダウンの状態だと考えます。

ラケットダウン

ラケットダウンの状態

腕や手がリラックスしていれば “引っ張られる” 事で自然と起きる現象ですから

「手首を甲側に曲げてラグを起こしパワーを出す」

「ラケットダウンの形を作る」

みたいなやり取りには疑問に感じるのです。

上で述べた投球時のダルビッシュ投手の手首の状態変化も重量があるボールを手に持っている事で慣性の法則が働いていると考えれば理解できます。もっと言えば我々の『手』にも慣性の法則が働きます。ビンタで手が甲側に曲がるのはそのためでしょう。

なぜインパクトにおける手首の形が気になってしまうのか?

ひとつ、テニスを教わる際に「インパクトの形はこう」「形」で教わることが「インパクトにおける手首の角度は何度が正しいの?」と言った質問に繋がると考えます。

テニス初心者の形にインパクトで腕や手、ラケットがどのような位置にあるのか確認するために「形」で教えるのは有効でしょうし、ラケットをスイングして正しくインパクト時の面を作る確認のため、インパクトの形に手首を固定して手出しのボールに当ててみるといったトレーニングもいいと思います。ただ、段階の話で、それをそのままストロークを打つ際の標準的な打ち方に反映させてしまうところに問題があります。

必要なのは「特定時点の形ではなく、リラックスした状態で正しく体を使いスイングできるようになる」ことだけです。

非常に厚いグリップで打つフォアハンドの場合は?

さて、もうひとつフォアハンドにおいて手首の角度が問題となる事例があります。それは「非常に厚いグリップと横向きのテイバックでボールを打つ場合」です。

現代的なフォアハンドにおいて、手や腕に力を込めずテイクバックするためにはラケットヘッドをテイバックします。ラケットも、腕で引くのではなく、構えの状態から上半身を捻った位置がテイクバックになります。テイバック完了時に非利き手を離すことで多少体から離れますが大きく動いてしまうことはありません。

フェデラー選手のテイバック

一方、横向きのテイバックでは、「腕でラケットを引く」ことでテイバックが完了するため、ラケットの重さを手や腕で支えないといけません。

昔風の腕でラケットをセットするテイバック (クリス・エバートさん)

手に持つ物体は体の中心から遠くなる程、重さを支えるのに力が必要となるため、この事がテイバックにおいて「手首を固める」事に繋がると思います。

特に軟式から硬式に転向された非常に厚いグリップを取る10代の女子選手で、回外(スピネーション)と手首の背屈によりテイバック時に背中側にラケットヘッドが入るケースを見ます。厚いグリップにより上腕と角度が付くラケットに対し、加速のために打点までの距離をかせぐことが目的と思いますが、結果、遠心力を使うように体の周りをぐるりとラケットを回すようにスイングする打ち方になります。

日比野選手のスイング

(※日比野選手がそういう打ち方だという意味ではありません。女子学生選手の写真は載せられないため)

以前にも書きましたが、遠心力を感じながらスイングするのはスイング軌道の安定に繋がりますがスイング速度的には影響を与えず寧ろマイナスに働きます。人が上にジャンプする直前一瞬姿勢を低くしてから飛ぶように、人の筋肉は動き出す直前に縮んでそれが伸びることで瞬発的に大きな力を出せます。長い半径で大きく長く動かすよりも、短い半径で瞬間的に加速させる方が強くボールを打つのには適しています。

問題はグリップの厚さよりも横向きになってしまうテイバック

私は軟式テニスの経験がないですが、映像等を見る限り、腕を伸ばした横向きのテイバックから上体を正面に向けながらラケットを振り、体が回転しづらい分、首に腕を巻き付けるようなフォロースルーでカバーしているように感じました。硬式の横向きテイバックに比べるとボールが軽いためか振り抜き部分が少しダイナミックですね。

軟式テニスのストローク

厚いグリップといってもボール自体は回転量が多くないフラット系であるのは軟式テニスの影響が大きいと思います。ボールが柔らかい軟式テニスでは回転をかけるよりボールを叩いて飛ばす方にスイングパワーを分配すべきだからですね。

厚いグリップでも手や腕に手に力を込めず上体を捻って戻す動きを使って強く腕を振ることは可能です。現に多くの男子プロがそういった打ち方をしています。ただ、横向きテイバックで非常に厚いグリップを用いると、テイバックで手首の形を固定してラケット重量を支え、瞬間的に力を出せない分、ラケットを大きく動かす遠心力でカバーしようとするためこういう打ち方となるのかなと思います。もちろん、自然とそういう打ち方になるというより、部活などで周りが皆そういう打ち方だからマネする内に身につく。そうやって打つ方が自然だと感じるようになるためだろうとも思います。

正直、「横向きのテイバックを基本とする限り、グリップと体の回転に関する潜在的な課題を克服するのは難しい」と思います。横向きテイバックでボールを打ってきた人がスタンスだけオープンにしても体の使い方は変わらず、体を捻って打つ現代的なフォアハンドが身についている人のそれとは明らかに違うのが分かります。

横向きのテイバックと厚いグリップで行える工夫

WTAツアーを回る海外の女子選手でも非常に厚いグリップで打つ選手は多く、WTAの選手自体の多くがフラット系のボールを用いますが、上記のような打ち方をする選手は居ません。(軟式テニスがないというのもありますが。)

個人的に厚いグリップの横向き系のテイバックでも打ち方を工夫していると感じるのがハレプ選手です。

 ハレプ選手のストローク練習

オープン系のスタンスで打っては居ますがテイバックで腰から上が一律横向きになるのが分かります。スタンスから上体までを撚るテイバックではありません。グリップも厚くテイバックも大きいのでラケットヘッドがかなり体から離れたところから振り始められますが、体の横辺りからインパクト、フォロースルーにかけて、体をネット方向にしっかり向けて体(肩)より前でしっかりラケットを支えてて押しこみ、プロネーションと手首を積極的に使う事でインパクト後もラケットヘッドが前方に動いています。本人はラケットヘッドを走らせることだけを考えているかもしれませんが、グルッと体の周りを回ったラケットがインパクト後に首に巻き付くようにフォロースルーするのとはヘッドの効き方がかなり違います。

因みに体を撚るテイバックと横向きのテイバックは異なる打ち方だと理解すべきで、どちらがいいというものでも、ミックスして使えるものでもありません。ただ、前者がマスターできてる人は後者でも打てます。(短いボールを前に詰めて打つ際等に使います。) 個人的には皆が現代的な打ち方をマスターすべきだと思いますが、一からきちんと学ぶことはせずカジる程度で取り入れようとする人はどっちつかずで上達には結びつかないと思います。

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