プロのフォームを参考にする
「初心者が参考にできるのはどの選手?」「どの選手のフォームを参考にするのがいい?」よく話に上がる話題です。
プロ選手のフォームはキレイで且つ強いボールを打ちますから、初心者に限りませんが参考にしたいと皆が思いますね。
正直、単純に選手を上げるだけならそう難しくはないと思います。
プロ選手のフォームは個性的に見えて基本的な体の使い方には共通点があるし、筋力や体の柔らかさなどの特別な要素を要求するフォームではなく、スムーズな打ち方をしている選手であれば参考にできるケースは多いと思います。
フェデラー選手もジョコビッチ選手も参考として例にあがる代表的な選手だと思います。
形だけマネるのではなく何故そういう打ち方になるのかを考える
ただ、この「参考にする」言い換えれば「マネる」にはいくつか注意点がある気がします。
1つは、何度か書いている「目で見える動きは体を動かした結果である」という事でしょうか。
ある選手の打ち方を見て「ラケットをこう動かしているからそれをマネしよう」と思っても、その選手がそう動いているのは決まったルールに基いて体を動かしている結果でしかありません。
本人はそう見えるようにと体を動かしている訳ではないという事です。
選手の体の使い方を理解し学ぶ事なく外から見える動きだけをマネするのでは、度々言いますが「有名選手のモノマネ芸」でしかないと思います。
子供の頃は思考が柔軟でモノマネをする中で自分なりにコツを掴んだりするのでこういうアプローチも有りですが、大人は目で見えるディテールの再現にこだわりすぎてしまいます。
マネてるつもりが他から見れば別物でしょうし、ある特定部分だけマネしても自分のフォームやスイング、テニス自体が全体的なレベルアップには繋がりにくいです。
大事なのは『本質。木で言えば枝葉のコツではなく、根や幹にあたる部分を自分なりに確立して育てること』でしょうか。
プロ選手でも男女でテニスはかなり違う
他の注意点としては「男子と女子のテニスの差」でしょうか。
初心者がテニススクールでテニスを始める際、大抵は「構えから横向きを作り、手でラケットを引き、手を伸ばしたテイクバックを作り、足踏みの要領でボールに近づき、体を正面に向けながら、斜め上方向に向かってラケットでボールを押しあげるようにフォロースルーを取る」といった指導をされるかと思います。

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最近は変わってきてるかもしれませんが、この教え方は私が知る限り20年以上前からあまりかわりません。
大雑把に言うと「横向きのテイクバックを作ってからラケットを押すようにボールを打つスタイル」です。
これは今でも女子選手のフォームではよく見られる形です。
ただ、男子プロのフォームはこれとは全く違います。
大まかには『ラケットはほぼ握りしめず腕は常にリラックス。
オープン(セミオープン)スタンスで上体をひねったテイクバック、ひねった位置がテイクバック位置なので手や腕でラケットは「引き」ません。ラケット重量を感じないようテイクバック時はラケットヘッドは立てている。
スイングに入る際、立てたラケットはグリップ側から引かれて倒れ始め、グリップ側から引かれる事でヘッド側は後ろから自然と追従。グリップを握らず腕も力を入れていないからこの現象が起き、上体のひねりを戻す事と腕の脱力でスイングスピードは上がる。
腕とラケットは脱力により体の周りをコマのように自然と回り、腕でラケットの上げ下げ等の動作はしない(そもそもできない)、腕はその長さ以上に前に行けないから、遅れてきたラケットヘッドはインパクト前後で手を追い越し、慣性の法則と遠心力で更に前に進んでいき、遠心力から手首、肘、肩を支点にクルッと周ってフォロースルーで利き腕反対側の肩方向に収まっていく。』
という感じです。

テニス雑誌では、初心者が参考にすべきフォームとして、様々な男子選手と女子選手のフォームを並列的に掲載し説明していたりしますが、恐らく解説される側もこの男女の打ち方の違いを十分認識した上で、説明の都合中、細かい点には振れずに選手のフォームの特定箇所(停止写真)に対して「この選手のこの部分を参考にしたい」と説明しているのだと想像します。
ただ、読んでいる側はそういう「割愛されている部分」について承知しているわけではないので「写真に映る形だけ」に注目してしまいます。良くも悪くも雑誌解説の難しい点かもしれません。
男女のテニスにこれだけの差が生じている理由として私が考えるのは、男子テニスでは、毎年のように新しい技術、才能、戦術を用いる選手が現れ、道具の進化もあり、テニス自体が物凄いスピードで進化を続けている事が考えられます。
特定選手ができる事は自分もできるようにならないと勝てません。
誰かが突出すると他が追従し1年後には皆ができるようになる、その繰り返しでこの20~30年程は進化が加速しています。
一方、女子では、昔のクラシカルなテニスから道具の進化とパワーテニスが導入されましたが、あるショットが得意な選手が居ても他はそれを自分のものにしようとはせず、あくまで各選手の特徴という範疇にとどまります。
仮に200km/h近いサーブを打つ選手が何人も出てきて上位を独占するようになれば、皆がサーブスピード向上を考えるし、それに対応するリターン技術も磨くと思いますが、サーブを武器にする選手は殆ど居ませんし男子ほど多彩で確立よくサーブを打つことができません。
基本的には皆が自分のテニスを磨く方向で歴史が進んでいます。
よく、男子選手のテニスはスゴすぎて参考にならない、女子選手の方が参考にしやすいという話を聞きますが、テニスの技術にプロもアマチュアもなく、基礎部分はプロが行っているような体の使い方を初心者のうちから身につけるべきだろうと思います。
(難しい説明を受けても最初は分からないので同じ動きをよりシンプルな理解でできるような説明の工夫は必要だと思いますけど。)
※「男子だから、女子だから」と区別したい訳ではありません。女子でも、ツアー参加選手全員が時速200kmのサーブを打つならそれをリターンする技術を全員が持つ必要があるし、相手を追い込みスニークプレイ (相手がこちらに意識を向けてないスキを付く) でネットを取って1発で決めるのを皆が使うなら自分も使うようになるでしょう。「勝つ」ために必要だからテニスは進化する。ただ、テニスの進化は「勝つ」以外の要素も生んでいる。身体の負担軽減や怪我の防止等です。だから「周りがやっていないのだから自分もやらなくて良い」でななく、我々も進化の恩恵を受けるために考える、やってみるのに損はないでしょう。
体の構造は同じ。体の効率的な使い方に初心者もプロもない
世界陸上の100m決勝、選手は皆同じようなフォームで走ります。”世界一速く走る”という目標の中で”個性”など介在する余地はないからです。
人の体の構造は皆同様で、速く走ろうとする事について一流の陸上競技選手も一般の人も違いはありません。一流選手なりのノウハウがあるとしても、速く走るための基礎技術にレベルは関係ないはずです。
そう考えれば、現代の道具の能力をより引き出せ、人の持つ体の機能を十分発揮し、現代テニスと言われるプレイスタイルを行う事を突き詰めている、簡単に言えば”テニスの進化を日々続けている” 男子選手のスタイルの方が参考にすべきだろうとは思います。
ただ、そういうテニスは理解も難しいし最初に述べたスクールで最初に教わる打ち方がずっと変わらない現状も考えると旧来からの打ち方で続けていくという事も選択肢としてはもちろん有りです。どちらでもテニスはできますから。
まとめ: プロの打ち方は参考にできる。ただし形ではなく何故そうなるのかを考える
長くなってしまいましたが、プロ選手のフォームを参考にする際に、「見た目の形に捕らわれずその形になる仕組みを理解すべき」という事、「男子選手と女子選手の打ち方は明確に違いがあり並列的に捉えてしまうと混乱する」という事を理解するのは大事なんだろうなと思っています。
気分転換ならともかく「表面的なモノマネ」はレベルアップに繋がりにくいはずですから、せっかく興味を持ったのならきちんと理解した方がいいだろうと思いますね。